全線復旧から 1週間後に登場した人気マンガとのコラボ列車「サニー号トレイン」。熊本出身の漫画家が震災復興を応援する(写真:塩塚陽介)

鉄道ジャーナル社の協力を得て、『鉄道ジャーナル』2023年10月号「帰ってきた南阿蘇鉄道 全線運転再開を慶ぶ」を再構成した記事を掲載します。

7年3カ月ぶりの再開に沸く駅・列車・沿線

熊本地震で第一白川橋梁などに致命的被害を受けた南阿蘇鉄道(立野―高森間17.7km)が、その復旧工事をすべて終えてこの7月15日、全線で運転を再開した。

地震が発生したのは2016年4月14日。被害が比較的軽かった中松―高森間7.1kmは震災発生年の7月から通学中心の輸送と観光トロッコ列車で部分運行を行ってきたが、アーチ橋で知られる第一白川橋梁の架け替えを含む立野―中松間10.6kmを復旧させての全線運転再開は7年3カ月ぶりとなった。

全線再開当日、始発列車は高森6時発の立野行き。まずは発車前に高森駅前で安全祈願が行われた後、MT-2003A+MT-3001の2両編成に、未明から長蛇の列をなした大勢の乗客と報道陣を乗せて発車した。この日は「全線運転再開記念1日フリーきっぷ」も発売されている。

運転再開区間の入口となる中松駅を筆頭に、途中の駅では人々が、「おかえり南阿蘇鉄道」と書かれた小旗を振って始発列車を出迎え、見送る。第一白川橋梁では最徐行をして乗客に復活した景観を堪能してもらい、終着の立野駅では駅頭に店舗を構える饅頭屋が名物の「ニコニコ饅頭」を下車客全員に配っていた。

高森6時29分発の二番列車は、今回の全線復旧を機に実施されるようになった、JR豊肥本線肥後大津への乗り入れ初列車であり、新たに導入されたMT-4000形2両編成が、やはり大勢の乗客を乗せて立野へ向かった。一番列車は、国鉄出身で南阿蘇鉄道では最もベテランの寺本顕博運転士(68)が、二番列車は熊本地震発生後に入社、すなわち同社が復旧を決断して路線存続が確定したことにより採用された玉目一将運転士(29)がハンドルを握っている。


阿蘇外輪山の中でも独特の険しい山容を見せる根子岳を背に高森を発車したMT−4000形。先頭には全線再開記念のマーク(写真:塩塚陽介)

また、当日は11時から高森駅で「南阿蘇鉄道全線運転再開記念式典」が開催され、その列席者が乗車する高森12時20分発の記念臨時列車も肥後大津へと運転された。式典では、まずは草村大成社長が「長期間支えてもらったすべての人に感謝したい。地域と協力しながら経営で結果を出したい」とあいさつし、続いて主賓として臨席した斉藤鉄夫国土交通大臣、蒲島郁夫熊本県知事が祝辞を述べ、岸田総理も「全国の地方鉄道のモデルにつながることを期待する」とビデオメッセージを寄せた。

特定大規模災害に国が97.5%を持つ新制度

当初、復旧費は65億〜70億円を要するとされ、費用の半分を国と沿線自治体両者で分担し、残り半分を鉄道事業者が負担する以前の制度の下では、年間売上高1億円規模の南阿蘇鉄道の復旧は到底無理であった。

しかし、国や県への働きかけの結果、地震翌年の2017年末に特定大規模災害等鉄道施設災害復旧事業費補助が創設された。三陸鉄道復旧時の特例法を正式に制度化したもので、上下分離などの一定条件を満たせば、復旧費用を国と自治体が半分ずつ負担し、さらに自治体分には国が交付税を措置することで実質的に国が97.5%、自治体が2.5%を負担、鉄道事業者は負担なしとなる仕組みであり、南阿蘇鉄道はその適用第一号に認定された。

この際、国の交付税措置の受け皿、以後の持続的経営の担保として県の参画が必須となり、これによって上下分離の下を預かることになった一般社団法人南阿蘇鉄道管理機構に熊本県が参画している。そのため、国や熊本県においても南阿蘇鉄道復旧は大きなエポックとなったのである。

式典を終えて記念列車が発車する際、不安定だった空模様が崩れて一時的に土砂降りとなってヒヤリとする場面もあったが、その後、高森駅ではお笑い芸人やアニソン歌手によるステージイベント、マルシェが開かれ、夜には花火大会も無事に開催された。立野、長陽、南阿蘇水の生まれる里白水高原、阿蘇白川、南阿蘇白川水源の各駅でもさまざまな催しが開かれたほか、JR豊肥本線への乗り入れ開始を記念し、大津町でも歓迎イベントが行われた。

南阿蘇鉄道の現有車両には、開業当初からの外観を残しつつもエンジン以外の主要機器を一新したMT-2000A形が1両(MT-2003A)、その後の増備で導入されたMT-3000形2両(流線形のMT-3001とレトロ車両MT-3010。車体形状は異なるが走行機器は同一)、トロッコ列車ゆうすげ号5両編成(前後のDB16形機関車でトラ700形2両+TORA200形の客車を挟む)、およびJR乗り入れを前提に新造され今年4月から営業に入ったばかりのMT-4000形2両(MT-4001・4002、新潟トランシス)がある。全線運行再開初日は一般気動車のみの運行とされたが、翌16日からの土休日は「トロッコ列車ゆうすげ号」2往復も全線運転を始めている。

また、MT-3010号については、熊本出身の漫画家で超人気作品『ONE PIECE』を描く尾田栄一郎氏が熊本県とタッグを組んで進めてきた「ONE PIECE熊本復興プロジェクト」の一環として、同作品に海賊船として登場する「サウザンド・サニー号」をモチーフに内外装をラッピング装飾し、7月22日から「サニー号トレイン」となった。

マンガ学科新設で高森高校への通学も増

MT-4000形は朝2往復の肥後大津直通列車にもっぱら充当される。それ以外の列車にはMT-2000形やMT-3000形がMT-4000形と合わせて使用されるが、3010号「サニー号トレイン」は露出機会を増やす必要があるため、木〜日曜日と祝日の高森9時10分発と立野12時07分発には1両で、ほかに午後の列車2往復に他の車両との併結運転で充当されることになっている。


全線運転再開後は、不通期間中は立野まで家族の送迎に頼っていた熊本方面への通学生の列車利用が戻ってきている。また、県立高森高校が全国初としてプロの漫画家を養成する「マンガ学科」を新設したため、広域から高森への通学も見られるようになった。運転再開で注目度が高まっているため日中の観光客利用も旺盛になっているが、その一方、車内での運賃収受に現金のやりとりがあるため、10分程度の遅れなども生じているようである。

(鉄道ジャーナル編集部)