GoogleはSamsungやQualcommと共同で、AndroidベースのAR(拡張現実)ヘッドセットを開発すると2023年2月に発表しました。しかし、この開発プロジェクトが早くも暗礁に乗り上げそうになっていると報じられています。

Google’s AR projects are reportedly facing even more setbacks - The Verge

https://www.theverge.com/2023/8/23/23843308/google-samsung-ar-mixed-reality-headsets



“Project Moohan” is Google and Samsung’s inevitable Apple Vision Pro clone | Ars Technica

https://arstechnica.com/gadgets/2023/08/project-moohan-is-google-and-samsungs-inevitable-apple-vision-pro-clone/



Samsungは2023年2月に開催された新製品発表会「Galaxy Unpacked 2023」で、GoogleやQualcommと提携してAR・VRヘッドセットを共同で開発するプロジェクトを発表しました。

SamsungとGoogleとQualcommが手を組んで新しいAR/VRを開発中 - GIGAZINE



しかし、経済メディアのBusiness Insiderによると、この共同開発プロジェクトは「Project Moohan」と名付けられて進められているものの、すでにGoogle社内では政治的争いの種になっているとのこと。

「Project Moohan」に詳しい関係者は、「SamsungがGoogleに対して、『Project Moohan』とは別に存在するGoogleのAR製品関連のハードウェア開発チームが、『Project Moohan』で共有した情報を基に競合製品を開発する可能性があるため、このプロジェクトの技術を知られたくないと申し入れた」と証言したと、Business Insiderは報じています。Samsungはすでにプロジェクトの主導権を握り始めているそうで、元従業員は「今回のGoogleとSamsungの提携では、Samsungが製品機能について決定権を握る可能性が高く、誰もプロジェクトの手綱を握れない状況に陥りやすいといえます」と述べています。

韓国の経済メディア・SBS Bizによると、AppleのVision Proの発表を受け、SamsungがARヘッドセットの生産開始計画を延期したため、GoogleとSamsungが共同開発するARヘッドセットは2024年半ばまで発表されない可能性があるとのこと。Google社内からも「世間を驚かせるようなARデバイスを開発するのには時間が足りない」という声も上がっており、ある従業員は「AppleのVision Proに迫るに十分な予算や余裕は明らかにありません」と語ったそうです。

Googleは10年以上にわたってARの分野で精力的に開発を進めていますが、ARハードウェアは2023年9月にサポートが完全に終了するGoogle Glass Enterprise Edition以降出ていません。それでも、Googleは2023年1月に「リアルタイムで文章を翻訳できるARグラス」などを開発する「Project Iris」を進めていることが報じられていましたが、このProject Irisも中止となり、ハードウェアよりもソフトウェアの構築に注力していることが2023年6月に報じられています。

GoogleがARヘッドセット開発プロジェクト「Project Iris」を白紙に戻したという報道 - GIGAZINE



さらに、Project Irisに携わったシニアプロダクトディレクターのエディ・チャン氏が2023年2月に、GoogleのARソフトウェア担当責任者であるマーク・ルコフスキー氏が2023年7月に、それぞれGoogleを退社しており、多額を長年投資して育ててきたAR関連の人材がGoogleから流出しているのも大きな問題です。Googleがこれまでに開発してきたAR関連技術が実用化されて世に出る計画にも大きく支障が出るとみられます。

それでもGoogleはARグラスの開発を完全に諦めたわけではなく、GoogleはARグラスでAIを使用する方法を模索しているとのことで、Project Irisのソフトウェアを単眼型のARグラス開発プロジェクト「Betty」や両眼型のARグラス開発プロジェクト「Barry」などに組み込むことを考えているそうです。