チュートリアル徳井が絶賛した女優・川添野愛。本人は“裏方向き”タイプ「この仕事をしていることが今でも不思議」
青山真治監督の勧めで女優デビューし、『贖罪の奏鳴曲』(WOWOW)、舞台『セールスマンの死』(演出:長塚圭史)、舞台『春のめざめ』(演出:白井晃)、映画『ミュジコフィリア』(谷口正晃監督)などに出演してきた川添野愛さん。
2023年6月には初のホラー映画『忌怪島/きかいじま』(清水崇監督)と映画『アトのセカイ』(天野裕充監督)が公開。『しゃべくり007』(日本テレビ系)に出演したことも話題に。
9月1日(金)には映画『緑のざわめき』(夏都愛未監督)、10月13日(金)には映画『鯨の骨』(大江崇允監督)の公開が控えている。
◆聖母マリア様のように演じてと言われ…
2021年に公開された映画『ミュジコフィリア』ではバイオリンに挑戦。
この映画は、著名作曲家の父(石丸幹二)と、若手天才作曲家として将来を期待される異母兄・大成(山崎育三郎)へのコンプレックスから、音楽とは距離を置いていた主人公・朔(井之脇海)が大学の現代音楽研究会の仲間との出会いで才能を開花させていくさまを描いたもの。川添さんは、大成の恋人で朔の憧れのバイオリニスト・小夜を演じた。
「あの作品は、バイオリンの練習が、とても大変でした。監督に『聖母マリア様みたいな感じでやってほしい』って言われたんですよ。『なんじゃそりゃ?』って思いました(笑)」
――まさに聖母という感じでしたね。
「そうですか。そう見えていたら良かったですけど」
――朔の憧れの存在であり、芸術家気質の大成の恋人で、包み込む優しい雰囲気が印象的でした。劇中で使用されたのは川添さんのお母さまのバイオリンだとか。
「そうなんです。母も父も子どものときにバイオリンをやっていて、それぞれの実家に何本かずつまだ残っていたので、バイオリン屋さんに見てもらったら、張り替えてちょっと直せば使えると言ってくれたので、使いたいなと思って。思いがけず親孝行になりました(笑)」
――川添さんご自身は、バイオリンは?
「まったく縁がなかったです。バイオリニスト役なのでレッスンをやったのですが、ものすごく難しかったです。私は多分弦楽器には向いていませんね(笑)。
何か吹いたり、叩いたりする系は昔から結構得意で、覚えるのも多分人より早かったし、得意という自覚もあったんですけど、弦楽器はダメだということがわかりました。いくらやっても感覚的にこうかというのがまったく出てこなくて。
先生が『バイオリンはとくに感覚で弾かなきゃいけないから、本当に小さいときからの積み重ねなんだよね。本当に無理があることをやっているんだから、できなくていいよ』って言ってくれたんですけど、一応バイオリストに見えないといけないので、4カ月ぐらい練習しました。
本番はプロの人の音(演奏)を使うんですけど、現場では鳴らしていましたから、一応音がちゃんと出ていたわけです。それを(山崎)育三郎さんが本当に毎日褒めてくれるんですよ。
『俺はやったことがあるからわかるけど、本当にすごいことだよ、野愛。弾けているよ』って言ってくれて。本当にそうやって私を上げて上げて、褒めて褒めて、伸ばしてくれようとしてくれて(笑)。
でも、もうバイオリンはしばらく見たくないなと思いました(笑)。撮影の後、部屋の片隅にずっとありましたけど」
――バイオリンはお母さまが喜ばれたでしょうね。
「母もですけど、おばあちゃんのほうが喜んでいましたね。おばあちゃんが買ってあげたバイオリンなので」
――川添さんが演じられた小夜さんは、男の人はみんな好きになるだろうなという女性でした。ご自身でご覧になっていかがでした?
「自分で観ると、『ああすれば良かった、こうすれば良かった』って、気になってしまうことばかりです。みんなそうなんじゃないかなと思いますけど」
――京都が舞台ということでセリフは京都弁でしたね。
「あれも本当に合唱団をやっていて培(つちか)われたものだったというか。私は譜面とか全然読めないので、多分耳で覚えていたんですよね、ずっと。
それが結構役に立っているというか、京都弁も音源をいただいて、それをずっと聞いていただけという感じだったので、方言で苦労したということはないですね。それは、合唱団で培われたものだと思っています」
◆小学生のときに観た『呪怨』がトラウマに
川添さんは、2023年6月に公開された映画『忌怪島/きかいじま』でホラー映画に初挑戦した。
この映画は、南の島を訪れたVR研究チーム「シンセカイ」のメンバーたちに、不可解な死や謎が次々と襲いかかり、「シンセカイ」の天才脳科学者・片岡友彦(西畑大吾)が、父の死をきっかけに島にやって来た園田環(山本美月)とともに真相を解き明かすべく奔走するさまを描いたもの。川添さんは「シンセカイ」のメンバーでのプログラマー・三浦葵役で出演。
「小学生のときに観た『呪怨』(清水崇監督)が怖すぎてトラウマになっていたので、ホラー映画はあまり得意ではなくて。完成しても観られないと思ったので、『責任持てないからやりたくない』って言っていたんです。
だけど、清水(崇)監督は、私の映像作品とか舞台を色々観に来てくださっていて、マネジャーさんにメールで感想を送ってくださっていたんですね。それを見せてもらったりしていたので、すごい丁寧な方だなと思って。信頼もできるし、清水監督と仕事をしたいと思って挑戦することにしました」
――『忌怪島/きかいじま』の台本を渡されたときはいかがでした?
「それぞれの人生もちゃんと描かれていたので、思っていたより結構人間ドラマなんだなって思いました。私は『呪怨』以外のホラー作品を観たことがなかったので、勝手な偏見みたいなのがあったんですけど、こういうタイプのホラーもあるんだと思って。
だから、やったことも観たこともないのにホラー作品が嫌いだと言うのは良くないなって、本当に反省しました」
――水の中に沈められたりとか、大変なシーンもありましたね。
「はい。でも、私は、ああいうシーンは結構燃えるというか、ワクワクしちゃうんです(笑)。大変なシーンって好きなんですよね。チャレンジするのが結構好きなんです。
『大丈夫?できる?』って言われるほど、『やってやるぞ!見てろよ』って思うというか(笑)。ワクワクしてしまいます。だから、『ラッキー』って思いました(笑)。
あの水に沈められるシーンは、水中担当のカメラマンさんが褒めて伸ばすタイプの方で、『うまい!』って言ってくれたので、まんまと乗せられて喜んじゃって(笑)。
私はプライベートではあまり何かに挑戦しようって思わないし、それこそ母からずっと言われていたように、多分すごい慎重派なんですけど、仕事だと何でもできる気がしてくるんですよね。それは役であって自分じゃないから、身までも自分じゃない気がして、川添野愛では発揮できない力が出せる気がするんです」
――憑依タイプというか、今の仕事に最適ですね。
「何か強くなれるんですよね。いつもいろんなことにワクワクしています」
――撮影で印象に残っていることは?
「奄美大島でロケだったんですけど、私は自然の中にいると、結構細胞が燃えるというか。自分が解放されている感じがするんですよね。それは昔から感じていて、私は自然が感じられるところに連れていかれるほどいいと自分で思っているので、すごく楽しかったです。
南の島独特のゆったりとした時間の流れが私には合っていて、時計をあまり気にしなくていいというか、めちゃくちゃ快適でした(笑)。
あの映画は、CGのシーンが多かったので、他の作品よりもワンシーンワンシーン、確認作業が必要だったりしましたけど、それもあってすごいコミュニケーションを取っていましたから、共演者の皆さんと仲良くなるのは早かったですね。
それは監督が今でもすごく喜んで言っているんですけど、撮影から1年経ってもみんなでご飯に行くくらい仲が良いチームです」
――撮影の合間の時間はどのようにされていたのですか?
「地元のスーパーに買い出しに行ったりしていました。みんなだんだんホテルの部屋を自分の家みたいに快適にしはじめて(笑)。私もお花を買ってきて飾りはじめたりしていました。つらいことは一つもなかったし、ホラー映画に対する考え方も変わったので良かったです」
©「緑のざわめき」製作委員会
※映画『緑のざわめき』
2023年9月1日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
配給:S・D・P
監督・脚本:夏都愛未
出演:松井玲奈 岡崎紗絵 倉島颯良
草川直弥(ONE N’ ONLY) 川添野愛 松林うらら 林裕太 カトウシンスケ 黒沢あすか
◆自分では「裏方向き」と思う
川添さんは、9月1日(金)に公開される映画『緑のざわめき』に出演。この映画は、福岡と佐賀を舞台に生き別れた3人の異母姉妹が、自らの力で居場所を切り開いていくさまを描いたもの。川添さんは、岡崎紗絵さん演じる菜穂子の親友・絵里を演じた。
「『忌怪島/きかいじま』で約1カ月の奄美ロケが終わった後、そこからその荷物のまま『緑のざわめき』の現場に行ったんです。佐賀県で撮影だったので、1回東京に帰るよりも、そのまま行ったほうがいいってなって、またそこでホテル暮らしが始まりました(笑)。
すごくタイトなスケジュールで皆さん撮影してらっしゃっていて、そこに私が途中から参加することになって。私は奄美ロケで東京にいなかったので、リハーサルもzoomで参加させていただいていて、監督ともすり合わせができていたので、あとはもうやってみようという感じで」
――絵里は友情よりも、男を優先させるという感じでしたが。
「絵里にとっては全部大事なんですよね。しかもそれを隠さないから、人よりそういう風に見えるだけで、ただただ裏表がなくて、自分の気持ちに本当にバカ正直なんですよね。だから多分周りの友だちも離れないというか。ただ男の子だけを優先している子だったら、周りも離れていくと思うんです。
『何で絵里はこんなことをしていても、周りが離れないんだろう?どうしてだろう?』って考えたときに、やっぱり絵里という人間が持っている根本の人の良さみたいなものかなと思って。本当に見えているまんまなので、そういうところが彼女の魅力だなと思ったんですよね。だから私は絵里が大好きだったし、愛しいやつだなと思って演じていました(笑)」
――好きな人のちょっとしたことで一喜一憂して素直な子ですよね。
「本当に(笑)。何か自分がこれまで見たことがない仕草とかをしていたので、完成した作品を観て、『こういうことをするんだ』みたいな発見もありました」
――登場人物は癖があるキャラクターが多かったですね。
「そうですね。監督的には、多分そこを結構はっきり提示したかったんじゃないかなと。劇中、黒沢あすかさん演じる芙美子の『きっと全部、自分に折り合いをつけるための旅なんよ』というセリフが、私は初稿で読んだときからずっと印象に残っていたんですね。
そうしたら、ポスターにもメッセージとして載っていて。それぞれのパターンをちゃんと見せたかったというか、きっと『それであなたはどうですか?』ということなんじゃないかなって、私は勝手にずっと思っていたので、見事にそういう映画になっているなと思いました」
――親が違う3姉妹で、3番目の子は父親が無理やりという感じでできたという難しい設定でしたね。
「はい。それは、監督自身がやっぱり女性であることに対して、すごく掘り下げて考えてらっしゃっていて。そういう意味でも、多分避けて通れない表現だったんじゃないかなと思います」
©「緑のざわめき」製作委員会
――後半では衝撃的なシーンもありましたね。
「私は、すごく爽やかで可愛いらしい高校生の杏奈と透推しだったので、あのシーンを観るのは結構きつかったです。でも、それが現実というか」
――現実は思い通りにはいかないし、いろんなことがありますからね。
「そうですね。しかも、ここ数年で、『性』に対することや社会的な注目度がどんどん加熱していて。だから、作品を出すときも、人前でしゃべるときなどもそうですけど気は使いますね。
いろんな考えの人がいるということを、もっとみんながわかってくれたらいいのになとは思います。『誰が良いとか、誰が悪いとかじゃなくていいじゃん』って思うんですけど、そういう風にならないじゃないですか。カテゴライズしたがるというか。何かそうやって安心したいんだろうなって思う。
でも、舞台あいさつとか取材は、言葉で伝えられるチャンスだとも思っているので。すごくありがたい機会だなと思います」
――エゴサーチなどはされるのですか?
「まったくしないです。自分に本当に興味がないんですよ、私。演じる役にはめちゃくちゃ興味があるんですけどね(笑)」
6月5日に放送された『しゃべくり007』では、チュートリアルの徳井義実さんが、約13年前、川添さんがまだ杉並児童合唱団に在籍していた15歳のときに『世界一受けたい授業』(日本テレビ系)に出演した川添さんを見て、「合唱団の中に一人だけ明らかに華のある人がいた」と絶賛していたことが話題に。
7年前に『衝撃のアノ人に会ってみた!』(日本テレビ系)に「もう一度会いたい美女」として紹介されたことも。
――『衝撃のアノ人に会ってみた!』に出演されることになったのは?
「私は合唱団を高3で辞めたんですけど、大学に行っていたときに『合唱団のときに出演していた番組の女の子を探していて、我々が見つけたので、ちょっとテレビに出てくれませんか』みたいなお話が来て。『どこからどうやって探したんだろう?』って思いました(笑)」
――合唱団が放送された映像を観て、川添さんにたどり着いたわけですよね。
「はい、多分。その団体を探り当てて、そこで映像を観せて、『この子は誰ですか?』って聞いたら、先生が『川添野愛という子です』ということだったみたいです」
――そして、今年6月には『しゃべくり007』に出演。番組レギュラーの関係者として紹介されましたが、徳井(義実)さんがすぐに反応して「一人だけオーラがあって違っていた」とおっしゃっていましたね。
「合唱団で『世界一受けたい授業』に出たときは、多分15歳とかだったので、何年も経っていたし、よくそんなことを覚えてくれていたなあってビックリしました(笑)」
――現在、女優さんとして活躍されていると聞いて「いま女優さんやってはるんや」と感激していらっしゃいましたね。それだけ印象に残っていたのでしょうね。
「自分では、この仕事をしていることが今でも不思議です。そもそも、あまり向いていないと思っていて。ちょっと言い方が難しいんですけど、私は多分、自分が表に立ってどうこうよりも、裏方向きのタイプだと思うんですよね。
今は演じることが楽しいですけど、本当はゼロのところから組み立てていって、それを『よろしくね』って、表の人たちに託すみたいなことのほうが向いているなあって。大学の卒業制作をやって、より強く思ったので、いつかはやってみたいと思っています」
将来は監督もやりたいと夢は広がる。同じような役柄がほとんどなく、演じる役柄によってまったく別の顔を見せる川添さん。次はどんな顔を見せてくれるのか楽しみな人。(津島令子)
ヘアメイク:鈴木真帆