鎌田大地が得たチームメイトからの信頼 ラツィオ番記者が明かす開幕直前の日々
鎌田大地を知らない人に、一枚の絵ハガキで彼を説明するとしたら、表の写真は彼のラツィオでの初ゴールになるだろう。裏に書かれている文章はこんな感じだろうか。
「気温30度以上のなかで行なわれたラティーナとの親善試合。後半、ラツィオはすでに5−0で勝っていた。先発した鎌田大地は後半、ラツィオでの初ゴールとなる6点目のゴールを決める。ゴール前に上がり、左足のボレーで決めたものだった」
暑さに負けずにスタンドにいたサポーターも、テレビで観戦したサポーターも、このゴールを気に入った。彼らはSNSに「こいつ、悪くないじゃないか!」「やってくれそうな予感!」などと書き込んだ。スタディオ・オリンピコでの初戦で歌えるように、すでに鎌田チャントを作り始めた者もいた。
プレシーズンマッチでゴールを決めた鎌田大地(ラツィオ)photo by PA Images/AFLO
鎌田は、その仕事の流儀、自己犠牲の精神、相手をリスペクトする作法、すべてでラツィアーレ(ラツィオファン)の好意を獲得している。移籍してきたばかりの選手は、家探しをはじめとする煩雑な用事に追われ、当初は練習を休みがちだ。しかし鎌田は違った。初めて練習に合流したのは8月9日、チームがヨーロッパツアーから戻ってきて、最初にフォルメッロ(ラツィオの練習場)で練習を始めたその日からだった。一日も早くマウリツィオ・サッリのメカニズムに慣れたいという気持ちの表れだろう。
そしてそれが8月13日のラティーナ戦での初ゴールにつながる。また彼はこの試合で何度も相手DFを翻弄し、スタンドを沸かせた。ゴールの20分後には、チーロ・インモービレのパスを左アウトサイドで狙ったりもした。こうした親善試合ではアイデアが重要だ。右のサイドハーフとして起用された鎌田は、その点でもすでに自分の居場所を見つけたようだった。
サッリは口数の少ない監督だが、ピッチで起こったことはすべて記録している。キックオフ20秒後くらいで、すでに何かを彼の"聖なる"メモ帳に書き込んでいる監督の姿がテレビカメラに抜かれることも多い。ラティーナ戦でもそれは変わらなかった。サッリは大地について何を書き込んだのだろうか?
【「我々を助けてくれるはずだ】8月20日、ラツィオはまずアウェーのレッチェのスタジオ・ロベルト・ダヴェルサで開幕戦を迎える。レッチェは若い選手の多い難しいチームだ。鎌田が使われるのはまず間違いないだろう。なにしろクラウディオ・ロティート会長とサッリは何がなんでも彼をほしがったのだ。会長が初めて鎌田の名前をサッリに語った時、監督は即座にこう答えたという。
「すぐに獲りましょう」
この夏、多くのチームが鎌田をほしがっていた。ミランはもちろんのこと、ローマもインテルもそうだ。彼はフランクフルトでプレーし、多くのゴールを決め、2022年にはヨーロッパリーグ(EL)で優勝もしている。今シーズン、ラツィオはチャンピオンズリーグ(CL)でプレーする。そのため多い時には週に3試合もこなさなければいけない。鎌田はスペクタクルで見ごたえのあるプレーを目指す「サッリズム」の鍵となるだろう。
鎌田はまた、8年間にわたりラツィオの中心であり、サポーターのアイドルだったセルゲイ・ミリンコヴィッチ・サヴィッチの後継者として選ばれている。ミリンコヴィッチはその喜びようや中盤での存在感から「軍曹」というニックネームで呼ばれていた。彼の代わりは誰も務められない。皆がそう思っていた。
しかし鎌田はすでに彼のやり方で、人々を納得させ始めている。センターバックのニコロ・カサーレはすぐにこう彼を称賛した。
「一度、一緒に練習しただけで、彼がどんな選手かはよくわかった。彼はサイドハーフで、守備に手を貸し、プレーのビジョンもはっきりしている。そしてチャンスがくれば躊躇なく前に飛び出していく態度は好きだね」
同じく主力のフェリペ・アンデルソンはこう言っていた。
「強くやる気に満ちた選手だ。我々を大いに助けてくれるはずだ」
彼はすでにチームメイトらの信頼を獲得しつつある。
鎌田のほかにラツィオはFWのバレンティン・カステジャーノス、MFニコロ・ロヴェッラ、SBルカ・ペッレグリーニ、FWグスタフ・イサクセンも獲得した。カステジャーノスは昨シーズン、ジローナではなんとレアル・マドリード相手に1試合で4ゴールを挙げているし、ミッティランにいたイサクセンはドリブルが得意。ラツィオは昨シーズン、彼にELでゴールを決められており、それが今回の移籍につながった。
【イタリア語の習得も開始】チームの今シーズンの目標は、リーグでは昨年の準優勝をキープ、もしくは上位4チームに入ること、そしてCLでは決勝トーナメントに出場することになる。CLの目標は2021年、シモーネ・インザーギ監督時代にたどり着いたが、惜しくもバイエルン・ミュンヘンに敗れてしまった。しかし今回のチームは2年前よりも選手がそろっている。当時よりも上を狙うことも不可能ではない。
鎌田のイタリア語だが、習得に多少、時間がかかるのは仕方がないだろう。今のところチームメイトとは主に英語でコミュニケーションをとっているが、チームはすでに個人レッスンのイタリア語教師を彼につけている。ただ、ピッチで重要な言葉はすでに覚えたようだ。「passa(パス)」「 calcia(蹴ろ)」「copri(カバーしろ)」「accorcia(縮めろ)」「Sali(上がれ)」......。おかげでチームメイトとの息も合ってきているように見える。
チーロ・インモービレは彼のアシストを待っている。インモービレはリオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドを抑えて、2020年にゴールデンブーツ(シーズン最多得点)を勝ち取っている。ラツィオではこれまで196ゴールを決めており、セリエAでは歴代8位のゴールゲッターだ。7位のロベルト・バッジョの持つ記録からたった9ゴール少ないだけ。鎌田の役割はとても重要だ。
8月17日、鎌田は初めてラツィオの公式チャンネルに出場した。
「僕がラツィオを選んだのは、ここでならもっとサッカー選手として成長できると確信したからです。背番号8としても、インサイドハーフとしても、サイドハーフとしても、よりよいプレーをしていきたいです。ロティート会長と監督は僕をほしがってくれたし、CLでもプレーしたくてここに来ました。最高の選択をしたと思っているし、チームメイトから多くのことを学びたいです。またセリエAは日本でとても人気です。多くの日本人選手がここでプレーしてきました。セリエAとラツィオのすばらしさをすべての日本の人に伝えたいです」
ラツィアーレはすでに彼のことを気に入っている。あとはピッチでその力を証明するだけだ。