夏の移籍で戦力ダウン必至の5クラブ 有望若手の流出でダメージを受けるのはどこか?
シーズン途中に行なわれる、夏の移籍が珍しいものではなくなったJリーグ。優勝争いや残留争いなど、それぞれのクラブが置かれた立場こそ違えど、ここでの補強がシーズン最後の結果を左右する可能性もあるだけに、移籍動向からは目が離せない。
とりわけ今季は、その動きが活発だ。
ヨーロッパでのシーズン開幕に合わせ、夏に海を渡る選手が多いのは最近の顕著な傾向だが、今季は国内、すなわちJクラブ間でも主力級の選手が移籍を決断するケースが目立つ。Jリーグ30年の歴史においても、これほど活発な夏の移籍は初めて、と言ってもいいのではないだろうか。
しかしながら、移籍とは必ずしも補強だけを意味しない。ひとりの選手が動けば、新たな戦力を得るクラブがある一方で、既存の戦力を失うクラブも必ずあるからだ。それどころか、若い選手の海外移籍が増加の一途をたどる現状では、むしろ戦力を失うケースのほうが多いと言ってもいいのかもしれない。
そこで、今夏の移籍動向を整理し、J1クラブそれぞれの"収支"を検証してみることにしたい。はたして、例年になく活発な今夏の移籍は、各クラブにどんな影響を与えているのだろうか。
まずはマイナス収支、すなわち、戦力ダウンが心配される5クラブである。
今夏、ベルギーのシント・トロイデンに移籍したアルビレックス新潟の伊藤涼太郎
◆アルビレックス新潟
攻撃の中心であり、得点源でもあったMF伊藤涼太郎(→シント・トロイデン/ベルギー)を海外移籍で失ったのは、あまりにも大きな痛手だ。
今季はJ1第17節までのリーグ戦全試合に出場(うち先発16試合)していた大黒柱は、その間に7ゴールを挙げている。チーム最多のゴール数は、2位のMF太田修介(4ゴール)を引き離し、現在までのチーム総得点(24ゴール)のおよそ3分の1に相当する数である。
GKも加わり、低い位置からパスをつないで攻撃を組み立てる新潟は、それをどうフィニッシュまでつなげるかが得点増のカギ。そんな最終局面において稀有な才能を発揮してきた伊藤は、新潟が独自のスタイルを貫くために不可欠な存在となっていた。
背番号13が抜けた穴は、そう簡単に埋められるものではないだろう。
◆北海道コンサドーレ札幌
新潟同様、チャンスメーカーであり、ゴールゲッターでもあるMF金子拓郎(→ディナモ・ザグレブ/クロアチア)を海外移籍で失った。
金子は移籍までのJ1全21試合に先発出場し、88分に途中交代した1試合を除き、すべてフル出場。右サイドを主戦場に馬力のあるドリブルと精度の高いクロスで多くのチャンスを作っていただけでなく、左足から放つパンチ力のあるシュートを武器に、自らも8ゴールを決めてきた。
9ゴールでチーム得点王のMF浅野雄也とともに札幌の攻撃力を支えていた、背番号9を失った痛手は相当なものだろう。
策士であるミハイロ・ペトロヴィッチ監督が、この危機をどう乗り越えてくるのか。楽しみではあるが、大きな戦力流出であるのは間違いない。
◆横浜FC
昨季のJ2得点王であり、J1昇格の立役者でもあったFW小川航基(→NECナイメヘン/オランダ)が海外移籍。今季開幕から下位低迷が続く横浜FCにあって、孤軍奮闘が光っていたエースストライカーがクラブを離れた。
小川が今季挙げた6ゴールは、チーム総得点(17ゴール)の3分の1以上にあたるもので、貴重な得点源を失ったことになる。苦しい戦いのなかでは、ヘディングに強い小川が前線でターゲットとなり、うまく逃げ道を作ってくれてもいただけに、今後の戦い方に与える影響は決して小さくないはずだ。
加えて、抜群のスピードでスーパーサブ的な役割を果たしていたFWサウロ・ミネイロ(→セアラーSC/ブラジル)も、母国のクラブへと復帰。攻撃のオプションを失ったという意味では、こちらも痛い戦力減だろう。
◆名古屋グランパス
MF森島司(サンフレッチェ広島→)、FW前田直輝(ユトレヒト/オランダ→)、FW中島大嘉(札幌→)ら、積極的な夏の補強を行ない、プラス材料も少なくない名古屋だが、やはりFWマテウス・カストロ(→アル・タアーウン/サウジアラビア)の離脱は、かなり大きな痛手なのではないだろうか。
鋭いカウンターを武器とする名古屋にあって、スピードのあるドリブルで攻撃の推進力を生み出せるマテウスは、いわば替えの効かない存在。今季4ゴールと、チーム最多のFWキャスパー・ユンカー(11ゴール)にゴール数では及ばないものの、果たす役割の重要度はユンカー以上だったと言ってもいい。
名古屋が従来のスタイルを貫こうとするならば、Jリーグ屈指の強力助っ人を失った穴は小さくない。
◆横浜F・マリノス
主力中の主力を失ったわけではない。とはいえ、流出した戦力のレベルの高さを考えれば、かなりの痛手をこうむったのは、横浜FM。
MF藤田譲瑠チマ(→シント・トロイデン/ベルギー)が海外移籍、MFマルコス・ジュニオール(→広島)が国内移籍と、それぞれチームを離れた。
いずれの選手も今季は先発出場の機会が限られ、ベンチスタートとなることが多かったのは確かだが、長いシーズンを戦い抜くうえで不可欠な厚い選手層を保つには、重要な選手だったことは間違いない。昨季のJ1制覇にしても、彼らの存在があればこそ、だった。
これからシーズン終盤の優勝争いにおいて、この戦力流出がじわじわと効いてダメージになるかもしれない。