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昨年、「子どもの自殺」が過去最多となった。当然ながら、文科省は「子どもの自殺」に関する統計を公表している。筆者が情報公開請求をしたところ、どういう実態があったのか分析した調査(※1)を2017年度末に終了していたことがわかった。子どもの自殺を防ぐためには、しっかりとした分析が欠かせない。どうしてやめてしまったのか。(ライター・渋井哲也)

●文科省の調査は「自殺者数」が少ない

そもそも、子どもの自殺者数に関する統計は、警察庁・厚生労働省の統計と、文科省の「問題行動調査」(※2)の2つがある。

警察庁・厚労省の統計では、2022年は514人で過去最多だったが、自殺者数を比較すると、文科省の「問題行動調査」の数が少ない。たとえば、2021年度では、文科省調査では368人。警察庁調査を年度ベースに換算すると、454人で86人の差がある。

その理由の1つとして、文科省は「遺族が連絡しなければ、学校は児童生徒の自殺を知りえない」という認識だからだ。つまり、遺族が必ずしも学校に「自殺だった」と伝えないので、数字に違いが出るというのだ。

「学校が児童生徒の自殺を知りうるケースというのは、ご家族から連絡があった場合です。ご家族から情報共有がないと学校は知りえません」(文科省・児童生徒課)

しかし、文科省の「背景調査の指針」(※3)に基づいて、学校や設置者等による詳細調査の報告書や、遺族が請求した開示文書を筆者が調べたところ、児童生徒の自殺を警察からの連絡で学校が知ったとされる記述もある。

教職員の不適切な指導で自殺した児童生徒の遺族らでつくる「安全な生徒指導を考える会」のメンバーによると、児童生徒の自殺について、学校から説明はなく、そもそも統計をとられているという意識が遺族にはなかったという。考える会の発起人の1人で、北海道立高校に通う弟を亡くした、はるかさんはこう話す。

「遺族が伝えなければ、学校が知りえないというのは疑問です。私の弟が亡くなったときは、警察が学校へ第一報を入れています。その1時間半後、警察から家族に連絡がありました。そのため、文科省の認識と違っています。

また、自殺の背景に不適切指導の疑いがある場合、学校や教委側は、その要素を隠したがる傾向にあると感じています。そのため、教委は都合よく文科省に報告したり、しなかったりしているのではないか。結果として、文科省が実態を知りうる仕組みになっていないと思っています。

たとえば、弟が自殺で亡くなったことは、私たち遺族の求めに応じ、文科省は、道教委に『保護者の要望等があるなしにかかわらず、教職員の指導など、学校に関係する事案であることから、詳細調査をすべき』と指導しました。しかし、結局、道教委はいまだに、指針に基づく詳細調査をしていません」

●文科省の「実態調査」は2017年度末に終了していた

統計的な「問題行動調査」とは別に、文科省の調査の中には、実態を分析した「子どもの自殺実態調査」がある。筆者はこのほど、この「実態調査」に関する情報開示請求を試みた。

「実態調査」は、2011年度から2013年度末まで集計した「子供の自殺等の実態分析」として公表されていたが、その後はまったく公表されず、2017年度末で終了していることがわかった。つまり、2014年度から2017年度分は収集しただけ。どうして終わってしまったのか。

「『実態調査』は、児童生徒課で収集し、分析したものです。もともと恒常的に調査するというよりは、自殺対策のために活かすことが狙いです。調査の結果、ある程度傾向を把握できました。そのため、『実態調査』にかわって、今後は『事件等報告』を出してもらうことになりました」(文科省児童生徒課)

文科省は2017年4月、「実態調査」を終えて「事件等報告」をはじめるにあたり、事務連絡を出している(※4)。この中で、自殺の場合は、学校生活に起因する可能性がある場合や、全国報道で扱われうる場合は報告するよう依頼している。

「『問題行動調査』は、統計法に基づくものですが、『事件等報告』はあくまでもお願いです。また、『問題行動調査』は、遺族と学校との間で『調整』がついたものが出ているという認識です」(同上)

しかし、遺族の中には、学校や教育委員会から、報告内容について「調整」を図られたという認識はないと証言する人もいる。

「私たちの経験や認識と違っています。『考える会』のメンバーは、自殺対策に役立てるための統計をとっていることを学校側から説明をされたことはありません。学校側から、どういう事案をして処理されているのかも知りません。そのため、調整されたという認識はありません」(はるかさん)

●遺族「原因をできるだけ正確に把握してほしい」

子どもの自殺に関する実態把握そのものが、杜撰な状況といえるだろう。学校や設置者の調査結果も反映されるとは限らない。踏み込んだ調査をしない場合もあり、毎年のように約6割が原因不明(2021年度は57.8%)となっている。

調査委員会が立ち上がり、詳細調査されても、学校や設置者が、その結果を認めない場合や曖昧にしている場合、調査が年度をまたぐこともあり、必ずしも反映されない。

「学校側の基本調査と、調査委員会の詳細調査の結果が異なっていましたが、県教委は、どちらも尊重するという判断でした。『問題行動調査』は、家族が亡くなったケースについて、どこにチェックを入れているのか、遺族には知らされないために、県教委がどう報告したのかわかりません」(別の遺族)

ただ、文科省はより実態を把握しようと、2023年3月10日の事務連絡で、「事件等報告書」の運用を見直し、詳細調査の調査結果を提出することを求めている。

超党派国会議員でつくる自殺対策議連・こども・若者自殺対策推進本部も注目しており、今年6月、「考える会」に対して、自殺統計に関するヒアリングをおこなっている。

「2022年末に『生徒指導提要』が改訂され、教職員による不適切な指導が『不登校や自殺のきっかけになる場合がある』とされました。

また、2022年度の『問題行動調査』からは『自殺した子どもが置かれていた状況』に、『体罰・不適切指導』が入るようになりました。

統計のとられた方を見直し、原因をできるだけ正確に把握することで、同じような苦しみで亡くなる子どもを少しでも減らしていただきたいと思います」(はるかさん)

(※1)「子供の自殺等の実態分析」
(※2)「児童生徒の問題行動・不登校等生と指導上の諸課題に関する調査」
(※3)「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」
(※4)「『児童生徒の事件等報告書』による重大事件等の報告について」