子どものワンストップ支援センター、日本はたった2カ所…性被害の緊急対策に課題は?
ジャニーズ事務所の創業者・ジャニー喜多川氏(享年87)による性加害問題を受けて、政府は7月26日、子どもや若者の性被害防止のための緊急対策を公表しました。
緊急対策は、(1)加害を防止する、(2)相談・被害申告をしやすくする、(3)被害者支援の3つを強化するもので、相談窓口を周知したりワンストップ支援センターなどの支援体制を充実させたりする内容が盛り込まれています。
ただ、子どもの性被害にくわしい飛田桂弁護士は「相談・被害申告をしやすくする前に、子ども独自のシステムを作る必要があります」と話しています。飛田弁護士に聞きました。
●「窓口だけ」があればいいものではない
子どもの性被害について特化した取り組み自体は日本ではなかったので、緊急対策が実施されること自体は第一歩としてよかったと思います。ただ、今回の緊急対策は「こども・若者の性被害防止のための」という看板ですが、中身が「大人の性被害防止」のパッケージに子どもを足した形になっています。
相談窓口は「窓口だけ」があればいいものではありません。特に、子どもの性被害の場合は、その場で児相に通告するのかを検討したり、児相に通告しない場合には被害の事実確認をその場でおこなったりします。たとえば、レイプキットが必要だとなったら、すぐに使える場所に一緒に行かなければなりません。
アメリカには、虐待を受けた子どもたちに対応する専門家を1カ所に集めた「Children’s Advocacy Center」(通称CAC)が900カ所以上あります。一方、日本には子どものためのワンストップ支援センターが2カ所しかありません。子どもたちに被害を開示をしてもらうための仕組みができていないんです。
●通報後の検証は?
保育所などでのわいせつ行為についても通報義務を設けることが検討されているようですが、通報された後の検証が足りていないと思います。子どもを預かる施設で性被害が起きた場合、対応や調査に関する統一的なガイドラインがあるべきです。いじめと同じように、事実関係を明確にするための調査がおこなわれ、関係者に情報提供される必要があります。
行政が強制的に手を入れることが難しいとよく言われています。民間に対してできることには限界があると思いますが、子どもを預かるにあたって安心できる場所と示される認定制度のようなものが必要ですし、ガイドライン通りの再発防止策を取らなかった場合のペナルティーなども規定すべきだと思います。
●そもそも被害者の実態を把握できていない
子どもの性被害が大人と大きく違うところは、ほとんどグルーミング(手なづけ)がおこなわれていることです。子どもは自分に何が起きたのか、整理して話すことができません。また、「お母さん、びっくりしちゃったね」などの声かけでも、子どもの開示は止まってしまうことがあります。大人は子どもの言葉をきちんと理解できるようにして、その後どんな手順で何をすべきかを熟知していなければいけません。
「相談・被害申告への適切な対応のための体制整備」では、性犯罪を念頭にした体制整備が言われていますが、関係各省庁は、そもそも被害者の実態を把握できていません。実態を前提にした政策が作られないと本末転倒です。
子どもに対する性犯罪全体のうち、警察が関わるのはほんの一握りです。証拠収集も重要ですが、それ以前に子どもの安全確保が大切です。
【取材協力弁護士】
飛田 桂(ひだ・けい)弁護士
特例NPO法人子ども支援センターつなっぐ代表理事であり、司法面接者でもある。神奈川県弁護士会に所属し、児童相談所の非常勤弁護士、いじめ第三者委員会を歴任するなど、子どもに関する法律関係を専門とする。
事務所名:飛田桂法律事務所
事務所URL:https://www.hida-law.jp/