オールスターが明けたMLBの2023年シーズン後半戦も、大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)の活躍ぶりが目覚ましい。

 現地時間7月23日時点(以下同)で36本塁打と、自身初の本塁打王のタイトル獲得に向けて順調に歩みを進めるほか、打率(.302/ア・リーグ5位)や打点(77打点/同2位)でもア・リーグ上位に顔を出す。投手としても8勝と、今季のMVP獲得はすでに「当確」と言ってもいい躍動ぶりだ。

 そんななか、8月1日(日本時間2日)の移籍期限を控え、大谷トレードの噂が熱を帯びている。今オフに契約が切れフリーエージェント(FA)になる大谷が、エンゼルスでキャリアを重ねていくのか、さらなる高みに挑戦するために新天地を求めるのか。"二刀流スター"の一挙手一投足は、今や全米中を巻き込む一大トピックとなっている。


トレード移籍があるかどうかに注目が集まる大谷

 報道が過熱するアメリカでは、大谷の移籍候補として連日多くの球団の名前が挙がる。同地域に本拠地を置くロサンゼルス・ドジャースや名門ニューヨーク・ヤンキース、ほかにもテキサス・レンジャーズ、タンパベイ・レイズ、ボルチモア・オリオールズなど引く手あまた。終盤戦にかけての優勝争いだけでなく、今後5年、10年と球団のアイコンとしても期待できる大谷を欲するのは当然のことだろう。

 7月19日には、オークランド・アスレチックスで奮闘していた藤浪晋太郎が、オリオールズへトレード移籍している。このように、毎年MLBの移籍市場では後半戦に向けた戦いを見据え、シーズン途中に選手が電撃移籍する例が多い。

 日本人選手のシーズン途中トレードで思い出されるのが、2017年シーズンのダルビッシュ有(サンディエゴ・パドレス)だ。当時テキサス・レンジャーズでプレーしていたダルビッシュは、7月までに22試合に登板して6勝9敗、防御率4.01、148奪三振の成績を残していた。

 その年のトレード期限最終日10分前、若手選手との1対3という形でドジャースへの電撃移籍が決まった。ナ・リーグ西地区首位を走っていたドジャースから求められてのトレードだった。

 ダルビッシュはドジャースで迎えた後半戦、9試合に登板して4勝3敗、防御率3.44、61奪三振。シーズン合計では10勝12敗、防御率3.86と、負け越しはしたがふた桁勝利に到達した。奪三振数は209を数え、MLBで3度目となる"大台超え"を果たした。ドジャースの5年連続となるナ・リーグ西地区優勝に貢献したダルビッシュにとって、ここまでは「及第点」と呼べる働きだった。

 ポストシーズンでも地区シリーズとリーグ優勝決定シリーズに登板して2連勝、29年振りの優勝に貢献したが、最終盤にまさかの展開が待っていた。ヒューストン・アストロズとのワールドシリーズ・第3戦では1回2/3を投げて4失点、第7戦でも1回2/3を投げて5失点でいずれもKO。アストロズに3勝4敗で敗退したこともあり、このワールドシリーズを最後にシカゴ・カブスに移籍したダルビッシュにとっては、厳しいドジャースでの最後となった。

 ほかにも近年の動きでは、キューバ出身の"豪腕左腕"アロルディス・チャプマン(テキサス・レンジャーズ)が2016年シーズン途中にニューヨーク・ヤンキースからシカゴ・カブスへと移籍。ヤンキースで31試合に登板し、3勝0敗20セーブ、防御率2.01と、抑えとして安定感した投球を続けていたチャプマンは、カブスでもストッパーとしての活躍が期待されていた。

 その期待通り、28試合に登板して1勝1敗16セーブ、防御率1.01と抜群の投球を披露。シーズン通算で4勝1敗36セーブ、防御率1.55の成績でナ・リーグ中地区優勝に大きく貢献した。

 プレーオフでは地区シリーズ全試合に登板して3セーブ、リーグ優勝決定シリーズでも、4試合に登板してセーブこそなかったが3試合で無失点。迎えたクリーブランド・インディアンスとのワールドシリーズでは、5試合に登板して1勝1セーブ。カブスにとって108年ぶりとなる世界制覇の貴重な"ワンピース"となった。

 2012年のサイ・ヤング左腕のデビット・プライスも、シーズン中のトレード後に活躍したひとり。2015年にデトロイト・タイガースで9勝4敗、防御率2.53の成績を収めていたプライスは、トロント・ブルージェイズへと移った。

 その後11試合に登板して9勝1敗、防御率2.30とさらに輝きを増し、最終的に2チーム通算でア・リーグトップの2.45と、最優秀防御率のタイトルを獲得した。ポストシーズンこそ4試合で1勝2敗、防御率6.17と振るわなかったが、チームをプレーオフに導く原動力になった。

 今年の大谷がトレードとなった場合、ポイントになるのは「どのリーグに移籍するのか」ということ。

 かつて、サミー・ソーサ(元シカゴ・カブスなど)と本塁打王争いを繰り広げたマーク・マグワイアは、1997年にア・リーグのオークランド・アスレチックスで34本塁打を放ち、シーズン途中でナ・リーグのセントルイス・カージナルスへと移籍した。

 カージナルスでも51試合で24本塁打と量産。合計58本はメジャー全体でトップだった。しかし、リーグをまたいで移籍した場合は記録が合算されないため、ア・リーグでは56本のケン・グリフィー・ジュニア(シアトル・マリナーズ)、ナ・リーグでは49本のラリー・ウォーカー(コロラド・ロッキーズ)にそれぞれタイトルを譲ることになった。

 現在、大谷は36本塁打を放ち、ア・リーグではルイス・ロバート・ジュニア(シカゴ・ホワイトソックス)に8本差をつけて独走状態。それだけに、ナ・リーグのドジャースなどに移籍すると、マグワイアと同様にタイトル獲得への道が閉ざされる可能性が高い。大谷が本塁打王など打撃タイトルにこだわるのであれば、シーズン中のナ・リーグへの移籍は避けたいところだろう。

 MLBのトレード期限も間近に迫り、各球団がプレーオフ進出や優勝に向けてさらに活発な動きを見せることが予想される。その中で、全米中を騒がせる大谷がシーズン中に電撃トレードされることはあるのか。歴代の大物たちのように、後半戦の起爆剤となることがあるのか。今後も目が離せない。