大谷翔平の2023年シーズンはどこがすごいのか 鶴岡慎也は「再現性」に注目する
メジャーも後半戦がスタートし、大谷翔平にさらなる注目が集まっている。8月1日(日本時間)のトレード期限までに移籍はあるのかという話題で持ちきりだが、それも投打で圧倒的なパフォーマンスを披露しているからだ。日本ハム入団時の大谷を知り、今年3月に開催されたWBCでは侍ジャパンのブルペン捕手を務めた鶴岡慎也氏に、今シーズンの大谷翔平について語ってもらった。
現在、ア・リーグ本塁打王争い独走中のエンゼルス・大谷翔平
── メジャーに移籍後、目に見えて体が大きくなりました。「パワーから生まれる技術がある」を体現しています。日本ハムに入団した2013年当時は、まだ体は細かったですよね。
鶴岡 どれだけ技術を向上させても、その元になるのがパワーです。バットを速く振る能力、ボールを遠くに飛ばす能力は、体のポテンシャルから生まれると思います。大谷選手はそれを認識しているので、いかに体を大きくするかに主眼を置いているのでしょうね。シーズンオフのトレーニング姿がSNSなどでアップされていますが、かなり高い負荷をかけていました。
── 今年3月のWBCで久しぶりにお会いされましたが、どんな印象を持ちましたか。
鶴岡 見た瞬間「デカっ!」と驚きました。服を着ていても筋骨隆々なのがわかります。大きな体を維持するために、食べ続けていると思いますが、実際はものすごく大変だと推察します。
── 鶴岡さんはWBCでブルペン捕手を務めましたが、パワーがついた大谷投手の球質は日本ハム時代と変わっていましたか。
鶴岡 入団当時からすごかったですが、その時とは比較しようがないほど成長を遂げています。まったく別人の大谷投手が投げている印象です。メジャーであれだけ実績を残しているわけですから。
── 具体的にどのあたりが変わりましたか。
鶴岡 各球種のレベルが上がり、いい球をコンスタントに投げる"再現性"が高くなりました。それによって"引き出し"が格段に増えたと思います。たとえば、今季はじめに多投していたスイーパーが狙われ始めたと感じるや、臨機応変にスプリットやツーシームで打者を打ちとっています。とにかく投球パターンが豊富ですよね。
── WBC期間中も、トラックマンやラプソードを使ってボールを測定している姿を見ました。
鶴岡 回転軸、回転数、曲がり幅など、自分の感覚と数値が一致しているのかどうかの確認作業に使っていたと思います。
── メジャーは今季からピッチコム(サイン伝達機器)が導入されました。自ら球種のサインを出すなど、投球の組み立てはほぼ投手主導といえます。
鶴岡 ピッチコムに関する大谷選手のコメントを見たことがありますが、「ひとつ作業が増えるのでラクということはない。だが、あらゆるカウントにおいて、自分で考えながら投げるから楽しい。自分で決めて投げる責任もあり、言い訳できない」という趣旨のものでした。あのコメントを見て、やはり野球が大好きで、責任感ある大谷選手らしいなと思いました。
── 鶴岡さんとバッテリーを組んでいる時は、どのように取り決めされていたのですか。
鶴岡 私と組んでいる時は、投球前にミーティングをして、ほぼ打ち合わせどおりに投げてきた記憶があります。当時はストレート、スライダー、フォーク、カーブを投げていましたが、サインに首を振るタイプの投手ではありませんでしたね。
【本塁打の打ち損じがヒットになる】── "フライボール革命"によると、打球速度が158キロを超えて、打球角度が26〜30度だと、本塁打をはじめ安打が出やすいと言われています。今季30号目は、打球速度185.2キロ、打球角度29度で、今季のメジャー最長の493フィート(約150メートル)の特大アーチでした。
鶴岡 打球速度と打球角度は意識してやっていると思います。実際、彼はメジャーリーガーのなかでも打球が飛ぶ選手だというデータが出ています。大谷選手の場合は、本塁打の打ち損じがヒットになるというイメージです。
── NPBでプレーした5年で、規定投球回到達は2回ありましたが、規定打席到達はなし。MLBの4年では、規定投球回到達が1回、規定打席到達が2回。昨年は初めて投打とも"規定"をクリアし、15勝と34本塁打はいずれもア・リーグ4位でした。
鶴岡 規定投球回と規定打席の到達には、体力と回復能力が必要になります。とくに大谷選手の場合は二刀流ですので、両方いい結果を残さないとどちらかに絞らざるをえなくなってしまうわけです。それだけに規定投球回と規定打席をクリアしたのは、とても意義のあることです。大谷選手がコンディショニングに重きを置いているのは、いい状態でグラウンドに立てれば、ある程度結果を残せるという考えがあるからでしょう。
── 7月22日現在、打率.302(リーグ6位)、35本塁打(同1位)、76打点(同2位)の成績を残しています。本塁打王はもちろん、三冠王も狙える数字です。
鶴岡 本塁打王争いのライバルであるアーロン・ジャッジ(ヤンキース)選手が右親指痛で故障者リスト入りし、現在は独走状態です。ただ、プレーオフ争いが熾烈になるシーズン終盤、エンゼルスはマイク・トラウト選手やアンソニー・レンドン選手ともにケガで離脱しているため、大谷選手はどこまで勝負してもらえるのかという不安はあります。四球OKで際どいところを攻められ、歩かされるケースも増えてくるでしょう。本塁打や安打にできる球は間違いなく減ってくるでしょう。そのなかで自分のバッティングをどこまで貫けるか。そこがカギになってくると思います。
── 投手成績は、19試合に登板して8勝5敗、防御率3.71。111.2イニングで148個の三振を奪うなど、奪三振率は11.93。
鶴岡 先発投手なのに、奪三振率がストッパーのような高い数字です。大谷選手の場合は、160キロを超えるストレートに、シンカーもそれ同等のスピードが出ます。さらにスプリットはよく落ちるし、スイーパーも曲がりも鋭い。空振りを奪えるボール、要するにウイニングショットが多いので、このすごい数字になるのも納得です。
見ているファンは数字面で楽しませてもらっていますが、大谷選手の目標はあくまでプレーオフ進出です。ただ、大谷選手のパフォーマンスが上がれば上がるほど、チームが勝つ確率も高くなります。
── 投手でもタイトルを狙える位置にいると思いますし、サイ・ヤング賞も夢ではありません。鶴岡さんは具体的にどのあたりの成績を期待しますか。
鶴岡 勝ち星は後半伸ばして15勝、ホームランは50本に到達するのではないかと思っています。個人的には本塁打王、打点王のタイトルをとってほしいですね。あと"サイクル安打"未遂も6度ほど記録していますが、2度目の快挙達成もあるんじゃないかと。打って、投げて、走って......しかも高いレベルで披露するわけですから、ちょっと考えられないですよね(笑)。
鶴岡慎也(つるおか・しんや)/1981年4月11日、鹿児島県生まれ。樟南高校時代に2度甲子園出場。三菱重工横浜硬式野球クラブを経て、2002年ドラフト8巡目で日本ハムに入団。2005年に一軍入りを果たすと、その後、4度のリーグ優勝に貢献。2014年にFAでソフトバンクに移籍。2014、15年と連続日本一を達成。2017年オフに再取得したFAで日本ハムに復帰。2021年オフに日本ハムを退団した