エムバペ移籍報道が加熱 移籍金300億円を支払うクラブはあるのか?
パリ・サンジェルマン(PSG)が2年連続となるジャパンツアーに出発する前日、世間をあっと驚かせるニュースが世界中を駆け巡った。
その日、新トレーニングセンターで行なわれたル・アーヴルとの今シーズン最初のトレーニングマッチを終えると、その試合で後半66分から途中出場して終了間際にゴールも決めていたキリアン・エムバペが、来日メンバーから除外されたことが公(おおやけ)となった。
もちろん、ナセル・アル=ヘライフィー会長がそのような決断を下す要因となったのは、エムバペとの契約問題がこじれたままだからだ。
エムバペのPSGユニフォーム姿はこれが最後?
発端は6月12日──。エムバペのマネジメントチームがクラブに対し、現行契約が満了する2024年夏以降の1年延長オプションを行使しないことをメールで伝えたことが外部に漏れ、それがメディアを通して報じられたことにある。
本来クローズに進めるべきその話があっという間に世界中を駆け巡ると、昨年にも一大騒動となったエムバペの移籍話が再燃。当の本人は今夏を静かに過ごすべく「契約期間中だから僕は来シーズンもパリでプレーする」と、わざわざUNFP年間授賞式の場で公言していたにもかかわらず、結果的に自ら地雷を踏んだ格好となったわけだ。
焦ったエムバペ側は、すぐに世界的通信社のAFPに対して「まだクラブと契約の話はしていない」と文書で抗議したが、もはやあとの祭り。それ以降は、世界中のあらゆるメディアで憶測が憶測を呼ぶ報道合戦が繰り広げられた。
そんな騒動を気にすることなく、渦中の人エムバペは父の生まれ故郷カメルーンやアメリカで休暇を過ごしていたが、その間、ルイス・エンリケ新監督就任会見の日にアル=ヘライフィー会長の口から聞き逃せない重大な発言があった。
「私の立場は明確だ。もし我々が望むようにキリアンがここにいたいのなら、新しい契約にサインをする必要がある。現在世界でベストな選手をフリーで出て行かせるわけにはいかない。それは不可能だ。我々は少なくとも2週間以内で結論を出す必要がある。サインをしないのなら、扉は開かれる。それは確実だ。クラブより大きい選手は存在しない」
【移籍を志願したラビオは...】アル=ヘライフィー会長自身がエムバペ放出の可能性を認める発言をしたのはそれが初めてのことであり、そこには強い意志が感じられた。
そういう意味では、その後もクラブのアプローチに対して何のリアクションを起こさなかったエムバペ側に対し、ジャパンツアー直前になってトップチームから外すという冷酷な決断を下したことは、自然の流れだったとも言える。
そもそも、昨シーズンの最終節でエムバペの契約延長が発表された時、そのユニフォームには「2025」と記されていた。しかし実際には、2024年までの2年契約プラス1年オプションであり、しかもオプションを行使するか否かはエムバペの意思が優先されることも盛り込まれていたことがのちに発覚している。
当時はクラブの未来をエムバペに託したかのような報道もあったが、もしそうだとしたら、エムバペの年齢を踏まえれば新契約の期間は4、5年であって然るべきで、その事実から推察すれば、当時から両者間で何かしらの密約があったとしても何ら不思議ではない。
つまり、表向きにはあと1年の契約を残した2024年夏に、移籍金を残してエムバペが出て行くという密約だ。実際、アル=ヘライフィー会長も、エムバペはフリーでは出て行かないと言ったという発言もしている。少なくとも、代理人を挟むことなく、クラブの会長と母親と弁護士だけで交わされた昨夏の不自然な延長契約には、そのプロセスも含め、いまだに多くの謎が残されている。
いずれにしても、契約上、この問題は7月31日にまでに解決しなければならないとされているため、パリに残ったエムバペと彼のマネジメントチームは、それまでにアル=ヘライフィー会長と"落としどころ"を見つけることになるはずだ。もしその話し合いが物別れに終わってしまえば......。
思い出されるのは、2019年に同じように契約延長を拒否して移籍を志願していたアドリアン・ラビオが、その制裁としてクラブから飼い殺しに遭ったことだ。クラブのアイコンであり、フランス代表のキャプテンでもあるエムバペに対し、まさかラビオと同じような制裁を加えようとは、にわかに信じがたいことだが、アル=ヘライフィー会長とそのバックにいるカタールは、これまでそのような強硬なやり方を貫いてきたのも事実だ。
【ジャパンツアー中に決着か】また、エムバペが彼の意思に反して今夏に移籍する流れになったとしても、そのハードルは極めて高い。
なぜなら、来夏になればフリーで獲得できる可能性があるにもかかわらず、300億円とも言われる超高額な移籍金を支払う非常識なクラブがあるとは思えないからだ。万が一サウジアラビアからオファーがあったとしても、輝かしい未来が待っている24歳のエムバペが首を縦に振るはずもない。
周知のとおり、エムバペは昨年の騒動でも明らかになったように、レアル・マドリードへの移籍を望んでいることを隠していない。そのレアル・マドリードのフロレンティーノ・ペレス会長は、エムバペの獲得は今夏ではないといった発言もしているが、窮地に追い込まれたエムバペを救えるのも、ペレス会長以外には見当たらない。
おそらく、今月末までに行なわれるはずの話し合いは、エムバペ側とPSG(アル=ヘライフィー会長)の2者間だけでなく、そこに証券用語でいう"ホワイトナイト"が現れる可能性も十分に考えられる。
その結論が今夏のためのものなのか、それとも来夏のためのものなのかは、まだ誰にもわからないが、おそらくPSGのジャパンツアー中に何かしらの結論が明らかになるだろう。