欧州王者の座に就いたばかりマンチェスター・シティが来日。横浜F・マリノス、バイエルンと対戦する。世界中のサッカーファンが憧れる、まさに"旬"のチームの何を見るべきか――。

 シーズンのフィナーレを飾る2022−23シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)決勝。イスタンブールで行なわれた一戦は、インテルを下したマンチェスター・シティの優勝で幕を閉じた。

 それから40日あまり。欧州一に輝いたばかりの、これほど旬でホットなチームが日本にやってきたためしは過去にない。日本で幾度となく開催されたクラブ世界一決定戦(クラブW杯)は主として12月の開催だったので、日本のファンが欧州一のチームの雄姿を拝むのは、CL決勝の半年後、新シーズンの中旬にズレ込むことになっていた。それに引き替え今回はまさしくタイムリーだ。来日メンバーを見ても、CL決勝に出場した選手で不在なのはイルカイ・ギュンドアン(バルセロナへ移籍)ぐらいだ。

 マンチェスター・シティが、このサマーブレイクに来日するビッグクラブの中で、頭ひとつ抜けた存在であることは間違いない。


念願のチャンピオンズリーグ初制覇を果たしたマンチェスター・シティ

 7月23日の横浜F・マリノス戦に続き、26日には2019−20年のCL覇者バイエルンとの一戦も組まれている。親善試合なので両軍がどこまで本気を出すか定かではないが、ハイライトゲームであることは確かである。

 2002年日韓共催W杯での代表チーム同士の戦いを含め、これまで日本で行なわれた試合のなかで、1、2を争うハイレベルな一戦といっても過言ではない。クラブチームは戦術的に代表チームに勝る。代表チームのサッカーはクラブサッカーからの借り物。CLのレベルはW杯のレベルを上回る――とは、欧州の常識だが、その伝で言えば、この一戦はイングランド対ドイツを越えると考えるのが自然である。

 マンチェスター・シティは、言葉は悪いが典型的な成金クラブだ。2008年にUAEの投資グループに買収され、金満化したことと現在の好成績は深い関係がある。チェルシーがロシアの富豪ロマン・アブラモビッチの手に渡り、金満化に舵を切ったのが2003年(その後、2022年に売却)なので、マンチェスター・シティはそれに遅れること5年で金満化路線を歩み始めたことになる。

【グアルディオラらしいサッカーとは】

 プレミアリーグ(1992年〜)を初めて制したのはロベルト・マンチーニ監督時代の2011−12シーズン。旧来のファースト・ディビジョン時代にも2度(1936−37、1967−68)制している。

 そんなクラブの歴史のなかで、1970年代中盤はプレミア以前の時代では最も強かった時代のひとつと言える。

 そのタイミングで、マンチェスター・シティは初来日を果たしている。1976年5月、国立競技場などで日本代表と4試合を戦った過去がある。日本代表はいずれも完封負けしたが、その時、高校生だった筆者は、まさか47年後に、CL覇者として2度目の再来日を果たすとは予想だにしなかった。

 金満系のチェルシーが初めて欧州一の座に就いたのは2012−13シーズン。アブラモビッチがオーナー就任して10年でその座に就いたのに対し、昨季が初制覇となったマンチェスター・シティは金満化から15年間を費やしている。

 今季で監督就任8シーズン目を迎えるジョゼップ・グアルディオラらしさを、そこに見ることができる。

「ただ勝つだけではつまらない。勝利と娯楽性はクルマの両輪のように追求せよ」とは、グアルディオラの師匠であるヨハン・クライフの言葉だが、グアルディオラもその手の"癖"を抱えている。美学、哲学、こだわりを抱えながら試合に臨む。安易に勝ちに走ろうとしない分、勝ったときの喜びは大きい。波及効果の高い意義深い優勝となる。

 現在がその状態だ。マンチェスター・シティ的なサッカーは、2022年カタールW杯などで若干、守備的サッカーに興隆の兆しが見え隠れしていたこの世界に対するアンチテーゼとして強力に作用している。そのタイミングでマンチェスター・シティは47年ぶりの来日を果たすことは、代表監督がカタールW杯本大会を突如、5バックになりやすい守備的な3バックで戦いベスト16入りし、続投を勝ち取った日本サッカー界にとって皮肉的ではないか。

 5バックになりにくい3バック。相手ボール時は4バックで対応し、マイボールに転じると3バックで攻める。この可変式布陣を支えるのはジョン・ストーンズだ。相手ボール時は右SB、あるいはCBとして構え、マイボールに転じるやポジションを一列上げる。

【注目はジョン・ストーンズ】

 この攻撃的な姿勢が奏功したのは、昨季のCLで大一番となった準決勝レアル・マドリード戦の第2戦だ。第1戦の結果は1−1。両者はその前のシーズン(2021−22)も準決勝を戦い、マンチェスター・シティは終始リードを奪いながら、後半のロスタイムに3連続ゴールを浴びて大逆転負けを喫していた。昨季の第2戦は緊張感溢れるなかでの戦いだった。

 レアル・マドリードのストロングポイントは、ヴィニシウス・ジュニオールが左ウイングを務める左サイドであることがハッキリしていた。だがグアルディオラは、マンチェスター・シティにとっての右サイドの守りを固めようとしなかった。目には目をとばかり逆に前に出た。その攻撃的な姿勢が先制点につながった。

 ストーンズはマイボールに転じるや、ポジションを守備的MFの位置に上げた。しかしパスワークのなかでさらに前進。ロドリ、ベルナルド・シウバがつないだボールを右の高い位置まで進出し、右ウイング然として受けた。瞬間、マンチェスター・シティの右サイドにはストーンズ、カイル・ウォーカー(右SB)、内に入ったベルナルド・シウバ(右ウイング)、ケヴィン・デ・ブライネ(右インサイドハーフ)の4人が四角形を描く、確固たるパスコースが築かれた。三角形ならばレアル・マドリードに対して数的同数だった。四角形であるところがミソだった。

 均衡を破る先制点は、その3つ先のプレーで生まれた。得点者はデ・ブライネのラストパスを受けたベルナルド・シウバだったが、こちらの目にはそれ以上に、4人目として加わったストーンズが目に留まった。

 23日の横浜FM戦。注目選手をひとり挙げるならばストーンズだ。同時に、そのポジション移動に伴う布陣変更にも目を凝らしたい。

 横浜FMも右SBが真ん中に入るサッカーを展開していた。過去形になるのは、最近はセールスポイントではなくなっているからだ。川崎フロンターレも今季の初め、右SB山根視来に似たような役割を課したが、企画倒れに終わっている。

 さらに言えば、日本代表しかりだ。森保監督は3月の代表戦で、たとえばバングーナガンデ佳史扶に、マイボールに転じるや内に入る動きを求めていた。ところが6月の代表戦では、その形跡は見られなかった。すっかりなかったことになっていた。

 いずれもマネ止まり。こだわりには至っていない。哲学の域まで昇華することができていない。日本サッカー界はグアルディオラ采配を良薬とすることができるか。CL王者に輝いたばかりのマンチェスター・シティから学ぶべきことは多いのだ。