ディズニープラスとHuluがタッグを組み、7月12日からセットプランを開始した。それぞれと契約するよりも約26%オフになる(画像:Hulu

ディズニープラスとHuluが手を組み、7月12日からセットプランを始めています。また6月30日からはU-NEXTにParaviレーベルがついに加わったところ。ユーザーにとって定額制の動画配信サービスを利用する選択肢が広がり、お得感が増している状況である一方、内々では実は3番手のポジションを奪い合う競争が激化しているとも言えます。

単独契約より約26%節約のセットプラン

外資系のディズニープラスと日本テレビ傘下のHuluの組み合わせはある意味、異色に映ります。セットプランを通じて動画配信の競合サービス同士が組むことは、日本国内ではこれが初のケースです。

7月12日からスタートしたセットプランの内容はというと、両方のサービスを合わせた月額料金が税込み1490円になるもので、それぞれと契約するよりも約26%節約できます。マーベルやスター・ウォーズなど強力ブランドを持つディズニープラスと、日本テレビのコンテンツをはじめ10万本以上の作品を保有するHuluのこの2つの組み合わせの需要がどれほどあるのかは未知数ではあるものの、新規加入や契約の継続に繋げていくことを狙って導入されたことに間違いありません。

今回のようなセットプランそのものは海外では珍しくない割引手法です。ただし、事業者側にとって手っ取り早く契約数を伸ばすものであると同時に、ともすれば、リスクが伴います。単独契約よりも当然ながら利益率は落ちる上に、一時的なキャンペーンであれば、終了後に反動で契約数が落ち込むこともあり得ます。今回のディズニープラスとHuluのセットプランは期限を設けているのかどうか明かされていないため、どんなシナリオを想定しているかは定かではありませんが、賭けに出ています。

しかも、割と本気なのかもしれません。そもそも、ウォルト・ディズニー・ジャパンと日本テレビホールディングスが昨年、戦略的協業を結んだことがきっかけとなって、実現しています。ディズニーは日本以外にも、イギリスで公共放送のチャンネル4と配信サービスの協業を進めていますから、テレビ局とのタッグは気に入っている施策のようです。目的はディズニープラスの契約数増加のためであるのは明らか。2022年末時点でディズニープラスの日本の会員数はメディア・パートナーズ・アジアの調査数字によると、340万人に伸びています。高めの成長率のまま、セットプランでさらに攻めていきたいところでしょう。

Huluに至っては、伸び悩みが続いています。アンペア・アナリシスの調査数字によると、会員数は300万人と決して低くくはありませんが、この水準からなかなか飛躍できていません。日本テレビの傘下に入る前の2011年から日本で始まった老舗の動画配信サービスとして、巻き返しを図る意味合いが大きそうです。

U-NEXTで話題作「VIVANT」見逃し視聴

価格こそ変わらないものの、U-NEXTも中身の充実度でお得感を高めています。2月23日付記事『今度は「U-NEXTとParavi」、慌ただしい業界事情』で書いた通り、その後、3月31日にU-NEXTとParaviが正式に統合したことで、6月30日からU-NEXTのサービス内にParaviが追加されています。

つまり、Paravi単独のサービスは消滅し、U-NEXTの中でTBSとテレビ東京のドラマとバラエティをラインナップしたParaviが展開されているのです。アメリカのHBOらと並んで、新しいレーベルとしてParaviが加わっています。

U-NEXTでTBSの話題のドラマ「VIVANT」の最新話などを見逃し視聴できるのが目新しく、公式再生数ランキングにバラエティ「水曜日のダウンタウン」が登場するなど、良くも悪くもTBS色が強まった印象もあります。それには訳があり、TBSと関係性が実際に強化されているからです。U-NEXTの親会社であるUSEN-NEXT HOLDINGSとTBSホールディングスは6月29日に資本業務提携を結んだことを発表しています。


TBSのドラマ「VIVANT」やバラエティ「⽔曜⽇のダウンタウン」などが揃うParaviレーベルが6月30日からU-NEXTに加わった(画像:U-NEXT)

これまでU-NEXTはNHKから民放まで各テレビ局と割とまんべんなく接していたように見え、実際、独立系動画配信サービスとしてどの色にも染まっていないのが良さでもありました。一方で、アダルトコンテンツを展開しているイメージも強く、それが会員数獲得と継続の強みとなってはいたものの、ブランドとしては弱みでもありました。臆測にすぎませんが、そこから脱却を図る過程の中でマーケティング力を強めるためにTBSの力を借りたかったように思います。

つい、そんな事情を探りたくもなりますが、U-NEXTは国内勢の動画配信サービスの中で最も勢いがあることは断言できます。36万本以上と作品数が群を抜いて多く、品揃えの定評も確かなもので、ポイントで作品レンタルや映画館クーポンが利用できるなど、痒い所に手が届くあたりも巧みです。有料会員数は6月30日の公式発表によると385万⼈ですから、ディズニープラスやHuluを上回ります。TBSとの関係を深めて、新生U-NEXTとしてさらなる高みを目指しています。

1人当たりの平均契約数は「1.7」

ディズニープラスもHuluもU-NEXTもそれぞれの新たな展開を見る限りは強気ですが、切実な事情を抱えてもいるのです。ユーザーから選ばれるサービスになるには、そう簡単ではありません。

定額制の動画配信サービスを利用する1人当たりの平均契約数は「1.7」です。これは日本の動画配信市場を調査したアンペア・アナリシスが今年3月に発表した数字によるもので、サービス事業者からみると、2つに満たない椅子の奪い合いが行われていることを意味します。動画配信サービス事業者の数は軽く10を超え、外資系の新規参入はまだ続いていくことが予想され、ライバル多数のなか、厳しい争いを強いられています。

メディア・パートナーズ・アジアの調査数字によると、2022年末時点で、日本ではAmazonプライム・ビデオが1600万人以上とトップを走り、続いてNetflix が720万人で2番手の位置につけています。価格面で圧倒的にお得なAmazonの利用者が最も多いのは納得できるもので、話題性のあるオリジナルコンテンツを抱えるNetflixが2番手であるのも想定内です。

少々驚くのは、Amazonプライム・ビデオとNetflixの2つのサービスだけで動画配信サービス全契約数の約半数を占めていることです。それゆえに「平均1.7」の内訳は「とりあえずアマプラかネトフリか」または「アマプラとネトフリ」、もしくは「アマプラと何か」「ネトフリと何か」である可能性が高いのです。

どのサービスも一番に選ばれることは目指してはいるものの、現実的には3番手グループはその「何か」に入ることが必須条件です。3番手にはU-NEXTにディズニープラス、Hulu、そしてスポーツのDAZNもいます。TBSとの連携強化やセットプランが果たして効き目を持つのか。究極は見たいコンテンツがあるかどうかに変わりありませんが、定額制の動画配信サービスが新たな局面を迎えているのは確かです。


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(長谷川 朋子 : コラムニスト)