夏休みまであと2戦というところで、アルファタウリに驚きのニュースがもたらされた。

 第11戦イギリスGPを最後にニック・デ・フリースが解雇され、第12戦ハンガリーGPからダニエル・リカルドがアルファタウリでF1復帰を果たすというのだ。


角田裕毅の新チームメイトとなったダニエル・リカルド

【リカルドの夢はレッドブル復帰】

 この電撃的な復帰について、リカルドはこう語る。

「すべては、あっという間に起きたという感じだった。少し(イギリスGPの)レース週末に話をして、実際に週明けのテストでどうなるか、僕がどんなフィーリングかを見てから決めることになっていたんだ。テストはとてもいい感触だったし、うまくいったから、『準備は整っているようだね、じゃあやろう!』という感じだった。

 普通は夏休み明けから......なんだろうけど、今年レッドブルファミリーに戻ってきて、ここでは物事があっという間に変わったりすることはわかっていた。だから、常に可能なかぎり準備を整えた状態でいようと、その努力はしていた」

 マクラーレンのシートを失い、レッドブルのリザーブドライバーとして拾われた今年、リカルドは時折現地に帯同する傍ら、ファクトリーのシミュレーターをドライブしてセットアップ作業やマシン開発に携わり、チームから評価を得ていた。

 そして、デ・フリースの不振を受けて、チームはリカルドに白羽の矢を立てた。イギリスGP後のタイヤテストでRB19をドライブさせて、彼の腕が錆びついていないことを確認したうえでデ・フリースとの交代を決めた。これはもちろん、2024年以降のレッドブルとアルファタウリのドライバー選定を睨んでの采配だ。

「シミュレーターではどんどんよくなっていた。それを実走につなげられるかどうか、そこでクリスチャン(・ホーナー代表)やヘルムート(・マルコ)からの信頼を得られるかどうかが、最後のチェックボックスだった。でも、2ランを終えた頃には、もうガレージ内には笑顔があった」

 リカルド自身は「レッドブル復帰が夢」と公言している。そのためにはアルファタウリをドライブして、実力を証明することが必要なプロセスだと認めている。

【角田にとって最大の分岐点】

 ランキング最下位のアルファタウリで、現状どこまでやれるか? それは、まだシミュレーターでしか走っていない段階では何とも言えない。だが、自身の準備は万端だとリカルドは語る。

「8カ月間ずっと、F3もゴーカートも何もドライブしていなかったけど、先週のテストは何も考えずに乗って、最初から楽しめた。タイムもよかったし僕はコンペティティブだった。F1マシンをドライブしていなければ身体は鍛えられないし、ハンガリーはフィジカル的に厳しいサーキットだから、日曜日に僕が汗だくになっていたとしても驚かないでほしいね(笑)。

 最初の数周は慣れるための走行も必要だろうし、筋肉痛もあるだろう。だけど、何も心配はしていないよ。いずれにしても、これから学ばなければならないことはたくさんある。今週末だけですべてが解決するとは思っていない。まずは『自分にやれることをやる』ことに集中して、それをポジティブな結果につなげたいと思っているよ」

 8度のグランプリウィナーであるリカルドをチームメイトに迎える角田裕毅にとって、これは大きな試練であり、大きなチャンスでもある。

 もちろん、これまで組んだどのチームメイトよりも手強い相手である。打ち負かすのも簡単ではないだろう。

 しかし、リカルドに対して明確な優位性を示すことができれば、角田の評価は一気に上がる。いずれにしても、角田のキャリアにとって、これが極めて大きなターニングポイントになることは間違いない。

 リカルドがシルバーストンでテストをしていた先週の火曜日、角田はレッドブルのファクトリーでシミュレーター作業を行なっていた。そこでこのニュースを、クリスチャン・ホーナー代表から聞かされたという。

 角田自身は冷静にそれを受け止め、焦りは感じられない。自分がやるべきことをやるだけでいい。それで負ければ自分の実力はそこまでであり、実力が十分なら勝って未来が拓ける。いずれにしても大切なのは、自分の実力をフルに発揮することだ。

「チームメイトが変わっただけなので、特に何も変わらないですし、何も変えません。彼は優勝経験もあって経験のあるドライバーなので、彼からたくさん学べるのではないかと期待しています。たくさんのグランプリで勝っていますし、アグレッシブで、クルマに自信を持って走れば速いドライバーだと思います。なので、そこは警戒しなければならないと思います」

【マシン性能はアップしたか?】

 角田はレッドブル昇格を意識することなく、まさに自分の力を出しきるだけだと理解している。

「レッドブル昇格のことはまったく考えていませんし、そういうのは勝手に結果についてくるものだと思っています。今まで自分がやってきたことに集中するだけで、心持ちはまったく変わらないですね。

 もちろん、遅いほうのドライバーをレッドブルに起用することはないでしょうし、速いほうのドライバーにより大きなチャンスであることは確かです。F1というのはそういうものですし。チームメイトがニック(デ・フリース)だろうと、ダニエル(リカルド)だろうと、僕は今までと同じようにやるだけ。速ければ(レッドブルに)上がるか(アルファタウリに)ステイするかしかないですからね」

 肝心のマシン性能はどうか。

 イギリスGPで投入したフロアをはじめとしたアップデートは、想定どおり機能していたとはいえ、ライバルたちと比べて十分な競争力があるとは言いがたかった。しかし、アルファタウリは今回のハンガリーGPにも新型ウイングを投入し、マシンの修正とさらなる性能アップを図る。

「マシンは(イギリスGPで)大きく変わっていましたし、数字上では期待どおりの効果は上がっていると思いますが、ドライバーとしてはマシンのフィーリングが大きく変わったようには感じませんでした。

 データ上ではダウンフォース量など間違いなく進歩はしているんですけど、他チームのほうが僕たちよりも大きく前進したことで、僕たちの進歩がなかったように見えたのだと思います。今回はフロントウイングとリアウイングのアップデートが入るので、それがきちんと機能することを願っています」

 リカルドの再起に向けた挑戦は、同時に角田裕毅がその実力を示すための試金石となる。ハンガロリンクでリカルドと角田がどんな走りを見せるのか、非常に楽しみだ。