DeNA25年ぶりの優勝へ、高木豊が挙げた後半戦のキーマンは? 不安要素は「選手の経験不足」
オールスターが終わり、プロ野球は後半戦へと突入する。
25年ぶりのリーグ優勝を目指すDeNAは、首位の阪神と3ゲーム差、セ・リーグ3位(7月20日時点/以下同)でシーズンを折り返した。後半戦で頂上を目指すために、カギを握る選手、最も警戒すべきチームは? かつて大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で活躍し、現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木豊氏に聞いた。
高木豊がDeNA優勝のキーマンに指名したバウアー
――DeNAの前半戦はいかがでしたか?
高木豊(以下:高木)本来であれば、前半戦で首位に立ってなきゃいけませんよ。ちょっともったいなかったなと。シーズン序盤は佐野恵太を1番で起用し、途中から関根大気や桑原将志を打線の上位に持っていきましたが、早い段階でそうしてほしかった。そうであれば、違った順位になっていたと思います。
――6月下旬頃からたびたび見られる、関根選手、桑原選手の1、2番コンビはどうですか?
高木 疲れが出てきている頃ですし、全開とはいかないでしょう。繰り返しになりますが、シーズン序盤からそういう並びを見たかったですね。あとは、3番での起用が多い宮粼敏郎は、4番の牧秀悟の後ろに控えているほうが相手は嫌だと思います。今の5番の佐野より勝負強さがありますし、佐野はどちらかというと自由奔放に打つタイプのバッターですから。
宮粼が3番だと必ず初回に打席が回ってくるので、それも相手にとって嫌なことはわかりますが、上位3人はある程度動ける選手を置きたいです。牧や宮粼がヒットを打った時に、ホームに還ってこられる足のあるランナーが塁にいることが理想です。
――7月に入ってからは、14試合中5試合で楠本泰史選手を1番に起用していますね。
高木 バッティング技術を買ったんだと思います。動けないこともないですし。"理想の1番像"とはちょっと違うと思いますが、現状は桑原の状態が悪く、関根が疲れてきていることなどを考えると仕方がないのかなと思います。
――高木さんは以前、足の使い方も含め、DeNAの点の取り方について「もう少しうまくできないか」とおっしゃっていました。そこは改善されていますか?
高木 足がある選手が少ない分、エンドランなどを使って補おうとしていましたね。最近はみんなが疲れていて点が取れない。得点力が低下しているので、点を取るためにスクイズしてみたりと、やれることはやっていると思います。
――ショートは何人かの選手を併用していますが、それについてどう思いますか?
高木 数年前のヤクルトもそうでしたね。ショートを長岡秀樹に固定することがここ2年の優勝につながりました。DeNAでは、当初は森敬斗がガンガン引っ張っていくことを期待していたと思いますし、そのためのカンフル剤として京田陽太も獲得しましたが、森は伸び悩んでいますね。結局、同じポジションに同じくらいの能力の選手が増えると起用に悩んでしまいますし、数人で回すことになってしまう。それでは、本当にいい結果は生まれないんですよね。
――ショートは固定すべき?
高木 難しいポジションなのは確かですが、ある程度は固定すべきです。ただ、35歳の大和はシーズン通して使える体力はもう残っていないような気がしますし、どうしても京田、森、柴田竜拓らとの併用になってしまうのかなと。大和の勝負強さは捨てがたいんですけどね......トータルで考えると、京田をメインで起用していくのがいいと思います。
――前半戦のピッチャー陣はどうでしたか?
高木 全体的によくやっていますが、「しっかりしてくれなきゃ困るよ」という部分が抜け落ちています。例えば、山粼康晃が6敗していたり、伊勢大夢の好不調の波が激しかったり、茺口遥大が1勝もできなかったり。
今永昇太は今(6勝1敗)以上に勝たないといけないピッチャーだけど、チームが勝たせられていない。石田健大が投げる時も点が取れないですし......。あと、大貫晋一があまりよくない。昨年がよかっただけに、ちょっと物足りなさを感じます。
――現在は首位の阪神から4位の巨人までが、6.5ゲーム差の中にいます。DeNAにとって現状で最も警戒すべきチームは?
高木 "ここ一番"でチームのまとまりがあって、勢いがあるのは広島かなと。その理由は新井貴浩新監督でしょうね。新井監督はいい意味で"馬鹿"になれますし、変に格好つけず、選手目線で一体になって戦おうとしている。"捨て身"になれるのが、他のチームにとっては怖いんです。
それを感じたシーンのひとつが、西川龍馬が離脱したあとの菊池涼介の4番起用です(7月15日、16日のDeNA戦で4番に起用)。固定観念に縛られず、今のチームにできることを考えている。体裁など考えませんし、それは戦う相手として嫌ですよ。
――確かに、波に乗ると連勝をしそうな雰囲気を感じます。ただ、主軸で活躍していた西川選手が離脱した穴は埋められるでしょうか?
高木 西川の代わりは見当たりませんが、(ライアン・)マクブルームや(マット・)デビッドソンがスタメンで活躍するようになると、打線も厄介になると思います。今は投手力、特に先発ピッチャーがいいですからね。
――首位の阪神については、どう見ていますか?
高木 シーズン序盤がうまくいきすぎましたよね。去年と真逆になりましたから。ただ、(シェルドン・)ノイジーが打てなくなり、佐藤輝明がファームに落ち、期待されていた梅野隆太郎も不調と、いろいろと"膿"が出てきた。「それをどう埋めていくか」というところで岡田彰布監督がうまかったのは、思い切って2年目の前川右京を使ったり、ルーキーの森下翔太を1番に起用したこと。そんなやりくりで持ちこたえています。
最後まで持つかというと、苦しいと思いますけどね。近本光司がケガから戻ってきて1番に座り、森下を3番にする、といった感じにできたら落ちつくでしょうね。
――近本選手の復帰待ちということでしょうか。
高木 近本次第ですね。近本が帰ってきたら「3番をどうするか」といろいろ配置を考えられるようになるんですが、今は「誰をどこで使うか」でいっぱいいっぱいでしょうから。悩みは多いと思いますけど、近本が戻れば相当に楽になると思います。
あと、せっかく大山悠輔の状態がいいのに、それを支える人間がいません。DeNAであれば牧秀悟における宮粼敏郎、巨人であれば岡本和真における中田翔や大城卓三です。阪神の場合は勝負強い森下が5番でもいいのですが、それも近本が戻ってこないと動かせないでしょう。
――4位の巨人はどう見ていますか?
高木 先発が戸郷翔征、菅野智之、山粼伊織の3枚でこられると手強いです。ただ、(フォスター・)グリフィンや横川凱らの場合はそれほど怖くない。ローテーションによると思います。
あと、巨人の課題は点の取り方。原辰徳監督はランナーを動かしていきたいと思っているんでしょうけど、なかなか思い通りにいっていない。結局はホームランでしか勝っていません。ただ、坂本勇人がオールスター明けに戻ってきそうなので、打線の流れがよくなるでしょうし、ホームランで勝つ確率もより高くなります。復帰後の坂本が活躍してくれると、チームは安定するようになると思います。
【DeNAは「経験のなさ」をどう乗り切るか】――そんなライバルたちに競り勝ち、DeNAが優勝するためのキーマンは?
高木 先発の(トレバー・)バウアーです。バウアーが中4日で回って、それなりの勝ち星を挙げること。ただ、中4日で回るリスクは、他のピッチャーが中5日や中6日になったり、1回飛ばされたり、リズムが崩れることです。そのあたりの調整をうまくできるかどうか。みんなが中4日だったらいいですけど、急にそうするのは無理です。
優勝するためには、(先発陣みんな)中4日をやってみるのもありかなとは思いますけどね。「先発は100球前後で絶対に交代させる」といったことを条件にしなければいけませんが。または、今永に合わせてバウアーを中6日にするのもひとつの考え方です。
――野手のキーマンは?
高木 宮粼です。34歳という年齢やこれからの暑さを考えると、休ませながらの起用になると思いますが、宮粼がゴールまで持つか持たないかは重要です。牧は若いし"頑張り屋"なので大丈夫だと思いますが、宮粼に関しては「なんとか最後まで持ちこたえてくれ」と祈る思いです。
――阪神、広島、巨人も含む四つ巴の戦いはしばらく続いていく?
高木 そうですね。ただ、この中で一番"経験"がないのがDeNAです。競り合いによる独特の疲れにも慣れていない。一時期は首位に立っていましたが、阪神に抜かれ、その後に1回はひっくり返したけど、またダメになりました。
6月末ぐらいからチーム全体に疲れが見え始め、それが抜けていないんですけど、それはやっぱり経験なんです。上で争うしんどさは、普通の疲れと違うということを感じていると思います。それをシーズンの最後までやり通さなきゃいけないのですが、そこは他の3チームに分があると思います。
阪神はしばらく優勝争いをしていないけど、4年間Aクラスを死守しているのと、2005年にチームをリーグ優勝に導いた岡田監督の存在が大きい。広島は3連覇(2016〜2018年)を経験した菊池や田中広輔、松山竜平、大瀬良大地、野村祐輔らがいて、巨人は原監督をはじめ、多くの選手が優勝を経験しています。
ただ、そういった懸念点はあるものの、投打とも戦力的には充実しています。25年ぶりのリーグ優勝を目指して頑張ってほしいです。
【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)
1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。