韓国・釜山で開催された防衛イベントに、来場者の目を引き付ける未来的デザインの空母模型が展示されていました。出展したのは大手造船企業。現地で関係者に話を聞くと、先進国のほとんどが抱える少子化対策を目的にしたものでした。

21世紀に多段式空母が復活?

 韓国の造船企業「ハンファ・オーシャン」社が公開した未来の空母が、そのユニークなデザインで注目を集めています。

 2023年6月上旬に韓国の釜山市で開催されたMADEX(国際海上防衛産業展示会)2023。前出のハンファ・オーシャンは、自社ブースにおいて研究中の新型軍艦に関するコンセプトを複数公開しましたが、中にはこれまでの艦艇の進化とは隔絶した、まったく新しい未来の艦艇といえるものもありました。


「ゴースト・コマンダー」のコンセプトアート。空母型のほかに、水上艦型と潜水艦型の艦が描かれている(画像:Hanwha Ocean公式YouTubeより)。

 特に来場者の目を引きつけていたのは無人機専用の空母です。この空母は発艦用と着艦用、各々の飛行甲板が上下に分離され、通常は平らなはずの飛行甲板に段差が設けられているのが特徴です。ゆえに外見は2023年現在、就役している各国のあらゆる空母と異なっており、類似したものを強いて挙げれば、映画『アベンジャーズ』に登場した飛行空母ヘリキャリアーくらいでしょう。つまり、SFやエンタメ作品などでしか見られない、独特な形をしているということです。

 下側の発艦用の飛行甲板には、2つのカタパルトが装備され、大きさの異なる2種類の無人機が発艦状態で置かれていました。船体後方と左側は発艦用の甲板よりも一段高くなっており、下は航空機用の格納庫、上は無人機の着艦用のアングルドデッキと、ステルス性を考慮したピラミッドのような艦橋が設置されています。

 さらに船体後方と側面には異なる大きさの開口部が設けられており、ここからは自律型無人潜水機や無人水上艇、それに群体で行動するスウォーム・ドローンの発進まで可能だそう。説明によると、この艦はドローンを始めとしたUAV(無人航空機)だけでなく、USV(無人水上艇)やUUV(無人潜水艇)といった複数の無人プラットフォームの母艦として運用可能な能力を付与することを想定しているそうです。

 この近未来空母の模型は、一体どんな意図で作られたのでしょうか?

妙にカッコイイ名称が!

 展示ブースにいたハンファ・オーシャンのスタッフによると、この無人機専用空母は同社が研究している将来の“無人ドローン母艦”のコンセプトモデルで、その名前を「ゴースト・コマンダー」と言うとのこと。

「ゴースト・コマンダー」は3種類のプラットフォームからなり、今回披露された空母型はその中のひとつだといいます。船体の全長は200mで排水量は1万6000トン。このほかに排水量5000トンの水上艦と、同3000トンの無人電動潜水艦もあり、これらプラットフォームが連携して任務を行うことを想定しているそうです。

 このコンセプトモデルではUAVは108機、USVは10隻、UUVは11隻が搭載されており(それぞれにタイプや任務の異なるモデルがある)、この点からも、前述したような各種無人機の母艦となりうる「マルチ・プラットフォーム」だということがわかるでしょう。


「ゴースト・コマンダー」の無人プラットフォーム母艦のコンセプトモデル。2段式の飛行甲板が目を引く(布留川 司撮影)。

 外見上の一番の特徴である分割式の飛行甲板(スタッフはダブル・デッキと呼称)については、「発艦と着艦を分けることで、それぞれを迅速かつ一括して行うことができる」からなのだとか。特に、発艦用となる下側の飛行甲板は格納庫が同じ場所にあるために、このようなレイアウトにすることで無人機の搬出と発艦が素早く行えるようになるのだと言います。

 なお、1万6000トンの船体では、大型の有人艦載機は重くて大きすぎるため、無人機専用としてデザインされているそうです。

韓国海軍は本格的な無人化を推進中

 現時点で、この「ゴースト・コマンダー」は、あくまでもハンファ・オーシャンの社内研究で構想されたコンセプトモデルで、この外見のまま実艦が建造される可能性は高くないようです。

 しかし、韓国は今後の少子化などを見越して無人兵器の積極的な開発を進めており、同海軍も有人システムと複数の無人システムを組み合わせた新しい運用概念として、「ネイビー・シー・ゴースト」というコンセプトを発表しています。ゴーストとは幽霊という意味ではなく、「Guardian Harmonized with Operating manned Systems and Technology based unmanned systems」というフレーズの頭文字を取ったものです。

 つまり、今回展示された「ゴースト・コマンダー」は韓国海軍が提唱する「ネイビー・シー・ゴースト」に則ったコンセプトモデルというわけです。大型無人機母艦の実現はまだ先ですが、すでに各無人プラットフォームの研究開発は個別に行われており、ハンファ・オーシャンでも戦闘能力を持つ大型無人潜水機を開発中です。


上部飛行甲板はアングルドデッキになっており、舷側には回転翼機用の発着艦用スポットもあった(布留川 司撮影)。

 韓国メディアの報道によると、韓国海軍は今後ますます無人プラットフォームへの依存度を高めていくそうで、2040年代までには無人プラットフォームを運用する新しい司令部を創設し、併せて作戦全体における無人兵器の比率も4割程度まで高めると発表しています。

 韓国軍の予算規模や人員を考えると、海軍が拡大路線を目指す場合、アメリカ海軍や中国海軍を後追いして純粋に艦艇の数を増やしていくのは難しいといえます。そのため、より効率的な戦力として無人プラットフォームの比率を増やしていくのは合理的な判断だと言えるでしょう。

 同様の試みは世界中の海軍ならびに防衛産業で進められていますが、韓国海軍はそのなかでもコンセプトだけなら最先端を行っている感じでした。そこから類推するに、「ゴースト・コマンダー」はやや突飛な印象もあるものの方向性は間違っておらず、筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)には未来の海軍が向かうべき姿を示しているようにも感じられました。