人間を死に至らしめるがんはどうやって体内に広がるのか?
体内に悪性の腫瘍ができる「がん」は、日本人の死因の第一位を占めており、厚生労働省が2007年に行った調査では、年間に110万人以上ががんによって亡くなっています。そんながんが人間の体内でどのように拡大していくかについて、科学系YouTubeチャンネルのKurzgesagtが解説しています。
A New Way to Understand Cancer - YouTube
◆排除期
その後、破損した細胞はどんどん増殖していきます。これを放置した場合、すぐに危険な状態に陥るとされています。
破損した細胞の発生から数週間のうちに、破損した細胞は自分自身のコピーを作り続け、1つの細胞が数十個、数百個、数千個に増大していきます。
作られた細胞のコピーは遺伝子が変化することがあり、ときには元の細胞よりも生存力に長けた細胞が発生することもあります。そのような細胞が集まって、小さな腫瘍が形成されます。
腫瘍が成長するには多くの栄養や酸素が必要ですが、さらなる突然変異を起こすことで周囲の健康な細胞から栄養や酸素を奪うようになります。健康な細胞は次第に飢え、最終的には死に至ります。
腫瘍がある程度大きくなると、マクロファージやナチュラルキラー細胞(NK細胞)のような免疫系が活性化するようになります。これらの免疫細胞は腫瘍内に侵入し、腫瘍を形成する細胞を見つけ次第攻撃し、食べて消化するとともに、体内の免疫システム全体に駆除すべきがん細胞があることを伝えます。
その後、報告を受けたヘルパーT細胞が「サイトカイン」と呼ばれるタンパク質を放出してキラーT細胞に情報を伝達。
一方でキラーT細胞は新しい変異した細胞の成長を阻害、腫瘍の成長を食い止めます。Kurzgesagtはこの期間を「排除期(The Elimination Phase)」と呼んでいます。
◆均衡期
基本的にがん細胞は人間が認識する前に、排除期のうちに駆逐されますが、免疫系からの攻撃に耐えることができる変異したがん細胞は生き残り、再度拡大や成長を始めます。この期間についてKurzgesagtは「均衡期(The Equilibrium Phase)」と呼んでいます。
免疫系からの攻撃から生き残った細胞は、再び何千ものコピーを作り、これまでよりも強い腫瘍を形成します。しかし、腫瘍に対する攻撃の経験を積んだ免疫系はさらに強力な攻撃を腫瘍に与え、破損した細胞を駆逐します。
それでも一部の突然変異を遂げた細胞は生き残り、また腫瘍を形成して免疫系からの攻撃を受けることを続けるいたちごっこが始まります。
免疫システムが腫瘍を形成する細胞をすべて取り込むことができれば、人間の生死に関わる重大な病気に発展することはありません。しかし、最終的に突然変異を遂げた悪性の腫瘍は人間を殺すことができる危険ながんへと成長します。
免疫系には、細胞を攻撃する前に一度細胞を不活性化させる働きがあります。しかし、繰り返す変異の中で成長した腫瘍細胞は、自身を標的とする免疫系が持つ受容体に対して攻撃を行い、逆に免疫系を不活性化させてしまいます。
その結果、腫瘍細胞への攻撃機能を失った免疫系は、がんのさらなる拡大を許すことになってしまいます。
◆逃亡期
「逃亡期(The Escape Phase)」に入ると、制御不能な拡大を続けるがんに対して、キラーT細胞をはじめとする免疫系は攻撃を行おうとしますが、がんからは不正なシグナルが発せられ、免疫系の働きは強制的に停止させられてしまいます。
拡大したがんは健康な細胞が生存できるスペースや栄養を奪い取っていきます。
この状態が長く続くと、臓器はその機能を停止し、最終的に人間は死に至ります。しかし人間が死ぬとそれに従ってがんも死ぬため、Kurzgesagtは「勝者のいないゲームです」と例えています。
一方で大勢の科学者たちががんを根絶するための研究を行っています。近年では「免疫療法」と呼ばれる免疫反応を誘導、強化または抑制する治療法の研究が進んでいます。
免疫療法は、薬物投与による従来の治療法よりも効果を発揮するとされており、自身の免疫細胞を強化することで耐性を持った病原体の発生や副作用の併発を防ぐことが可能とされています。