1999年公開の映画「マトリックス」で大きな話題となった「時間がスローもしくは静止した状態でカメラだけは主人公を中心に円を描くように動き続ける」という表現は「バレットタイム」と呼ばれており、数多くの映像作品で用いられています。そんなバレットタイムを結婚式の思い出ムービーに活用するべく機材調達やシステム構築を行った記録を、物理学者やソフトウェアエンジニアとして活躍するセバスチャン・スタックス氏が公開しています。

There oughta be a bullet time video booth.

https://there.oughta.be/a/bullet-time-video-booth

Bullet Time Video Booth - YouTube

バレットタイムは多くの映像作品で採用されていますが、中でもマトリックスの「人間の限界を超える動きで銃弾を避けようとするシーン」で用いられたものが特に有名です。主人公のネオはゆっくりと動いているのに、カメラは減速せずにネオの周囲をグルグル動き回る」という映像表現に衝撃を受けた人は多いはず。



バレットタイムは「大量のカメラで被写体を取り囲んで同時に撮影する」という方法で撮影できます。スタックス氏は弧を描くようにカメラを並べ、バレットタイム撮影を行うことにしました。



また、結婚式の来場者が自分で撮影を開始できるように、緑と赤の操作ボタンも用意しました。緑のボタンを押すとバレットタイム撮影が始まり、プレビューの確認後に緑のボタンを押すと保存、赤のボタンを押すと保存せずに削除できます。



上記のシステムで撮影したバレットタイム映像は、以下のムービーの11分49秒から確認できます。

Bullet Time Video Booth - YouTube

システムの詳細はこんな感じ。まず、バレットタイムには大量のカメラが必要なので、「設定を細かく制御可能」かつ「安価」という特徴を備えた中古の「EOS 400D」を12台調達しました。



さらに、映像内のバレットタイム以外の部分を撮影するために「α5000」も1台用意しました。



EOS 400Dの静止画撮影解像度は3888×2592ピクセルなので、静止画をつなぎ合わせれば3840×2160ピクセル(4K)のムービーを作成可能です。しかし、α5000のムービー撮影解像度は1920×1080ピクセル(フルHD)なので、今回はα5000に合わせてフルHDのムービーを作成することとなりました。



本格的なバレットタイム撮影では何十台ものカメラを用意してフレーム数を確保しますが、スタックス氏が用意したEOS 400Dは12台なので12フレームしか撮影できません。25fpsのムービーを作る場合は12フレームでは0.5秒以下にしかならないため、見栄えの良いムービーを作ることは困難です。

そこで、スタックス氏は12フレーム目の次に以下のようなブラー効果を適用した画像を挿入し、その次に「別の被写体を映した12フレーム」を挿入することにしました。



これで「12フレームのバレットタイム」「1フレームのブラー画像」「12フレームのバレットタイム」が連続し、25フレーム(1秒)分のバレットタイム映像を確保できました。



本格的な処理は結婚式終了後に実施しますが、来場者にムービーの使用可否を選択してもらうには簡易的なプレビュー映像を見せる必要があります。そこで、スタックス氏は撮影した写真を即座にPCに転送し、プレビュー映像を自動生成することにしました。PCや配線類は以下のボックスにまとめられています。



自動生成したプレビュー映像はカメラの近くに配置したモニターに表示します。



カメラを12台規則的に並べるには以下のような専用設計の土台が最適ですが、コストが高すぎるという問題が存在します。



そこで、スタックス氏は比較的安価に入手できる電子ドラムラックを2個用意し、組み合わせて使うことにしました。





余った部品はモニターの固定に活用します。



続いて検討するのはカメラのバッテリーです。通常のバッテリーでは結婚式の間に電池が切れてしまう可能性があります。



そこで、スタックス氏はバッテリーの代わりにUSBコネクタから電源を供給できるアダプターを使うことにしました。



USBチャージャーはUSBケーブルを最大8個挿入可能なものを2台用意しました。



しかし、USBチャージャーへの負荷が大きいのか、撮影時にカメラの電源が落ちてしまう現象が発生。結局、スタックス氏は負荷を分散するためにUSBチャージャーを6台購入することになってしまいました。



また、「12台のカメラをUSB 3.0でPCと接続すると、1台しか認識されない」という問題も発生。



解決策はなんと「USB 3.0ケーブルとPCの間にUSB 2.0の延長ケーブルを追加する」というものでした。



「12台のカメラで同時撮影」という動作は、有線リモコンを使って実現します。といっても有線リモコンはオーディオプラグを使えば簡単に作成可能。



こんな感じのハブを3個用意。



さらに、オーディオケーブルも台数分用意しました。



シャッターを下ろすタイミングはRaspberry Pi Picoで管理します。



参列者に押してもらう緑と赤のボタンも作成。



このボタンはBluetooth通信に対応したRaspberry Pi Pico Wで管理します。



最後に考慮するのは照明です。結婚式は朝から夜まで続くので、撮影ブースの日照環境が変化して光源の強さや色合いが変動します。さらに、結婚式場の蛍光灯が影響してフリッカーが発生する場合もあります。



そこで、スタックス氏は結婚式場の蛍光灯や屋外からの日光よりも強い光源を設置することにしました。



実際の撮影ブースはこんな感じ。光源が大量に設置されています。スタックス氏はこのようなシステムで「バレットタイムを使った結婚式の思い出ムービー」を作成したというわけです。