新・森保ジャパンの第一次政権との違い かたち優先から柔軟な考えにシフト、攻め方のバリエーションは増えた
第二次森保ジャパンの3試合目となったエルサルバドル戦は、キックオフ直後から予想外の展開となった。
サッカー日本代表はエルサルバドルに攻撃的な布陣で臨んだ
日本のキックオフで始まったこの試合。板倉滉からのロングフィードを受けた三笘薫が、エルサルバドルの右サイドバック(SB)ブライアン・タマカス(21番)のファールを誘い、それによって得たFKを久保建英が蹴ると、谷口彰悟が鮮やかなヘディングシュートでネットを揺らす。相手に一度もボールを触らせないまま、日本が先制した格好だ。
さらに先制直後の2分には、エルサルバドルの左SBアレクサンデル・ロルダン(15番)のバックパスを受けたセンターバック(CB)ロナルド・ロドリゲス(5番)がボールを後逸。それを逃さず反応した上田綺世がゴール前に迫ると、焦ったロドリゲスが決定機阻止につながるファールを犯し、主審アンドリュー・マドリー(イングランド)は迷わずPKの判定を下しただけでなく、レッドカードも提示した。
このPKを上田がA代表初となるゴールで加点した日本は、開始3分にして2点差としたうえ、以降、相手より1人多い状態で試合を進めることとなった。極論すれば、この試合はその時点でほぼ決着がついたと言っても過言ではない。
まるで2018年ロシアW杯初戦のコロンビア戦を想起させるようなスタートとなったわけだが、あの時は1人少ないコロンビアが数的劣勢を感じさせないゲーム運びで前半のうちに1−1とした。しかし今回の相手は格下エルサルバドルで、しかも日本のリードは2点。チームとしても選手個々としても上回っている日本が苦戦する材料は見当たらず、最終スコアの6−0という数字も極めて妥当なものだった。
とはいえ、そんな展開によって評価の対象外となった試合ではあるが、そのなかにも見逃せないポイントはいくつかあった。そのひとつが、森保一監督がこの試合で4−3−3(4−1−4−1)を採用したことだ。
第一次森保ジャパン(2018年9月〜2022年12月)の時代。就任当初から一貫して基本布陣を4−2−3−1としていた森保監督は、最悪のスタートを切ったW杯アジア最終予選4試合目のオーストラリア戦から4−3−3を採用し、その布陣をカタールW杯5カ月前のチュニジア戦で完敗(0−3)を喫するまで使い続けた。
しかし当時の4−3−3は、中盤にボランチタイプの3人(遠藤航、田中碧、守田英正)を起用したため、守備的布陣としてカテゴライズできた。ところが今回の中盤3人は、守田を中央に、右のインサイドハーフに堂安律、左に旗手怜央を配置。その人選を見ても、明らかに攻撃的布陣と分類される4−3−3に変化している。
「どっちが優先かというと難しいですが、かたちで選手のよさを殺してしまわないよう、選手のよさをなるべく出して戦いたい」
これは試合前日会見での森保監督のコメントだが、明らかにかたち優先だった第一次政権時代と比べると、柔軟な考えに変化したとも受け止められる。
さらに、当時の4−3−3では守備時も陣形が変化することはなかったが、今回の場合、守備時は4−4−2に変形。右インサイドハーフの堂安が前に出て1トップの上田と並んでファーストディフェンダーとなり、2列目には右から久保、守田、旗手、三笘が並ぶかたちで守備陣形を形成した。近年の4−3−3ではよく見られるパターンだが、これも第二次森保ジャパンが見せた変化のひとつとしておさえておきたい。
【縦への速さを軸に攻撃にバリエーション】では、日本にとって、このエルサルバドル戦の狙いはどこにあったのか。
試合前日に森保監督が口にしたのは、攻守における優先順位をピッチで表現すること。守備ではボールロスト後の即時回収、攻撃ではボールを奪ったあとに相手の背後を狙って縦に速くプレーを行ない、それが出来ない場合はサイドに起点を作って崩す、というものだ。
基本的には、カタールW杯本番を除き、第一次森保ジャパンで目指したものと大きな違いはない。ただし、試合後に「3月と6月の違いは、より縦に速くボールを動かすことを増やすための準備した」と語ったように、相手が1人少なかった状況とはいえ、このエルサルバドル戦では攻撃面で縦への意識が強く感じられるものとなっていた。
たとえば、前半終了間際の4ゴール目のシーン。相手が前からチェイスしてきたため、板倉がボールをGK大迫敬介に戻すと、大迫は迷わずロングキック。相手が縦に広がっていたことで、大きなスペースができていた中盤で上田がそれを胸で収めて素早く三笘に展開すると、カットインした三笘がシュート。堂安のゴールは、そのシュートを相手GKがファンブルしたところに詰めたものだった。
あるいは、5ゴール目のシーンでも、相手GKのミスパスをインターセプトした旗手が素早く縦パスを久保に供給。前を向いた久保は、左でフリーになっていた中村敬斗に絶妙なパスを送ると、それを中村がゴールに叩き込んでいる。
また、縦に行けない場合はサイドに起点をつくるという点では、前半25分の久保のゴールシーンが象徴的だった。このゴールは、右サイド大外の久保から逆サイドの三笘にロングパス。サイドチェンジしたところからチャンスをつくり、最後は三笘のショートパスを右サイドから中央に移動してきた久保がフィニッシュしている。
後半73分には、途中出場の相馬勇紀が右から入れたクロスを、同じく途中出場の古橋亨梧がゴール前でヘディングシュートを決めて6−0としたが、セットプレーから先制ゴールを決めたことも含め、この日の日本の攻撃は実にバリエーションに富んだものだった。
数字的にも、シュート数はエルサルバドルの4本(前半2本、後半2本)に対し、日本は計20本を記録。14本だった前半と比べると、後半は6本に大きく減少したが、これは後半頭から76分までに6人が交代したことが影響したと考えられる。
ちなみに、ボールポゼッションでは、エルサルバドルの45.7%に対し、日本は54.3%。前半開始15分間は日本が46.2%(エルサルバドルは53.8%)、後半開始15分間も42.7%(エルサルバドルは57.3%)と、立ち上がりの時間帯で相手に上回られたが、特にエルサルバドルに押し込まれた場面があったわけではなかった。
【ペルー戦でも同様の攻撃が見られるか】ただし、冒頭で触れたように、これはあくまでもエルサルバドルが立ち上がり早々に2失点を喫したうえに、試合開始3分で退場者を出してしまったのが大きく影響したことは言うまでもない。
とりわけ、10人になった直後のエルサルバドルは4−4−2から4−4−1の布陣を形成せざるを得なくなったうえ、FW登録のケビン・レジェス(19番)が左SBに、右SBタマカスが左CBにそれぞれ移動。急造左SBとなったレジェスが久保や菅原由勢の攻撃を封じることなどできるはずもなかった。
試合後に「CBを失ったので守備のかたちを変更せざるを得なかった」とウーゴ・ペレス監督が振りかえったように、その後も27分にレジェスに代えてCBロベルト・ドミンゲス(3番)を投入して5−3−1に変更し、後半開始から2人交代を断行して4−3−2で建て直しを図るなど、ペレス監督は試合終盤まで試行錯誤。単に1人少ないだけでなく、相手が選手と陣形を頻繁に変えざるを得なかったことによって、通常の11人対10人の試合より、日本が思い通りの攻撃を実行しやすい環境が整っていたと言える。
「(次の)ペルー戦は間違いなくスピード、強度ともに、今日の試合とは違う。激しく厳しいハイスピードな試合になる」と予測した森保監督。果たして、20日のペルーとの試合でも、日本はバリエーション豊かな攻撃を見せられるのか。エルサルバドル戦ではほとんど問われなかった自陣でのディフェンスの機能性も含め、注目が集まる。