周囲から悪口や嫌味を言われても意に介さず、強く美しく我が道をゆく主人公、白川さん(画像:『メンタル強め美女白川さん』より)

「私の辞書にひがみという文字はない」

「私の辞書にひがみという文字はない」。周囲から悪口や嫌味を言われても意に介さず、強く美しく我が道をゆく女子が主人公のコミック『メンタル強め美女白川さん』(最新巻は4巻、KADOKAWA)。シリーズ累計部数50万部を突破と、人気を集めています。




カフェで人気モデルの悪口を耳にした白川さん

白川さんは、ネガティブな感情に負けません。人気モデルの悪口を耳にすれば、「誰かの評判を下げたからって自分の美しさが増す訳じゃないのに」「『私もキレイ、あの子もキレイ』でいいじゃん」とつぶやきながら、好物の芋ようかんを買いに行く。



「〇〇さんが悪口を言ってたよ」と告げ口を聞かされれば、「えぇ〜そうなんですかぁ〜悲しいですぅ〜」と右から左へ受け流し、「万人に好かれようとか思ってないし」と独白しながら、ひとりペットボトルを立ち飲みする。


信用するに値しない美意識

「ブス」「ババア」「ぶりっ子メイク痛い」などと暴言を吐かれても、「そんな失礼な人間の美意識とか信用するに値しなくないですか?」と小首をかしげ、気にも留めない。




『メンタル強め美女白川さん』(KADOKAWA)(撮影:尾形文繁)

「こういうことを誰かに言ってほしかった!」と思わされる名言&名シーンの数々に、同漫画を「バイブル」「お守り」とあがめる人も多いのだとか。読者層は男女問わず、10代から70代までと幅広いのも特徴です。

『白川さん』はどうやって生まれたのか? 作者・獅子さんにインタビューしました。

言ってほしい言葉を言ってくれるのが「白川さん」

──『白川さん』が大好きです。他人の悪意に触れると、つい相手と同レベルでやり返したくなりますが、白川さんは「ほめる」「応援する」「助ける」という真逆の対応で、自分も周囲も幸せにしてしまいます。かくありたい、としみじみします。どんな背景から、この作品を描かれたのでしょうか?

獅子:私はもともと少女漫画家になりたかったんです。しばらく離れていた時期もあるんですが、3、4年前に「短い漫画だったらTwitterで描けるかな」と思い、この作品を描き始めました。書籍化してもらえるなんて、当時は夢にも思っていなくて。

白川さんというキャラクターは「自分が持っていないものを持っている人を描きたい」「自分が言ってほしい言葉を言ってくれる人がいてほしい」と思って、描きました。

──ひと昔前だと、こういう周囲に流されないタイプの主人公は「男まさり」で「サバサバした」キャラが定番でしたが、白川さんは「女子」全開です。

獅子:私の好みですね。昔から松田聖子さんの大ファンで。自分とは正反対だからこそ、すごく憧れているところがあります。ああいう「可愛くて強い女の子を描きたい」という気持ちが爆発したんだと思います。



──恋愛話じゃないところも、いいです。

獅子:そこは、私に声をかけてくださった初代の担当編集さんと話し合って決めました。恋愛も素敵なんですが、この作品では「女の子が、自分で自己肯定感を高めて楽しく生きていく」ところを前面に描こうということで、基本的に恋愛をメインでは描かないことにしています。

──妬みから攻撃を受ける「美女」側のストレスも、丁寧に描かれていますね。

獅子:私自身がそういった体験をしたことはないんですが、周りでそういう人は見てきたので。たとえば昔、容姿が美しく勉強もできる女の先輩がいたんですが、一部の人からはすごく嫌われていて。写真が廊下に貼り出されると顔に爪のあとをつけられたり、「あいつキモイよね」と陰口を言われたり。目立って得する部分もいっぱいあると思うんですけれど、やっぱりストレスもあるんだろうなと、傍から見て思いました。

──他人を攻撃する人は、自分のなかのモヤモヤと向き合ってくれるといいですね。

獅子:それもありますが、私としては「キラキラした女の子にモヤモヤした気持ちを抱いてしまっても、それでもいいんだよ」ということもお伝えしたいです。「どんな気持ちを持ったとしても、とりあえずはいいんだ」という世界観を、私は描きたいなと思っています。

強くて可愛くて優しいのは「松田聖子」さんのイメージ

──獅子さんご自身が、白川さんみたいな方なのかと想像していました。

獅子:私自身ということではまったくないです。だから白川さんは「自分にないものを持っている、キラキラした眩しい美女を描くぞ!」っていうモードにならないと描けなくて(笑)。

──松田聖子さんのファンとおっしゃいましたが、世代的にはお若そうな?

獅子:テレビでよくやっている「懐かしのヒット曲」とか、そういう番組で知りました。松田聖子さんの、あのキラッキラした感じが昔からすごく好きでしたね。

──とくにどういうところが魅力ですか?

獅子:過去にはいろんなバッシングもご経験されたと思うんですが、そういうときでも、他罰的なイメージがあまりない。「私は松田聖子ですから!」という、バーンとした覚悟のようなものが感じられます。なおかつ、すごく可憐ですよね。鎧のような強さがあったうえで、すごく可愛かったりもする。

あとは、松田聖子さんって「みなさんから求められている聖子ちゃん像はこうだ」というものがたぶんあって、それに答えてくださる優しさもある。その「強くて可愛くて優しい」を、全部両立されているのが、すごく憧れです。

──白川さんは、年を取ることを怖がっていませんね。

獅子:私たちが生きてきた世界って、やっぱり「女は若くないといけない」みたいな価値観をすごく感じますよね。10代の頃から「今のうちに楽しんでおきなさい」と言われ、「若いうちに婚活しなきゃダメだよ」と言われるような「圧」がある。

もちろん「私は若さを武器にします」という価値観も大切だと思いますが、その一方で「いや、私は私らしく、何歳になっても結婚したければするし、しないっていう選択肢もある」という価値観も、どっちも大切だなと思っています。「その人がどんな人生を生きていても肯定したい」という気持ちが、いつも念頭にあります。

多様化する女性の生き方と、昭和の頃の“普通”

──作品のなかにも「結婚しようがしまいが、お母さんになろうがなるまいが、私の幸せは私が決めるの」というセリフがあって(1巻p81)、すごくいいなと思いました。



獅子:今って昔と比べたら、女性の社会進出も本当に進んでいますよね。でも生き方の選択肢が広がったからこそ、迷うときもあるじゃないですか。「あのとき、あの道を選んでいたら、もっと違う人生があったんじゃないか」と思ってしまうことが。

たとえば昭和の頃なら「ちょっとお勤めして、結婚したら仕事をやめて子育てする」というのがスタンダードで、その生き方をしていたら「私は “普通”に生きられているな」というふうに確認できたと思うんですけれど。今は本当に女性の生き方が多様化しているから、たぶん真面目な人ほど「周りが望む“普通”の人生に私は入れているんだろうか?」って、すごく悩むと思うんです。

獅子:しかも今はSNSも発達しているから、自分と同い年の人や同じ職業の人の生活が、すぐにわかってしまう。すると「あー、私はこの人に比べたら全然ダメだ、頑張っていない」と思ってしまう。SNSの功罪といいますか、昔に比べて「人と自分を比べやすい土壌」ができてしまったと思うんですね。

なので「私、全然ダメです」と思っている方が多いように思うんですけれど、客観的に見たら「えー、でもあなた、すごく頑張ってるじゃん!」って私は本当に思うので。どんな立場の方でも、結婚していてもしていなくても、お子さんがいてもいなくても、それぞれ皆さん本当に頑張っていらっしゃる。それを、漫画を通じて描いていけたらなと思っています。

ジュースを選ぶ女子高校生たちに「なんて可愛いんだろう」

──白川さんはメイクやネイルを愛していますが、獅子さんご自身も?

獅子:好きですけれど、白川さんほどではないです。それを楽しんでいる女の子を描くのが好きなんです。だから逆にメイクが嫌いな女の子がいても全然よくて。仕事でも遊びでもメイクでも、女の子が生き生きして楽しんでいるところを描くのがすごく好きです。

ちょっと話がずれてしまうんですけれど。この漫画を描き始める何年も前、駅のホームで、学校帰りの女子高生たちがワイワイ言いながら自販機のジュースを選んでいたのを覚えています。私は彼女たちの後ろ姿だけ見ていて、それがすごく輝いていて「なんて可愛いんだろう!」と思って。造形がどうということではなく、存在自体が可愛かったんです。

たぶん学校ではテストが大変だとか嫌なこともあるだろうし、だけど放課後には友達と「飲み物どれにする?」ってワイワイして、「どれがカロリー低いかな」とか言って、結局カロリー高いジュースを買っちゃったりする(笑)。そういうのがすごく楽しくて、可愛いと思う。

そのときに「私はそういう、女の子の可愛さや尊さだったりを、漫画に描きたい!」って、強く思ったんです。それはすごく、印象に残っています。

──白川さんは、若い子たちをいつも守ってあげようとしますよね。それは獅子さんのなかの、そういった思いが……。

獅子:そうだと思います。私が「大人になってよかったな」と思うのは、若い頃より生きるのに少し慣れてきた、ということなんです。自分はこういう人間なんだ、というのが少しずつわかってきて、生きやすくなった部分があるので。

私も10代の頃などは「若いうちに楽しまなきゃダメ」「若いうちに結婚しなきゃダメだ」といったメッセージの「圧」を受け取ってきました。そうしたい人がそうするのは、もちろんいいんですけれど。

でも「別にそれはどうでもいい」という人がいたら、そういう「圧」に従わなくてもいい。それはそれで、大人になるのって楽しいよ、ということも伝えたい気持ちがすごくあります。


──たくさんの読者から反響があると思いますが、とくに覚えているものなどはありますか?

獅子:いちばん初めだと、書籍化する前、Twitterで「『白川さん』が書籍化されたら私のバイブルにします」と言ってくれた女の子がいたんです。私はその一言でずっと頑張れてきたところがあって、すごく感謝もしています。

最近だと「4巻が出たばっかりだけど、もう5巻が欲しい」と言ってくださる方もいて。「白川さんがずっと続いてほしい」と言っていただけるのも、本当に嬉しい。そういうふうに言ってくださる読者さんがいるのは、本当に何より支えになっています。この漫画を「楽しみにしてます」って言ってくださる方が少しでもいてくれる限りは、これからも描いていきたいなと思っています。

(大塚 玲子 : ノンフィクションライター)