小林亮太「自分がどれだけ戦えるのか挑戦したい」5年後を見据えた役者としての目標を語る
数々の人気舞台などに出演し、確かな実力を見せている俳優・小林亮太の1st写真集「温度」が2023年5月30日に発売された。当初は「写真集を出すビジョンがなかった」という小林が、自身初の写真集へ込めた思い、そして撮影を通して感じた表現者としての課題についてなど語った。
【写真】2023年5月30日に写真集「温度」を発売した小林亮太
■自身初の写真集は「ファンの方とつながれる作品に」
――1st写真集の制作が決定した時の心境はいかがでしたか?
【小林亮太】そもそもお話を聞いた時点では、自分が写真集を出すというビジョンがなかったですし、このようなお話をいただけるとも思っていなかったので「ありがたいけど大丈夫かな?」と思いました。でも、マネージャーさんが「なかなかいただけるお話じゃないから、やろう!」と背中を押してくれて、そこから具体的に企画が動いていって。ただ、最初は僕の中で写真集というものがあまりにも漠然としていたので、どういうものにしたらいいのかとすごく悩みました。
企画が動き出してから約1カ月半ぐらい、撮影場所が決まらなかったんです。スタッフさんからもいろいろと提案をしてもらってはいましたが、どこもしっくりこなくて。初めての土地に行くのもいいなとは思いつつ、せっかくなら自分が思い入れのある地で撮影したいなと。そう考えていた時に、昔、ひいおばあちゃんを訪ねて、八戸へ行ったことが思い浮かんで、この場所がいいなと思いました。
――撮影の中で、小林さんからここに行きたい、こういうことがしたいとリクエストしたことはありますか?
【小林亮太】十和田湖での撮影は僕から提案させてもらいました。八戸市からだと車で3時間ぐらいかかる場所なんですが、小学生の頃、夏におばあちゃんと母方の叔父さんと3人で行ったことがあって。でも、今回訪れた冬の十和田湖は想像以上に雪が積もっていました。あまりにも雪が積もっていて、正直、十和田湖ではそこまでたくさんの写真は撮れなかったんですけど、だからこそ厳選した1枚になっています。
あと、僕も2年前ぐらいから趣味で写真を撮るようになったので、僕がカメラを構えている写真も撮っていただきました。実はその写真は撮影日の最後に撮ったものなんです。すべての撮影が終わっていたので、メイクも全部オフしていたし髪型もボサボサで。ロケバスでの帰り道に僕がチーム全員での記念写真を撮りたくて、急遽、道の途中でドライバーさんにお願いして車を止めていただきました。その時に僕が撮ったチームメンバーの写真を最後のページに入れてもらったので、それはすごくうれしかったですね。
――写真選びやゲラ(校正紙)チェックなど、制作まわりにも関わられたそうですね。
【小林亮太】そうなんです。正直、最初は遠慮をしていた部分もあったんですけど、スタッフの方から「著者は小林亮太になるから、自分が納得いくものにしてほしい」と言っていただき、写真選びもゲラチェックも積極的に関わらせていただきました。
そうやって制作の過程に携わってみて気づいたことがあるんです。写真集って、いい写真が多ければ多いほどいいのかなと思っていたんですけど、最初のページから最後のページまで流れで見ていくことを考えるとそうじゃないんだなと。例えば、アートっぽい写真を見開きで1枚絵として載せたら確かにインパクトはあるけど、それを何ページもやっていたら飽きるし、くどくなってしまう。だからこそ、そうじゃない自然体な写真も必要だし、カメラマンの横山マサトさんもそういう隙間の部分を撮ってくれていて、そうやって写真集は成立するんだなと。そう気づいたと同時に、それは映像作品にも通ずることだなと感じました。
例えば、映画で印象が強いカットばかりつなげられていたら、見ている人は誰の視点かわからなくなるし、どこに感情移入すればいいかわからなくなったりすると思うんです。だから、この写真集を通して、俳優としてもすごく得るものがありましたし、おもしろかったです。それに、自分の顔をこれだけチェックするというのもなかなかない経験でした。表現をする仕事をしている以上、自分の目に何が映っていて、どういう表現ができているのかというのはしっかりと見つめなきゃいけない部分だと思うので、改めて自分と向き合うことができたなと感じています。
初めての写真集にしては自らいろいろなことを考えて撮影に挑みましたし、僕のオーダーをたくさん叶えてもいただいたので、できあがったものを手にした時はとても感動しました。
――写真集へのサイン入れは何千冊にも及んだとのことですが、いかがでしたか?
【小林亮太】「芸能人の方がやっているのを見たことある!」って思いました(笑)。こんなにもたくさんご注文いただけると思っていなかったので、実際、写真集が積み上げられている様子を見て、本当にありがたいなと感じました。そもそも応援してくださっている方がいないとできないことですし、僕が普段、役者として携わっている作品とはまた違う、ファンの皆さんとつながる作品になれたらいいなと思います。
■一面の雪景色での撮影で「チームがひとつになった感覚がありました」
――撮影をとおして、特に印象に残っている場所や出来事があれば教えてください。
【小林亮太】赤い衣装を着ている、種差海岸での撮影ですね。普段は真緑の芝地なんですけど、2月だったので一面真っ白。雲の隙間から太陽ものぞいていて、自然の力を感じました。カメラマンの横山さんからも、この写真集においての正念場だという気合が伝わってきましたし、素の自分というよりかは、自分の中の温度を高めての撮影だったなと。雪の積もった海岸線を走って動き回っていて、それにスタッフさんたちもついてきてくれたので、それまでの時間も含めてですけど、その瞬間、チームがひとつになった感覚が改めてありました。楽しかったし、いろいろなものが味方してくれて、この写真集の中で一番“温度”が高い写真になったと思います。
あとは、朝銭湯もよかったです。カメラマンさんと二人きりで風呂に入って、撮影前は恥ずかしさを感じるかなと思っていたんですけど、そんなこともなく。ここで初めて朝銭湯を経験したんですけど、めちゃくちゃ気持ちよかったので東京に帰ってきてからも朝風呂によく入るようになりました。
――今回は2泊3日での撮影だったとのことですが、宿泊先でもスタッフの方々と和気あいあいとコミュニケーションを取られていたとか。
【小林亮太】そうですね。深夜3時ぐらいまでいろいろな話をしていました。そこでの時間があったからこそ、よりチーム感も高まったと思います。ただ、夜遅くまでみんなで話していたので、朝は眠すぎて全員元気がなかったです(笑)。
あと、撮影を行ったのがミュージカル『キングアーサー』の公演の間だったんですけど、座組でけん玉が流行っていたので、僕も夜な夜な部屋でけん玉の練習をしていたんですよ。そうしたら翌日、隣の部屋だった横山さんが「夜中にずっとカンカンという音が聞こえてたんだけど、この旅館出るのかも……」と。その正体が僕だとわかってみんなで笑いました。思っていた以上に音が響いていたらしく、申し訳なかったです…。たしかに、隣の部屋から謎の音が聞こえてきたら怖いですよね(笑)。
――どの写真もこだわりが詰まっているかと思いますが、特にお気に入りの1枚をあげるとしたら?
【小林亮太】浴衣姿で目がクローズアップされている1枚ですかね。よく、役者仲間や応援してくれている方から、僕は目が印象的だと言っていただけることが多くて。この1枚は、朝一の撮影で少し寝ぼけているような、感覚がまだ起きていないような素の自分を撮ってもらえた気がしています。朝日も相まってすごく素敵に撮っていただいたので、個人的にもお気に入りです。
■今後の目標は「目を武器にできる役者になりたい」
――写真集というひとつの作品を作り上げた今、舞台や映像ではなく、写真を通して表現をすることに対して改めて感じたことはありますか?
【小林亮太】正直に言うと、被写体としてまだまだだと思いました。なんでもない自分になった時に、意外と物事を捉えられていないな、まだ甘いかもと感じて。そこが自分の課題だと思った部分でもありますし、目が印象的だと言ってもらえるからこそ、もっと自分を理解して使いこなしていかないと、と感じました。
周りに素敵なチームメンバーがいたわけだし、もっとやれたんじゃないかと思うところもあったけど、でもこれが今の自分だとも思うんです。そんな自分を知るきっかけにもなったので、こういう機会をいただけたことが本当にありがたいです。見えた今の自分の課題を踏まえて、しっかりと目を武器にできる役者になりたいと思いました。
――今年もさまざまなフィールドで活躍中の小林さんですが、俳優としての今後の目標も教えてください。
【小林亮太】写真集に「温度」というタイトルをつけたのも、さまざまな温度帯の人間を演じられるようになりたいと思ったからなんです。ここ2年ぐらいは演劇という場にいて、いろいろな演出家さんと舞台をやらせていただき、たくさんの新しい景色を見ることができて、これまでになかった感覚、そして仲間にも出会えたので、やっぱり演劇がすごく好きだなと思いました。でも、だからこそ、映像作品でどれだけ戦えるのか挑戦したいと思ったんです。
今年25歳になるので、5年後の30歳になった時に、映像でも演劇の場でも戦える役者になりたいと考えています。30歳の時に、1年の中で演劇を1本やって、ほかの時間は映像作品をやって、というのが今の理想です。それが実現できるように、どこでも戦っていける芝居を身につけていきたい。今まで自分がやってきたことを信じつつ、新たな場所にも飛び込んでいきたいと思っています。
スタイリスト=石橋修一
ヘアメイク=田中宏昌
撮影=大塚秀美
取材・文=榎本麻紀恵
衣装協力=ジャケット(\55,000) 、Tシャツ(\15,400)、パンツ(\33,000) ※すべて、Ohal/JOYEUX(03-4361-4464)