KDDIは、サステナビリティの取り組みについて説明。基地局施設に太陽光パネルを設置し、24時間365日、実質CO2排出量ゼロを実現する「サステナブル基地局」の運用を開始すると発表したほか、国内通信事業者としては初めて、TNFDレポートを開示すると発表した。

KDDIのサステナブル基地局

KDDI サステナビリティ経営推進本部長の山下和保氏は、「KDDIは、今後もカーボンニュートラルに積極的に取り組む。また、生物多様性の課題解決に対しても、つなぐチカラで貢献する」と語った。

KDDI サステナビリティ経営推進本部長の山下和保氏

サステナブル基地局は、敷地内に太陽光パネルを設置し、日中は発電した再生可能エネルギーを使用。基地局から電波を発射する際の電力に活用する。

気象状況などにより太陽光発電パネルの一部に影がかかる場合や、雨天時や夜間の場合には、auエネルギー&ライフが提供するカーボンフリープランを活用し、CO2排出量の実質ゼロを実現する。

太陽光発電ができない状況でも、カーボンフリーのエネルギーで運用でき、常にCO2排出量の実質ゼロを実現できる

「基地局における新たな再生可能エネルギーへの取り組みになる。災害時にも日照がある場合には、基地局を稼働させることができる。発電した電力を蓄電池に充電することで、ネットワークの強靭化にも寄与する」とし、「既設の基地局をサステナブル基地局に切り替え、今後、積極的に拡大していく」と述べた。

太陽光発電以外の再生可能エネルギーを活用した基地局の運用も検討しているという。

○5G普及と通信量拡大で、CO2排出量は増加の予測

KDDIでは、商用電力に加え、太陽光発電と蓄電池の「3つの電力」を時間帯や天候によって使い分けるトライブリッド基地局を展開してきた経緯があるが、同基地局は東日本大震災で発生した停電による停波への対応を目的としたものであり、今回のサステナブル基地局とは狙いが違うと説明。今後は、サステナブル基地局を増やしていくことになる。

KDDIによると、2021年度の同社通信設備における電気使用に伴うCO2排出量は109万トンに達していたが、これを、2026年度には、Telehouseの名称でグローバル展開しているデータセンターのカーボンニュートラルを達成。2030年度には全体でカーボンニュートラル達成を目標に掲げている。

KDDIのカーボンニュートラル目標

「KDDIのCO2排出量の98%が、携帯電話基地局や通信局舎、データセンターの通信設備などの電気使用に起因しているものである。これらによって排出されるCO2は約100万トンであり、一般家庭の約40万世帯分のCO2排出量に匹敵する。5Gの普及と通信量の拡大により、さらに増加することが想定されているため、これらの設備における電気使用量の削減が喫緊の課題である」とする。

基地局の省エネへの取り組みでは、3Gの停波や、他社との基地局設備の共用、トラフィックに応じた基地局のスリープ制御を実施。さらに、オールフォトニックネットワーク技術による消費電力の削減、基地局およびデータセンター局舎の再生可能エネルギーへの切り替えの促進を進めている。

先に触れたサステナブル基地局のほかにも、2023年5月に開業したタイのデータセンターである「TELEHOUSE Bangkok」では、100%再生可能エネルギーによる電力供給を実現。CO2排出量実質ゼロを実現した海外データセンター拠点は、英国、フランス、ドイツ、中国に続いて5カ国になった。

タイで「TELEHOUSE Bangkok」を開設。CO2排出量実質ゼロを実現した海外データセンターは5カ所目だ

また、太陽光による再生可能エネルギー発電事業を担うauリニューアブルエナジーを設立し、2023年4月から事業を開始したほか、分散型電源の技術を活用して電力の安定供給の実現に貢献する取り組みを進める。

法人向けには、「グリーンモバイル」の提供を開始。KDDIが提供する通信サービスに関する電力を、再生可能エネルギーにすることができる。法人向けのすべての料金プランが対象で、追加料金は不要で利用できる。「Scope3対応のCO2排出量削減と、情報開示に貢献し、見える化にも役立つ」とした。

これらの取り組みを通じて、「パートナートとともに、自社と社会のカーボンニュートラルを推進し、気候変動問題の解決を目指す」と述べた。

○国内通信事業者では初の「TNFDレポート」開示

一方、新たに開示するTNFDレポートは、生物多様性への挑戦と位置づけている。

TNFDは、自然関連のリスクと機会が、企業の財務に与える影響を開示するための枠組み構築を目指す国際組織であり、自然資本に関する情報開示を促進している。2023年9月には、情報開示フレームワークの最終版を公開する予定だ。

国内通信事業者では初となるTNFDレポートの開示

KDDIを取り巻くリスクとしては、基地局建設や通信ケーブル設置による土地改変などがあり、リスク低減のために自然環境に配慮した通信設備の設置を推進。基地局の小型化などによる景観に配慮した施工や水力発電の活用、既存の電線や電柱などを利用したケーブル設置による環境影響の最小化のほか、海底ケーブルの敷設では、サンゴ礁を避けたルート設計や、ウミガメの産卵期を避けた施工の実施などを行う。

自然環境に配慮した通信設備の設置の事例

「TNFD開示の枠組みに基づいて、ガバナンス、戦略、リスク/機会の管理、指標と目標を軸として、外部専門家とともに分析し、レポートとして開示した。土地を切り拓いて基地局を設置することで、災害リスクの増加が考えられる場合もあり、責任を持って保全に取り組まなければならない。一方で、生物多様性を含む自然資本は、KDDIの強みが発揮でき、事業機会としても親和性が高い領域である」と述べ、「つなぐチカラを用いて、生物多様性保全に貢献していく」と語った。

屋久島では水力発電による電力を使用した基地局を設置し、景観に配慮した施工を実施。三重県鳥羽市では、藻場の保全に向けた海洋DXを推進し、水上ドローンによる海藻の状態を分析して可視化。ブルーカーボン自動計測システムを構築し、水中カメラセンサーから収集した藻の種類、体積を分析しているという。また、兵庫県豊岡市では、コウノトリや多様な生物が生息する自然環境の実現とともに、無農薬栽培を推進するスマート農業に取り組んでおり、水田に設置したセンサーから各種情報を収集して解析。スマホと連携させて管理することで、コウノトリが屋外で生きていける環境の構築に貢献しているという。

屋久島では通常の約2mのアンテナではなく、30cmの小型アンテナを導入し、景観に配慮

三重県鳥羽市の取り組みでは水上ドローンを活用した

2023年4月には、KDDI Green Partners Fundを通じて、バイオームに出資。いきものコレクションアプリ「Biome」を提供し、収集および分析した生物データを地方自治体や企業に販売している例も紹介した。

KDDI Green Partners Fundとカーボンニュートラルの取り組み

KDDIでは、「生物多様性保全の行動指針」を策定しており、「事業活動における保全の実践」、「関係組織との連携・協力」、「資源循環の推進」の3点から生物多様性保全に向けた貢献活動を推進している。

○2030年の未来を見据えた「KDDI VISION 2030」

KDDIでは、2030年の未来を見据えた「KDDI VISION 2030」を策定しており、KDDIのKDDIのSDGs「KDDI Sustainable Action」のエッセンスを盛り込み、ビジョンの実現に向けて、サステナビリティ経営を推進している。

2030年の未来を見据えた「KDDI VISION 2030」を策定

「KDDIのサステナビリティ経営は、中期経営戦略の軸に据えており、事業戦略であるサテライトグロース戦略と、経営基盤強化の両輪で推進。パートナーとともに社会の持続的成長と企業価値の向上の好循環を目指す」としている。

また、通信事業者としての社会的使命についても説明。「KDDIの使命は、『つなぐ』ことである。命、暮らし、心の3つをつなぎ、『つなぐチカラ』を進化させ、あらゆるシーンに通信が溶け込むことで、新たな価値を生み、それによって社会課題を解決される時代を目指す」とした。

たとえば、カーボンニュートラルへの貢献や、生物多様性保全への挑戦は、命をつなぐ取り組みに位置づけている。

「つなぐチカラ」でサステナビリティ経営を推進

KDDI VISION 2030で示している「つなぐチカラ」を支えるのが、「通信」であることを改めて強調した。

「通話やインターネット利用のほか、物流、自動車、行政、銀行といった様々な業種や生活インフラにおいて、通信は重要な役割を担っている。高品質で、強靭な4Gおよび5Gを中心にした通信基盤とともに、IoTがあらゆる産業に拡大させ、社会のステークホルダーが抱える課題の解決に貢献していく。Starlinkなどの技術面の拡張やパートナーリングにより、つながらない場所を無くすことにも取り組む。今後は、あらゆるものに、通信がますます溶け込んでいく時代に入る。いつでも、どこでもつながり続けるレジリエントな通信基盤を用意することが、社会全体のサステナビリティの礎となり、使命である」と述べた。

KDDI VISION 2030で示している「つなぐチカラ」を支えるのは「通信」だと強調する

つなぐチカラの進化では、サテライトグロース戦略を推進し、通信を中心にDX、LX(Life Transformation)を推進するほか、金融、エネルギーなどの事業領域でも新たな価値を創造。具体的な取り組みとして、土砂災害現場でのドローンによる物資配送、IoTによる養殖のデジタル化、通信障害や災害時に備えた副回線サービスの開始、スマホセントリックな金融、決済サービスの提供などを例にあげた。

通信はサステナブルな社会を実現するためには重要なインフラである。それを維持するために、KDDIは、カーボンニュートラルや生物多様性保全の観点からも積極的な取り組みを行っていることを示した。「サステナビリティ経営」の進化はこれからも続きそうだ。