画廊と美術館での学芸員経験を持ち、現在は美術エッセイストとして活躍中の小笠原洋子さんは、高齢者向けの3DK団地でひとり暮らしをしています。「ケチカロジー」という言葉を生み出し発信してきた小笠原さんに、お金をかけずに楽しむ住まいの工夫について教えてもらいました。

ひとり暮らしを楽しく。生活を豊かにする工夫

私は73歳の年金生活者です。節約の衣・食生活に続いて、今回は「おひとりさまの倹約住まい」についてお話しします。

【写真】食事が楽しくなる自作の「ひとり用食卓」

東京郊外の団地群の中にある3DKのわが家では、なるべくものは少なく、雑多に見えないように工夫しています。

●狭い場所はものを置かない、ゴチャつかない工夫を

まずは玄関。靴箱を置くと窮屈なので、そもそも靴箱を持っていません。靴の高さ分の低い板を渡した下に、普段履く靴を入れています。幸い玄関壁にはめ込みの戸棚があるので、長靴などはここにしまってあります。

玄関を上がると左が和室で、右が洗濯機も置いてある洗面所です。洗濯機のフタはカビ防止のため開け放しで、レースをかけて体裁を整えていますが、ここも狭いので極力ものは置きません。洗面所続きのトイレも普段は開け放しですので、棚上の予備ペーパーなどはゴチャついてみえないよう、壁と同色の袋に入れて保管しています。

風呂場は、かつて排水溝掃除を怠ったため、いざ掃除のときに苦労したので、今は、風呂掃除のたびに排水溝も洗うようになりました。使わなくなったトングとコップ洗いだったブラシでの溝口洗いに役立っています。

どの部屋でも、ゴミを見たらすぐ取る。水滴はすぐふく。この習慣化が大事ですね。あとのお掃除がらくになります。

●ベッドや食卓用のテーブルは買わずに代用品で

もう1つの和室は寝室に使っています。畳にベッドですが、この寝台、じつは以前の家でで小上がりとして使用していた台だったものです。ヘッドボードはありませんが、身長に合ったサイズでちょうどよい寝台になっています。

続く台所もこれまた狭く、テーブルは置けません。リビングルームとバリアフリーでつながっているので、ほかの部屋の住人さんはリビングで食事をする方が多いかもしれません。

しかし私はこのリビングに、兄の遺品で、粗大ゴミにするにはお金がかかり過ぎた机を置いたため、来客用のお席はおろか自分の食卓も置くことができません。

そこで思いついたのが、座部中央が劣化して座れなくなった古い籐(とう)のスツールを二客並べた上に、解体した本棚のボードを渡し、更紗(さらさ)のクロスをかけた食卓です。

このスツールが好きで捨てずにいたことが役立ちました。とても低くとても小さいのですが、「おひとりさま食」には最適。携帯や眼鏡、カギ、雑誌など「ちょっと置き場」になりやすい食卓が、あまりの狭さに置けないため、すっきりを保てます。

●食事が楽しくなる絶景食堂

その小卓はリビングの隅に、野原と林だけを望むわが家の「絶景展望所」に置いています。ワンフロア上階に住んでいた転居前の部屋で、「絶景食堂」として『ケチじょうず』(ビジネス社刊)で紹介したキャスターつきワゴンの食卓は、この小卓に変わりましたが、新居でも絶景食堂は健在です。正面のガラス戸には、メモ用紙をさまざまな形に切り抜いてつなげたモビールが、カーテン代わりの目隠しとして、提げられています。

 

●インテリアの工夫も楽しみのひとつ

最後が北に面した「夏の避暑室」。その前に、その入り口手前の小スペースをご案内します。玄関口の正面にあたる場所です。

ここに「針金イケバナ」とでも申す飾りがあります。伝統的な備前焼きの「蹲(うずくまる)」に、巻いておいた針金を挿して(いえいえぶら下げてみたのです)。その下に展示した現代陶芸の作品とマッチすると自分では満足しています。

さて北室は、寒がりの私には冬場入室できないので、冷蔵庫代わりの食べ物一時置き場になっています。それにひとり住まいには過分の一室ですので、長年飾りもしないで仕舞ってあった絵や陶器などを並べてみました。

最高傑作はレースをかけたチェストまがい。じつはこれ、上半分を失ったタンスの引き出しなのです。かつて小さなアパートに越したとき、どこからも運び入れることのできなかった大ダンスを、気前よく上部を処分してしまった家具です。

ケチが売りの自宅は、大した家具もなく、インテリアも古いあり合わせリサイクルですが、気分に合わせて模様替えができ、好きなように暮らせるのがおひとりさまの特権かもしれませんね。