この記事をまとめると

■昭和の時代ではライバル車で値引き額を競わせて購入車種を決めるのが一般的であった

■いまだこの昭和な買い方を好む人もいるそうだが売る側からは敬遠されている

■いまは商談も効率化が進み、WEB見積もりで予算を絞り込んで一本釣りするのが一般的だ

ブームでも令和の商談の場に「昭和の買い方」はそぐわない

 ここのところ「昭和レトロブーム」というのが続いている。令和になり、ますます輝きがなくなりつつあるいまの日本に比べれば、戦後復興を果たし、いまに比べればまだまだ世の中には若い人が多く、家電(家庭向け電化製品)や自動車を中心に「MADE IN JAPAN」が世界を席巻していた。まさに昭和(戦後)は、日本が世界の中でも光り輝いていた時代であった。

 そんな昭和を懐かしむのは、昭和をリアルで知っている層だけかと思えば、平成生まれの若い層でも“昭和”にはまっている人が多いとのこと。筆者としても昭和後期から平成初期にかけての日本車は、歴史上もっとも輝いていた時期だと考えている。

 そんな昭和のころの新車の買い方といえば、たとえばトヨタ・カローラセダンが欲しければ、日産サニー、マツダ・ファミリア、ホンダ・シビックなどをライバルとして挙げ、それぞれの値引き額を競わせて購入車種を決めて発注するというのがポピュラーであった。

 初回値引き、競合(値引きを競わせる)、ダメ押し(購入本命車を決め契約直前にダメ押しで値引きアップを要求)といった交渉プロセスを複数回の商談を経て進めるのもお決まりであった。そのため、サラリーマンなら、おもに週末に商談を行うことになるので、複数回の商談を行い、最終的に契約まで到達するのに2〜3週間かかることも珍しくなかった。

 このように世の中で昭和レトロがブームとなっているなか、新車販売現場でも「昭和の買い方」を好んで行う人がいるそうだが、売る側からするといまどきではないとして敬遠されているのが現状となっている。

 その背景としては、まず昭和のころのようにカローラvsサニーといったガチンコでライバル関係となる車種がメーカー間でほとんどなくなっていることがある。ミニバンのトヨタ・ノア&ヴォクシー、日産セレナ、ホンダ・ステップワゴンは最近まで数少ないガチンコ勝負できるライバル関係にあるといえたが、ステップワゴンの現行モデルはノア&ヴォクシーやセレナとは一線を画すスタイルとなっており、「ステップワゴンを検討している」ということが値引きアップに効果的とはいえなくなってきている。

 トヨタ・シエンタとホンダ・フリードも数少ないガチンコライバル車といわれているが、トヨタ系ディーラーで聞くと、「まずフリードの話は出てこない」という話も聞く。じっくり見比べるということはなく、「単純に安く買えるほうにする」という買い方はあるようだが、それは昭和スタイルとは少々異なるようで、即断即決に近い短期勝負が主流となるようだ。

 ただ、トヨタ・ルーミーとスズキ・ソリオでは、ルーミーの商談でソリオがチラつくことも目立つようだ。

 現行ルーミーではHEV(ハイブリッド車)はないが、ソリオではHEVがラインアップされているので、購入検討している客も「ルーミーでいきたいものの、ソリオが気になる」という動きがあるようだ。

商談の効率化で素早い成約が好まれる

 そして、2020年5月よりトヨタ系正規ディーラーすべての店舗ですべてのトヨタ車が購入できるようになった。じつはこれが他メーカー車同士で値引き条件を競り合わせるような商談を過去のもののようにすることに拍車をかけた。

 全店舗で全トヨタ車が買えるようになったが、依然として多くの地域では資本の異なるトヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店が存在する。とくにカローラ店やネッツ店は同一地域内に資本の異なるディーラーが複数存在することも多い。つまり、トヨタ車を本命車としてトヨタ車同士で値引きを競わせるという新車の買い方が増えることとなり、よほどトヨタ以外のメーカーで興味のあるモデルでもなければ、そしてクルマ自体にそれほど強い思い入れがなければ、トヨタ車だけでスンナリ新車購入するといった動きも目立ってきたのである。

 また、商談の効率化というものも進んでいる。販売現場ではセールススタッフ不足が深刻となって久しい。そのような人員不足のなかで新車を販売していおり、商談一件当たりにかける商談時間を短くできるセールススタッフがより優秀と評価されるようになった。そのため、昭和のころのようにライバル車をゾロゾロしたがえて複数回の商談を好むような客については、「購入意思がそれほど固まっていない」と判断される傾向が強まっている。

 新車を買う側も1回で数時間かかる商談を複数回繰り返すことを好まない(とくに週末しか商談できなければなおさら)人も増え、そのような人はあらかじめメーカーウェブサイトで研究して本命車を絞り込み、見積りシミュレーションを活用し、だいたいの自分の希望予算を絞り込んで本命一本でリアルな商談に臨むことも増えている。セールススタッフの多くが昭和タイプの商談を苦手とすることもあると聞く。

 現金一括払いならば、まだ昭和のころのようにじっくり腰を据えて値引き交渉ということもあるかもしれない。ただ、現状では残価設定ローンを利用した新車購入が主流になろうとしている。残価設定ローンを利用すれば長くても5年ぐらいで乗り換えることになるので、ディーラーとしても短期間で乗り換えてくれる残価設定ローン利用客をメインターゲットとしているのである(10数年以上など長期間乗り続ける人は現金払いが多いと見ているようだ)。短いサイクルで乗り換えてもらえる客を優先するのは商売上やむを得ないのかもしれない。

 また、残価設定ローンを使えば、交渉は「月々いくらにしたい」というのがベースとなる。セールススタッフはその希望に合わせて調整するだけなので、商談に費やす時間もセーブすることができるのである。つまり、値引き額で損得勘定する人もかなり減っているのだ。現金払いであっても、「支払総額で300万円になればいい」といった交渉が多いので、車両価格、用品など、それぞれの値引き額に固執しているとゲーム感覚という印象も強くなるし、いまどきでは「SNSなどで商談や値引き条件などを公開するつもりでは?」などとも勘繰られやすく、かえって条件拡大が進まないケースもある。

 昭和レトロブームとはいうものの、昭和のころの新車の買い方は令和の世の中の効果はかなり薄れており、勢いが復活するということもまずなさそうだ。ただし、どのようなスタイルで商談するかはあくまで自由なので、昭和の買い方を全面的に否定するつもりはない。