女優・川上麻衣子さんの暮らしのエッセー。 一般社団法人「ねこと今日」の理事長を務め、愛猫家としても知られる川上さんが、猫のこと、50代の暮らしのこと、食のこと、出生地であり、その後も定期的に訪れるスウェーデンのこと(フィーカ:fikaはスウェーデン語でコーヒーブレイクのこと)などを写真と文章でつづります。第26回は、川上さんが「年を取った」と感じる理由、デジタルとの向き合い方について。

50代、デジタルの波に溺れそうなりながらなんとか呼吸

今いちばんやりたいけれど、実践できずにジレンマとなっていることがあります。
それは「デジタルデトックス」。

【写真】ノートパソコンで作業する約23年前の川上麻衣子さん

年々進化するデジタル化の波に溺れそうになりながらも、なんとか呼吸している…。

 

私はまさしく今、そんな心境にいます。これは精神的なものだけではなく、肉体的にもそこそこに、まずい状況なのではないかなと思っているのです。50代の私がそうなのですから、さらに上の世代となると事態はさらに深刻かもしれません。

しかし果たしてこれは昭和世代ならではに起こる現象なのでしょうか。平成、令和時代に生まれた次世代の人たちには無縁の感覚なのでしょうか。

子どもや孫がいればその辺りの現状を知ることもできるのですが、いわゆるこれこそが「年をとったなぁ」と言わしめている要因かもしれません。

●「今の若い子たちは…」に過敏だった時代もあった

若い頃に年配の方々が「今の若い子たちは」と口にするのを聞くと、異常なくらいに拒否反応がありました。「新人類」と呼ばれた世代ですから、封建的な考え方をする諸先輩方に正面から反抗することもありました。

そこを振り返ると、いま私が陥っているジレンマも、昔を懐かしむノスタルジックさと年を重ねながら蓄えた頑固さが招いていると、言えなくもありません。

がしかし、それにしても…と思うのです。SNSを開けば、どういうわけか「57歳のあなたへ」とピンポイントで私の年齢をターゲットとした広告が飛び込んできます。いつどこで、なにが原因かを今更探るのは困難なほど、私の個人的思想や年齢的な傾向は、ネット上にインプットされているのでしょう。

まぁ、そこはもう仕方ないこととしても、入ってくる広告がまた、シミ、シワ、白髪、ダイエット、掃除グッズ…。私の脳内がこんな風にまとめられているのかと思うと悲しくなりますが、それら広告がどれも画期的と言われる開発をしたと、大騒ぎしていることにも違和感を感じてしまいます。

見なければよいものを、明らかに加工技術で施されているBEFORE&AFTERを見て「これって詐欺なんじゃないの?」とつぶやくこともしばしば。そうなのです。見なければよいのに、つい見てしまう、そんな自分がいちばん情けなくてジレンマに陥っているのです。

●デジタル化に助けられているのに時間に追われるのはなぜ?

デジタル化が進んだことで、時間短縮された事柄は山ほどあります。原稿を書くことも、写真を加工することも、メッセージを伝えることも、20年前とは大きく異なります。

当時はパソコン上で1枚の写真に文字を書き込むだけでもかなりの時間を要した記憶があります。それでも自宅で写真を加工、印刷できることは画期的でしたので、深夜まで夢中となっていました。その当時に比べたら本来であれば、1日の時間はもっと有意義に余裕をもって過ごせそうなものなのに、どういうわけか以前より日々の生活は慌ただしく忙しなく感じます。

時間短縮で生まれた時間は、もっと余暇に使われてもいいはずなのに…です。

よくよく自分の行動を振り返ってみると、ひとつの行動を起こすためにスマホやパソコンを介してしまうと、途中で寄り道してしまうことが兎にも角にも多いことに気づきました。

Aさんに写真を送信しようと、膨大にたまったデータを整理しているとBさんからのメッセージを受信。Bさんのメッセージを読んでいたら、今度は支払い請求メールが届いて確認作業。

当初の目的がなにであったかを忘れることは珍しくありません。これは本当にまずい状況だと、現在自らを戒めているわけです。

●イライラせずに日々を送れるよう“うまいこと”やっていきたい

1990年代に出版社のCMに出演させて頂いた際、CMのテーマでもあった「知りたいことはなんですか?」という質問を受けたことがあります。当時は携帯電話もまだそれほど普及していない時代でしたが、テレビやステレオがリモコンで作動することに新しい時代を感じていました。

自分の部屋にどれくらいの信号が流れているのか、怖さもあって「目で見てみたい」と答えたことをよく覚えています。

あれから30年。

何でもかんでもAIの時代。
ちょっとした問い合わせには電話をかけても、人間に辿り着までなんと時間のかかることか…。ようやく辿り着いた血の通った人間が、マニュアルどおりにしか答えてくれずまたしてもストレス…。

結果、昔の方がもっとシンプルで、物事スムーズだったわと愚痴が出てしまいます。イライライライラ…。そりゃシワも増えるわッとまたイライラ。

だめだめ。平常心、平常心、と言い聞かせる毎日。必要なのはデジタルデトックス。1日でもよいから、情報から解放されて、緑あふれる自然の中で昭和的な時間を感じたい。

いやはや、「年を取ったもんだなぁ」と最も実感するのはこんなときなのかもしれませんね。