作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセイ。今年もやってきた梅の季節。「梅子と言えば私」というほど梅仕事に没頭する高橋久美子さんの今年の梅の様子をつづってもらいました。

第99回「梅酒・梅干し・酵素梅!梅三昧の日々。」

前回書いたときはまだ青梅だったけれど、2週間の間に落下する梅も黄色く熟してきた。いい感じいい感じ。青梅では梅肉エキスを作ったけれど、今回は梅の第2ステージへ。

「私も梅漬けてみたい! ぜひ連れてってください」

と、最近は梅の世界へ飛び込む友人たちが現れはじめた。

「よーし! この日に梅採集を決行しよう」

ということで、5月の末、友人たちが袋を持って私の梅スポットにやってきた。いつもは一人で黙々と採るけれど、仲間がいるとピクニックのようで楽しい。私のおすすめ場所のうち2か所は広場なので自由に入っていいけれど、もう1か所はご近所さんの庭なので、事前に友人を連れてきていいか尋ねると、快く「どうぞどうぞ」と言ってくれた。この家のおばあさんはもはや梅友達で、昨年は自作の梅シロップをいただいたりもした。

梅は木によって味が違う。中には、苦味が強くてシロップには適さない梅もある。種類や日当たりでも違うし、みかんと同じく樹齢によっても。おばあさんの家の梅は70年を越えた老木で、まろやかで香りもよく奥深い味わいだ。

「わー! めちゃくちゃ落ちてる。青い方がいい? 黄色いのも大丈夫?」

「うん、割れて虫が入ってるの以外はどれも採って大丈夫よ」

完熟梅が落ちることを虫たちも心待ちにしている。梅子(6月の私の名前)的に、ここ数年梅を漬けまくって思うことは、青梅と黄色い梅、さらに柔らかくなった完熟梅を使い分けよ!

●梅の使い分け方

青梅はブランデーや焼酎などのお酒につけると、氷砂糖とともに時間をかけてじんわりエキスが出て美味しくできる。一見、黄色い方が美味しくできそうなんだけど、何年か後に飲んでも黄色より青の方が香りも味も良いのだ。じわじわ熟していくからかな。梅シロップも同じ原理で、青い方が適している。

あとは、ホワイトリカーでつけるとどうしてもアルコールっぽさが残るので、私はブランデーや麦焼酎で漬け、一年以上寝かす。私の実験ではアルコール度数が20度あれば問題ない。砂糖の半量を黒糖にするのもおすすめ。ちなみに、砂糖の量も年々減らし限界値の6割に達した。お酒に対し梅の量は多めに入れたりと毎年実験ノートをつけている。

黄色く熟した梅は、即効性のいる梅干しが向いている。黄色い梅ならば10%の塩分濃度で大丈夫だ。ただし、完熟ということは腐る手前なので、すぐに梅酢が上がってこなければ困る(梅酢に浸かれば腐る心配はない)。

そのための重しだ。琺瑯の鍋に黄色い梅を入れて梅の重さの10%の塩をかけ、平皿を逆さまに蓋をするように置く。その上に私は前年漬けた梅干しとか梅酒の瓶をでーんと載せる。そうすると2日もすれば梅酢が上がってくる(鉄製容器は使わないこと)。これが青梅だったら、なかなか梅酢が上がらないから、結局塩分濃度を上げたり他の調味料を入れることになる。

●酵素梅のつくり方

今年も酵素梅を作ってみましょう。瓶やジップロックに完熟梅を包丁で刻んで、種も一緒に入れる。そして梅の重さの1倍のお砂糖を梅、砂糖、梅、砂糖の順に入れる。でも、これだと甘すぎて飲めないなあと思ったので、7割で作っている。そのかわり、かなりの完熟梅だけを使うし、毎日混ぜ混ぜする。様子を見たり味見をして、酸っぱすぎて砂糖が足りないなと思ったら足す。観察こそ大事ね。

とにかく毎日素手で混ぜるのです。ぬか床と同じで、手の常在菌が正常な発酵を促してくれ、空気を入れてやることで腐敗を防ぐ。腐敗と発酵は紙一重だ。

夏みかんやビワでも作ったけど、こちらは発酵が遅いみたい。おいしく発酵させるために、私は落ちていた木の枝とか葉っぱも入れる。かなりワイルドな方法だよ。

黒糖を使うとさらに美味しいかも! と思って作ってみたけれど、黒糖は発酵が非常に緩やか。白砂糖は翌日からぶくぶく。ハチミツはとてもクリアでべたべたしなくておいしい。てんさい糖もぶくぶく早い。砂糖が少なすぎたら苦くなるのかもしれなくて、でも梅によって違ったりもして、実験は続く。

梅を刻まないでそのまま漬けた青梅も発酵しはじめた。こちらの方が青梅だからか発酵がゆるやかで香りが最高! やっぱりシロップは青梅だな。

パーン!!!!

ぶしゅー!!!!

シャンパンを開けたときのように、爆発したやつがいた。

上まで入れすぎて、しかも蓋をしてしまっていたからやな。辺りが、びったびたのベトベト…。発酵するということは、呼吸しているということで、蓋をしめないように注意だ。ただ、梅の匂いにつられて小蝿が寄ってくるので、キッチンペーパーを二重にかけて輪ゴムでしっかりと止めておくこと。

●今年も梅仕事に熱中

「梅をたくさん収穫したんだけれど、久美子さんいりませんか?」

大阪の友人からメッセージが来た。

「私も今年20キロ以上漬けているけど、梅子としては世界中の梅を漬けたいので、ほしいです!」

送ってくれたのは、なんとも美しいぴかぴかの青梅だ。落下梅生活だとめったにお目にかかれない鮮度! すぐさま梅肉エキスを作った。少しして焼酎に漬け、さらに一週間寝かせて梅干しに。やはり梅肉エキスは真っ青がいい、梅酒は青がいい、そして梅干しは黄色がいいぞ! 熱中するあまり、気がつけば朝5時になっている日もあった…。

今年は、お隣さんに教えてもらって完熟の割れ梅で梅味噌も作ってみた。なんちゅうおいしいさ! 温かいご飯に載せて食べると何杯でもいける。あ、黄色を通り越してオレンジにさしかかったような梅はそのままかじって食べても杏のようで美味しい。または、梅ジャムにするのがおすすめ。スーパーで半額になった完熟梅が狙い時よ!

梅漬けに赤紫蘇を揉んで入れて、はあ、やっとこさ一年分の梅がしこめたぞー。あとは夏の天日干しだな。

 

本連載をまとめた書籍『暮らしっく』(扶桑社刊)でも、梅の話をたっぷり紹介しています。