時には「孤独」も必要だと心理学者が提唱、メンタルヘルスに有害な「孤独感」との違いとは?
多くの人がひとりぼっちになる瞬間を恐れており、以前の研究でも「孤独が糖尿病の発症リスクを2倍に高める」ことや、「孤独は喫煙や肥満と同じくらい人体に悪影響」なことが示されています。イギリス・ダラム大学心理学部のトゥイヴィ・グエン氏が、時にはひとりになることも必要だとして、孤独を楽しむ方法やそのメリットを解説しました。
The importance of solitude - why time on your own can sometimes be good for you
心理学者として10年以上孤独を研究しているグエン氏によると、テレビやソーシャルメディアでは、幸福は興奮や熱狂、活力と結びつけられており、「孤独(solitude)」と「孤独感(loneliness)」はよく混同されてしまうとのこと。そのため、多くの人はひとりぼっちでいることに恐怖を抱いており、単独での行動をなるべく避けようとします。
一方心理学では、孤独感は「望むような社会的なつながりや人間関係がない、もしくは得られない時に経験する苦痛の感情」と定義されており、単に人と交流せずにひとりで時間を過ごす孤独とは明確に区別されています。つまり、心理学者が問題視しているのは孤独そのものではなく、それを原因とする心理的な苦痛というわけです。
孤独は必ずしも周りに人がいないことを意味しておらず、人はにぎやかなカフェでコーヒーを飲んでいる時や、公園で本を読んでいる時などでも孤独を感じます。グエン氏は一連の研究により、こうした自分だけの孤独な時間を過ごすことで、ポジティブな効果が得られることを突き止めました。
グエン氏の実験は、学生を部屋に招いて静かにしていてもらうというシンプルなもの。学生に本やスマートフォンを持って部屋に入ってもらったり、何も持たずに部屋に入って考え事をしてもらったりしたこの実験により、たった15分間ひとりになるだけで不安や興奮といった強い感情が薄らぐことが分かりました。
このことからグエン氏は「端的に言うと、孤独は人の興奮度を下げる作用を持っており、イライラや動揺、怒りに駆られているような場面で有効です」と話しました。
孤独を楽しめるのは内向的な人だけだと思う人もいるかもしれませんが、134カ国に住む1万8000人を対象とした調査では、参加者の半数が休息のために重要な行動として「孤独」を選んでいます。このことからグエン氏は、「内向的な人がひとりでいることを好むのは確かですが、外向的な性格の人でもそれを理由に孤独な時間を取って落ち着くのをやめるべきではありません」としています。
とはいえ、ひとりで何もせずに過ごすのは退屈との戦いになるため、難しい場合もあるのは確かです。例えば、グエン氏が2022年に発表した研究では、ひとりで何もせずに過ごすかバケツに入った1500本の色鉛筆を仕分けするかを選んでもらったところ、ほとんどの人は10分もすると何もしないことに耐えられず退屈な仕分け作業を始めることが確かめられました。
孤独より誰もやりたいと思わないような退屈な作業が選ばれるのは、自分の精神的な空間の中に他の人がいない時は、何かをして忙しくしていたいという欲求が働くからだと考えられています。
多くの人がスマートフォンを持っている現代では、暇さえあればスマートフォンに目を落として画面をスクロールしている人をよく見かけます。ネガティブなニュースを延々と読み続けてしまう「ドゥームスクローリング」のように問題となるケースもありますが、グエン氏によると単にひとりになった時間にスマートフォンをスクロールするくらいなら問題はないとのこと。また、スーパーに買い物をしに出かけたり、洗濯をしたりと、日常的な家事をしながらひとりの時間を過ごすのが好きな人もいますが、これも孤独の時間の過ごし方としては有効なものだとグエン氏は述べています。
ひとりの時間をレジャーなどの楽しみをして過ごすという手もありますが、映画館やレストランにひとりで入るのには抵抗がある人も多いはず。グエン氏によると、これは「楽しいことは友だちや親しい人と一緒にするもの」というイメージがあるせいで、ひとりで楽しむことに気後れしてしまうのが原因の可能性があるとのこと。特に女性がひとりで旅行をするのは勇気が要ると、グエン氏は理解を示しました。
しかし、ひとりでの行動には落ち着ける時間を見つけたり、何をどうするかを自由に選んだりできるというメリットがあります。こうした点からグエン氏は、「孤独への恐怖を克服するには、そのメリットを認識し、孤独をポジティブな選択肢として捉えなければなりません。一人旅は少しハードルが高いかもしれませんが、時間を見つけて少しだけひとりになる時間を作ることこそ必要だという場合も、時にはあるでしょう」と述べました。