MNPワンストップ方式について考えてみた!

既報通り、NTTドコモやKDDI、沖縄セルラー電話、ソフトバンク、楽天モバイルの各移動体通信事業者(MNO)や仮想移動体通信事業者(MVNO)である日本通信などが5月24日以降、次々に「MNPワンストップ方式」に対応を開始しました。

MNPワンストップ方式とは携帯電話番号ポータビリティー制度(MNP)による携帯電話を変えずに携帯電話サービスの事業者(以下、通信キャリア)の乗り換えが「MNP予約番号」なしで可能になるという手続きの仕組みで(詳細は後述)、総務省による通信契約者流動化の本命とも言える施策です。

携帯電話サービスの利用者としてはより安いサービスへの乗り換え手続きが簡便化するので非常に有り難い施策ですが、一方で犯罪リスクが上昇する可能性があるなど、若干の不安も残したスタートだとする見解も少なからずあります。

MNPワンストップ方式の何が便利で、どこにリスクが内在しているのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」では今回、そんなMNPワンストップ方式のメリットやリスクについて考察していきたいと思います。


MNPワンストップ化で何が変わる?


■市場流動化の切り札として望まれたMNPワンストップ方式
はじめにMNPワンストップ方式について簡単におさらいしておきます。

MNP(Mobile Number Portability)は2006年に開始された携帯電話番号の引き継ぎ制度です。それまで携帯電話の電話番号は通信キャリアに紐付けられており、例えば「090-31」で始まる番号はNTTドコモ、「070-6」で始まる場合はPHS(通信キャリアはさまざま)といったように、電話番号を見ただけで相手がどこの通信キャリア(あるいは通信網)を利用しているのか、ある程度判別がつくものでした(完全一致ではない)。

そのような携帯電話番号ですが、携帯電話が普及するに連れて若干面倒なことが増えてきました。高校生〜大学生まで携帯電話を当たり前に持つようになった2000年代、いよいよ新規のみで利用者を増やすことが難しくなってきた通信キャリア各社は携帯電話端末価格や電話料金の安さを武器に、乗り換えによる契約者の奪い合いを始めたのです。

ここで問題となるのは電話番号の引き継ぎでした。当然ながら当時は「通信キャリアを乗り換える=電話番号が変わる」ということでしたので、多くの人は乗り換えを躊躇します。そこで生まれたのが他社に乗り換えても電話番号をそのまま引き継げるMNP制度でした。


現在でも電話番号の最初の3桁である程度回線の種別などは判断できる(「KDDIトビラ」より引用)


これまでのMNPの方式は、転出元となる通信キャリアからMNP予約番号を発行してもらい、その番号を転入先となる通信キャリアに持ち込むことで電話番号が引き継がれる仕組みでした。

2段階の手順が必要であるため、これを「MNPツーストップ方式」とも呼びますが、今回新たにスタートした「MNPワンストップ方式」とは、その名の通り1つの手続きだけで電話番号の引き継ぎが完了する仕組みです。

具体的には転出元でのMNP予約番号発行の手続きが不要になり、転入先となる通信キャリアでの手続きのみとなります。メリットは当然ながら利用者の負担が大きく軽減されることです。

例えば、これまでのツーストップ方式の場合はMNP予約番号には15日間という有効期限が設けられていたため、乗り換え手続きに時間がかかってしまうともう一度MNP予約番号を発行しなくてはなりませんでした。

またMNP予約番号の発行手続きの際には転出元の通信キャリアのキャリアショップなどへ出向くことが多くありますが(オンラインでも手続きは可能)、その際に端末割引や特別なクーポン券の発行など、多くの引き止め施策が行われて乗り換えをやめる人も少なからずいました。

このようなことからMNPツーストップ方式はユーザーの流動性に若干障害となっている点が指摘され続け、MNPワンストップ方式の導入が要望されてきたという経緯があります。


転出元としては契約者を手放したくない、転入先としては契約者を獲得したい……悩ましいジレンマだ


■まだまだ課題やリスクの懸念もある
では、MNPワンストップ方式にはデメリットはないのでしょうか。

方式として利用者が受けるデメリットはほとんどありませんが、最も大きな制約やデメリットと言えるのが「転出元となる通信キャリアが限定される」ことです。

例えば、KDDIの場合は5月24日時点でMNPワンストップ方式を利用できる転出元通信事業者はNTTドコモやソフトバンク、楽天モバイル、日本通信、ジャパネットたかたとなっており、これら以外の通信事業者からの転入にはMNPワンストップ方式を利用できません。

これは転入先となるKDDI側から転出元となる事業者へ「ユーザーの転入申し込みがありましたので転入手続きを行います」という連絡を入れる仕組みが存在するためで、本来利用者が行うべき手続きの一部を事業者が負担していると言い換えても問題はありません。

これにより、例えば、オプテージがMVNOとして提供している携帯電話サービス「mineo」からKDDI(の各MNOブランド)へMNPしたい場合などは従来通りのツーストップ方式を利用しなくてはなりません。


mineoは7月にMNPワンストップ方式の導入を予定との情報あり


またリスクとして「電話番号の盗難や詐欺被害に遭う可能性が上昇するのでは」と危惧する声もあります。

2022年辺りから国内でも「SIMスワップ」と呼ばれる電話番号の盗難被害が報告され始めています。これは物理的にSIMを盗む以外に、偽造免許証などで契約者になりすましてSIMを再発行するという手口が主体でした。

ここにMNPワンストップ方式が加わることでますます手口が容易になったり、MNPワンストップ方式がオンライン専用であることを利用して「偽の窓口を用意してフィッシング詐欺の手法で契約者情報を盗み出すという手口が広がるのではないか」という懸念です。

現在のところ実際の被害報告はなく杞憂で済むことを願っていますが、MNPワンストップ方式を利用して通信キャリアの乗り換えを検討している人は詐欺サイトなどに引っかからないように十分注意してください。


ユーザーができるリスク管理には限界があるが、できる範囲での防護策は取っておきたい


■より便利で簡便なモバイル社会実現のために
2016〜2017年頃のMVNOによる“格安SIM”ブームから2021年の通信料金値下げ合戦を経て、いわゆる2年縛りの撤廃や通信料金と端末代金の完全分離、SIMロックの原則禁止、契約解除にかかる違約金の撤廃および大幅値下げなど、総務省や各通信キャリアはユーザーの乗り換えを促す施策について喧々諤々の議論を繰り返し、現在までにさまざまな施策を施行してきました。

MNPワンストップ化はその中でも集大成に位置すると考えても良く、このシステムが広がることでユーザーは時間コスト的に通信キャリアの乗り換えがよりしやすくなることは間違いありません。

通信キャリアとしてはMNPワンストップ方式の導入を機にさらなる値下げ競争やキャンペーン施策に打って出ることも十分考えられます。

もちろん、今後この方式によって犯罪や手続きのミスが多発するなどのリスクが顕在化した場合、技術としての再検証が必要になることがあるかもしれませんが、ユーザーとしてはその心配をする段階ではありません。

まずは手順とその仕組みを理解し、自分に合った料金プランや通信網を正しく選択することが重要です。より多くの人に「手続きが面倒だから」と敬遠せずに通信キャリアを乗り換えられる日が来ることを願っています。


通信契約はより便利に、より簡単に。


記事執筆:秋吉 健


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