リーチマイケルも「下川甲嗣がいい」と大絶賛!日本の未来を託された24歳の決意「姫野さんのジャッカルのように…」
ラグビーワールドカップ2023「Road to France」<05>
下川甲嗣(東京サンゴリアス)前編
2022年秋、国立競技場で行なわれたニュージーランド代表戦──。招集された日本代表メンバーのフォワードのなかで2番目に若い年齢(当時23歳)ながら、強豪オールブラックスとの一戦に途中から投入されたのがFL(フランカー)下川甲嗣(東京サンゴリアス)だ。
早稲田大時代は世代屈指のLO(ロック)として活躍し、大学日本一にも貢献。そして2021年にサンゴリアスに入ると、すぐにトップリーグデビューを果たした。2022年はケガもあって春の日本代表活動に参加できなかったが、秋になると一気に桜のジャージーまで駆け上がった。
層の厚いバックロー(FLとNo.8ナンバーエイト)のなかでも、その存在感は際立っている。今後の日本代表を背負って立つ24歳の逸材は、自身の現在地をどのように考えているのか。
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下川甲嗣●1999年1月17日生まれ・福岡県福岡市出身
── 下川選手と言えば、サントリーに入社して10日あまりでいきなりトップリーグデビューを果たしました。しかも、大学時代に慣れ親しんだLOではなく、FLでの出場にも驚きました。
「2月の半ばぐらいからサンゴリアスの練習に参加していたので、まずは試合に出ることができてうれしかったです。採用担当の宮本啓希さん(現・同志社大ラグビー部監督)とは、サンゴリアスに入ったらセカンドロー(LO)ではなくバックローでやると決めていましたから。
自分のやるべきことだけをやればいい、という思いでFLに挑戦しました。プレッシャーもないですし、捨てるものもなかったので、思いっきりやったのが評価されたのかもしれません。いきなりベンチ入りと言われてチャンスをもらった時は、ひざがめっちゃ震えましたね(笑)」
── 2021年のトップリーグ最後のシーズンには2試合に出場しました。その頃には、すでに日本代表を意識するようになっていたのでしょうか?
「初年度で(試合に出られて)自信がついたところはあります。外側でボールをもらう回数も多かったですし、アタックでボールキャリーが通用したと思える時もありました。
サンゴリアスでレギュラークラスに入ることができれば、いずれ日本代表の合宿に呼ばれるポジションにも近づくのでは......と思っていました。だからまずは、サンゴリアスで常時試合に出られるようになることを目標にしていましたね」
── 早稲田大学時代は、相手との接点で黙々と体を張っていたイメージでした。しかしサンゴリアス加入後は、アタックでも目立つようになったと感じます。大学時代にLOをやっていたことが、今のプレースタイルによい影響を与えましたか?
「めちゃくちゃ(LOをやった影響は)あると思います! タックルなどの低いプレーは正直、高校時代まで全然できていませんでした。でも、早稲田大でLOをやるようになると、体を当てるところは嫌でもやらなきゃいけない。それこそブレイクダウンの時は、まさにLOの経験が活きているとしか言えないですね。
早稲田大では、いいボールをバックスに供給したらトライを取ってくれるので、僕はずっと"縁の下"で働いていました。そういうプレーをたくさんやったことで体に染みついた部分もありますし、コーチだった権丈(太郎/現・グリーンロケッツ東葛コーチ)さんにいろいろ教えてもらったことがすごく大きかったですね」
── 昨季からリーグワンが始まり、第9節までは下川選手の調子もよさそうでした。
「そうですね。社会人2シーズン目は出だしから調子がよかったです。ただ、シーズン途中の試合(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦)で右のふくらはぎを肉離れしてしまいまして......」
── それでも2022年は、日本代表候補にも名を連ねました。春はケガのために見送られましたが、秋は日本代表活動にも参加しました。
「率直に(日本代表のコーチ陣に)評価してもらえたのは、とてもうれしかったです。ボールを持ってゲインできるところや、ブレイクダウンでも繰り返し同じクオリティでプレーできるところがいいと言ってもらえました」
── 日本代表合宿に初めて参加して驚いたことはありますか?
「オンとオフの切り替えがみんな、めちゃくちゃしっかりしていることですね。オフの時はもうとことんオフを満喫し、完全にリラックスしている感じでした」
── そして昨年10月、オーストラリアA代表との3試合に出場。同じポジションのFLリーチ マイケル選手(東芝ブレイブルーパス東京)は「下川選手がいい」と何度も言っていました。
「リーチさんにそう言われたのはうれしかったですけど、自分的にはまったくリーチさんには及ばないと思っていましたよ(笑)」
── リーチ選手からどのようなことを学んだのでしょうか?
「リーチさんは誰よりも体を張るし、一発のプレーで終わることもなく、ずっと動き続けている。そしてボールを持った時には、自分でもゲインするし、周りもちゃんと活かしている。学んだことを言い出したらいろいろあるのですが(笑)......スキル、テクニック、そしてバランスのところもやっぱりすごいなと思いました」
── そして昨年10月末のオールブラックス戦、ついに日本代表初キャップを獲得しました。
「もちろん、めちゃくちゃうれしかったです。サンゴリアスに入った時と同じ感覚で『自分のできることをやるしかない』というマインドでプレーしたことがうまくいったかなと思います」
── ちなみに代表初キャップの桜のジャージーは、どこに保管しているのですか?
「ジャージーは2枚もらえるのですが、1枚はオールブラックスのLOパトリック・トゥイプロトゥ選手と交換しました。もう1枚は実家にあります」
── 社会人2年目で、しかもオールブラックス戦で初キャップ。
「まさかこんなに早くチャンスが来るとは思っていなかったです。ただ、代表初キャップを取れたことはうれしかったですけど、そこからもっと頑張っていかないといけないというプレッシャーも感じるようになりました」
── 昨年11月の欧州遠征にも下川選手は参加されました。海外を経験した感想は?
「国立競技場(ニュージーランド代表戦/10月29日)では日本代表ファンがいっぱい応援してくれましたが、トゥイッケナムスタジアム(イングランド代表戦/11月13日)では真逆。相手ファンの声援で選手同士の声が聞こえないくらい。試合には出られませんでしたが、ホームとアウェーの差を実感しました」
── 欧州遠征を終えて、日本代表のコーチ陣からレビューはありましたか?
「ボールキャリーや接点でのファイト、そしてシンプルにフィジカルの部分として体を大きくしてほしいと言われました。ボールを持ち込んだ時のフットワークは評価されたので、その次のオフロードパスや周りを活かすプレーの面で、さらに成長してほしいと言われています」
── 2023年秋に開催されるラグビーワールドカップに出たい気持ちも強くなった?
「はい、そうですね。ただ、FLのリーチさんやNo.8の姫野(和樹/トヨタヴェルブリッツ)さんみたいに、日本代表の重鎮メンバーにはまだ全然なれていませんので、そういう選手にならないとダメなんだなと思っています」
── どうすれば日本代表の主力メンバーになれると思いますか?
「選手によってタイプは違いますが、僕の場合はブレイクダウンでしつこく行き続けるところ、そしてブレイクダウン時に入るべきところと入らないほうがいいところの判断力も、主力メンバーとなるために大事になってくると思います。
そしてブレイクダウンに入った時は、相手にプレッシャーかける、ボールを奪い取る......といったプレーで試合の流れを変える。それこそ、姫野さんのジャッカルのようなプレーができるようになれば、ワールドカップに近づくのではないかと思っています」
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【profile】
下川甲嗣(しもかわ・かんじ)
1999年1月17日生まれ、福岡県福岡市出身。福岡・修猷館(しゅうゆうかん)高→早稲田大を経て2021年にサントリーサンゴリアスに加入。日本代表歴はジュニア・ジャパンやU20代表を経験したのち、2022年10月のニュージーランド代表戦で初キャップを獲得。ポジション=FLフランカー、No.8ナンバーエイト。身長189cm、体重106kg。