開幕から13試合に出場した時点で、吉田正尚(ボストン・レッドソックス)の打率は.167に過ぎなかった。出塁率も.310と低く、長打はホームランと二塁打が各1本にとどまっていた。

 ところが14試合目以降は、それまでの不振が嘘のよう。構えた時の右足の位置を変え、ややオープンスタンスにしたことなどが、功を奏したらしい。


吉田正尚がMLB新人王に輝けば日本人選手として5人目

 4月20日から5月7日にかけて、吉田は16試合連続安打を記録。このストリーク中は、打率.438と出塁率.479。4月23日の1イニング2本塁打を含め、5本のホームランを打ち、二塁打も5本を数えた。

 なかでも5月に入ってからの6試合は、打率.480と出塁率.510、ホームランと二塁打は2本ずつ。週間最優秀選手に選出された。しかも、この間の27打席は三振ゼロ。空振りは一度もなかった。

 それに続く2試合は、計3三振を喫して9打数0安打に終わったように、今後も浮き沈みはあるだろう。ただ、日本プロ野球時代の実績も踏まえると、半月以上にわたる猛打が単なるフロックだったとは考えにくい。ア・リーグには大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)がいることもあり、MVPのハードルは高いが、新人王を受賞しても不思議ではない。

 そのシーズンが始まる前のメジャーリーグ通算が「130打数」「投球50イニング」「アクティブ・ロースター45日」のいずれも超えていない選手は、新人王の資格を持つ。

 たとえば、1997年に新人王となったスコット・ローレン(フィラデルフィア・フィリーズ)は、その前年に130打数を記録している。ランディ・アロザレーナ(タンパベイ・レイズ)が新人王を受賞したのは、メジャーリーグ3年目の2021年だった。

 日本や韓国などほかのプロリーグでプレーしたことがあり、そこで活躍していても、新人王の資格には関係しない。新人王を受賞した日本人選手は、過去に4人いる。1995年の野茂英雄(当時ロサンゼルス・ドジャース)、2000年の佐々木主浩(当時シアトル・マリナーズ)、2001年のイチロー(当時マリナーズ)に、2018年の大谷がそうだ。ドジャースからデビューした野茂以外の3人は、ア・リーグの新人王に選ばれた。

【新人王最大のライバルは離脱】

 ここまでに吉田が記録している打率.298(5月11日時点)は、ア・リーグで50打席以上のルーキー15人のなかで最も高い。出塁率.377は、ライアン・ノダ(オークランド・アスレチックス)の.423に次ぐ。OPS.873も2位。こちらは、上にいるのは.886のローガン・オホッピー(ロサンゼルス・エンゼルス)なので、実質的には吉田が1位だ。

 オホッピーは、左肩を痛めて手術を受け、早くてもシーズン終盤までは復帰できない。新人王の資格を持ち越し、来シーズンに受賞することになるかもしれない。守備が重要視される捕手なので、離脱しなければオホッピーは吉田の強力なライバルとなり得た。

 ホームランと打点は、8本塁打と25打点のジョシュ・ヤン(テキサス・レンジャーズ)がトップだ。吉田の6本塁打と24打点は、どちらもヤングの次に多い。

 盗塁は、ふたりがふたケタに達している。エステウリー・ルイーズ(アスレチックス)が17盗塁(盗塁死3)、アンソニー・ボルピー(ニューヨーク・ヤンキース)は11盗塁(盗塁死0)。吉田は2盗塁(盗塁死0)だ。

 ルイーズの盗塁数は、ルーキーではない選手を含めても両リーグで最も多い。9死球も全選手の最多だ。また、10盗塁以上で成功率100%は、12盗塁のセドリック・マリンズ(ボルチモア・オリオールズ)とボルピーしかいない。

 一方、ア・リーグのピッチャーを見てみよう。ア・リーグで先発5登板以上のルーキーでは、ハンター・ブラウン(ヒューストン・アストロズ)が7先発で39.0イニングを投げ、防御率3.23を記録している。

 リリーフ投手で目につくのは、イェンニアー・カノー(オリオールズ)だ。14登板の18.2イニングで防御率0.00。打者57人に対して投げ、被安打はシングル・ヒットが3本のみ。与死球が1、与四球はない。6ホールドと3セーブを挙げている。

【ライバル6人のデータ比較】

 現時点において、ア・リーグの新人王レースで先頭集団を形成しているのは、オホッピーを除くこの7人ではないだろうか。

吉田正尚(ボストン・レッドソックス/レフト/1年目)
31試合、打率.298、出塁率.377、OPS.873
6本塁打、24打点、2盗塁

ライアン・ノダ(オークランド・アスレチックス/一塁手/1年目)
36試合、打率.237、出塁率.423、OPS.864
3本塁打、10打点、1盗塁

ジョシュ・ヤン(テキサス・レンジャーズ/三塁手/2年目)
35試合、打率.252、出塁率.295、OPS.763
8本塁打、25打点、1盗塁

エステウリー・ルイーズ(オークランド・アスレチックス/センター/2年目)
39試合、打率.272、出塁率.329、OPS.680
0本塁打、16打点、17盗塁

アンソニー・ボルピー(ニューヨーク・ヤンキース/遊撃手/1年目)
39試合、打率.199、出塁率.292、OPS.630
4本塁打、13打点、11盗塁

ハンター・ブラウン(ヒューストン・アストロズ/先発投手/2年目)
7登板、39.0イニング、3勝1敗、防御率3.23
奪三振率9.00、与四球率3.69

イェンニアー・カノー(ボルチモア・オリオールズ/リリーフ投手/2年目)
14登板、18.2イニング、3セーブ・6ホールド、防御率0.00
奪三振率10.61、与四球率0.00

 ほかには、吉田とチームメイトのトリスタン・カーサスが5本のホームランを打っている。ローガン・アレン(クリーブランド・ガーディアンズ)とブライス・ミラー(シアトル・マリナーズ)は、まだ3先発と2先発ながら、防御率2.70と防御率0.75だ。

 一方、福岡ソフトバンク・ホークス在籍中にキューバから亡命したオスカー・コラス(シカゴ・ホワイトソックス)は、打率.211と出塁率.265、1本塁打、OPS.541。結果を残すことができていない。

 投手とは比べにくいが、野手のなかでは、アベレージとパワーのどちらも優れる吉田が少しリードしているように思える。

 もっとも、吉田の場合、選考に際しては、不安材料もある。日本プロ野球で活躍していたため、真の意味におけるルーキーではないと見られる可能性も皆無ではない。2003年に松井秀喜(当時ニューヨーク・ヤンキース)が僅差で新人王を逃したのは、そう考えた記者がいたのも、要因のひとつだったのではないかと思われる。

 なお、吉田が新人王を受賞すれば、レッドソックスでは2007年のダスティン・ペドロイア以来となる。この年のア・リーグの新人王投票では、ペドロイアのほかにもふたり、レッドソックスの選手が票を得た。松坂大輔と岡島秀樹が、それぞれ4位と6位にランクインしている。