事実上の決勝戦と言えば、これからダービーを戦うミラノ市民に失礼になるが、ここ数年のチャンピオンズリーグ(CL)の流れから見ればそう言って差し支えないだろう。

 レアル・マドリード対マンチェスター・シティ。

 サンティアゴ・ベルナベウで行われたCL準決勝第1戦は、あっという間に90分が経過する、予想に違わぬハイレベルな一戦だった。スコアは1−1。アウェーゴールルールのもとで行なわれていれば、次戦をホームで戦うマンチェスター・シティ有利となるが、それが撤廃された現行ルールではどうなのか。微妙な問題だ。

 第1戦を前にした予想ではマンチェスター・シティ優位が大勢を占めた。少なくとも英国ブックメーカー各社は軒並みそう予想した。地元贔屓を差し引いても、接戦という見立てではなかった。

 スペインリーグ直近6戦の成績は3勝3敗、2位だった順位もアトレティコ・マドリードに抜かれ3位に後退したレアル・マドリードに対し、プレミアリーグで直近6戦6勝、アーセナルを抜き先日、首位の座に躍り出たマンチェスター・シティ。国内リーグ終盤の流れを見ても、後者有利の見立ては妥当に見えた。

 ところがスコアは1−1。支配率こそ43対57でマンチェスター・シティが勝ったが、試合内容も互角と言えた。この一戦をひと言でいうならば、改めてレアル・マドリードのしぶとさ、底力を見せられた試合、となる。昨季の終盤から続いている傾向は今季も続いている。


レアル・マドリード戦で同点ゴールを決めたケヴィン・デ・ブライネ(マンチェスター・シティ)

 試合はレアル・マドリードが先制した。前半36分、20歳のフランス代表エドゥアルド・カマビンガが左サイドバック(SB)の低いポジションから、ルカ・モドリッチとワンツーをかわした勢いで、左サイドを長躯疾走する。対峙する関係にある相手の右ウイング、ベルナルド・シウバは追走するも及ばず。一方で右SBカイル・ウォーカーはズルズルと後退を余儀なくされた。

 その間隙を縫うように、カマビンガは、左ウイングの位置から内寄りに移動したヴィニシウス・ジュニオールに折り返し気味の横パスを送った。先制点はヴィニシウスがそこからワンドリブルを挟んだ後に生まれた。中央から放ったシュートはゴール左ネットを揺るがした。

【マイボールになると3バックの問題が露呈】

 その11分前の前半25分にはヴィニシウスがサイドを突破し、ゴール前にあわやというボールを折り返していた。

 レアル・マドリードの最大のストロングポイントである左ウイング、ヴィニシウスをどう止めるか。ヴィニシウス対マンチェスター・シティの右サイドの関係は、この試合の1番の見どころだった。

 マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督は、今季、右SBあるいは右CBを務めるジョン・ストーンズを、マイボールに転じるや1列高いで守備的MFに押し上げて使う。相手ボール時には4バック、マイボール時は3バックで対応している。

 想起するのは、グアルディオラがバルセロナでプレーしていたルイス・ファン・ハール時代(1997−00)のサッカーだ。この時に採用した3バックと4バックの可変式は、グアルディオラの脇で構えるフィリップ・コクーが調整役になっていた。現在のストーンズを見ると、マイボール時には守備的MF、相手ボール時にはCBとしてプレーした、当時のコクーの姿が蘇る。

 5バックになりやすい守備的3バックが数を増やしつつある現在、5バックになりにくい3バック、すなわち攻撃的な3バックを目の当たりにすると、流行ってほしいと応援したくなる。

 しかし、この試合では問題点のほうが多く露呈した。マイボール時に3バックを形成し、かつ守備的MFが2人になると、SBの役を果たす選手がいなくなる。サイドアタッカーは実質的に左右両サイド各1人になる。ベルナルド・シウバ(右)、ジャック・グリーリッシュ(左)の両ウイングは、ボールを受けると孤立した。オーソドックスな4バックなら期待できる両SBの下支えがなかった。レアル・マドリードが前半36分に披露したカマビンガとヴィニシウスのような関係が望みにくい状況にあった。

 マンチェスター・シティがサイドをえぐりチャンスを掴んだシーンは、前半16分のグリーリッシュの折り返しぐらいに限られた。

【シティは第2戦の先発が読める状態に】

 長身アーリング・ハーランドが放ったヘディングは、レアル・マドリードGKティボー・クルトワに阻止されたが、この日決まらなかったシュートのなかでは最大の逸機と言えた。前半、ロドリとケヴィン・デ・ブライネが正面からミドルシュートを放ち、クルトワを泳がせたが、並のGKならともかく、クルトワの前では平凡な攻撃に見えた。両ウイングにボールは集まるがサイド攻撃は決まらない。攻撃は真ん中に集まった。そうなるとクルトワを打ち抜く必要が生まれる。並大抵のシュートでは入らない。

 後半22分、マンチェスター・シティが挙げた同点弾は、そうした難題を解決する、胸のすくようなゴールだった。デ・ブライネが放った150キロは出ていたと思われる矢のようなシュートである。

 ロドリ、グリーリッシュ、イルカイ・ギュンドアン経由でデ・ブライネに渡ったチャンスだが、発端はレアル・マドリードの左SB、カマビンガのパスミスだった。彼が中央に送ったボールをロドリがカット。レアル・マドリードゴール正面で攻守が入れ替わるという、マンチェスター・シティにとっては降って湧いたような幸運なチャンスだった。

 先制弾をアシストしたカマビンガはその後も好プレーを続けていた。得点者がノリノリでプレーするあまり、その後、イエローやレッドカードの対象になるシーンがよくあるが、カマビンガのプレーはそれに似ていた。アドレナリンを発露させるあまり楽天的なパスに及んだ。

 それぞれの失点を比較したとき、重症度が高いのはどちらだろうか。第2戦に影響を及ぼしそうな構造的な問題を抱えているのはどちらか。

 可変式布陣の問題以外にマンチェスター・シティの不安要素を挙げるなら、1トップのハーランドが機能していないことだ。194センチの長身は身動きが取れない状態にある。活躍のシーンは前述の前半16分のヘディング弾に限られた。パスワークに絡むことができずにいる。

 もうひとつはグアルディオラの采配だ。選手交代ゼロ。フィル・フォーデン、リヤド・マフレズ、フリアン・アルバレスなど、ベンチに攻撃に変化を与える駒が控えていながら使わなかった。つまり2戦目の先発は読めた状態にある。第1戦の流れが継続しそうな気配を感じる。

 英国のブックメーカー各社は、地元のよしみか、相変わらずマンチェスター・シティ有利とみている。同チームの優勝倍率1.6倍に対しレアル・マドリードには5倍をつけているが、そこまでの差があるとは思えない。むしろレアル・マドリードを51対49で推したくなる。結果はいかに。楽しみにしたい。