近年はAIが生成した楽曲が音楽ストリーミングサービスなどで公開されて注目を集めていますが、音楽業界からはAI製楽曲の増加に懸念の声も上がっています。そんな中、音楽ストリーミングサービス大手のSpotifyが、AIが生成した数万もの楽曲をプラットフォーム上から削除したことが報じられました。今回削除された楽曲は、音楽のジャンルや特徴を入力することで楽曲を生成できるBoomyというプラットフォームを利用して生成・配信されたものだとのことです。

Spotify ejects thousands of AI-made songs in purge of fake streams | Ars Technica

https://arstechnica.com/information-technology/2023/05/spotify-ejects-thousands-of-ai-made-songs-in-purge-of-fake-streams/



Spotify removes tens of thousands of AI-generated songs

https://the-decoder.com/spotify-removes-tens-of-thousands-of-ai-generated-songs/

Spotify has reportedly removed tens of thousands of AI-generated songs | Engadget

https://www.engadget.com/spotify-has-reportedly-removed-tens-of-thousands-of-ai-generated-songs-154144262.html

AIの発展に伴い、作曲に関する知識やノウハウが少ない人でもAIを使用してクオリティの高い楽曲を生成できるようになりました。AI製楽曲は音楽ストリーミングサービスにも配信され、収益を得る人々もいますが、音楽業界はAI生成楽曲の台頭に懸念を示しています。

2023年4月には、国際的な音楽企業であるユニバーサルミュージックグループが、SpotifyやApple Musicなどの音楽ストリーミングサービスに対し、AIのトレーニングに楽曲が使用されるのをブロックするよう指示したことが報じられました。

「AIのトレーニングに楽曲が使用されるのを阻止してほしい」とユニバーサルミュージックグループがSpotifyやApple Musicに要求 - GIGAZINE



そんな中、Spotifyが「AI作曲サービスを提供するBoomyからアップロードされた数万もの楽曲」を削除したと海外メディアが報じました。削除された楽曲は、Boomyからアップロードされた全楽曲の約7%に相当するとのこと。

2019年にローンチされたBoomyは、「ラップビート」といった音楽ジャンルの指定や「雨の夜」といったイメージを表す言葉を入力することで、AIが楽曲を生成してくれるサービスです。その後、ユーザーはBoomy経由で楽曲を音楽ストリーミングサービスにアップロードし、再生回数に応じてロイヤリティの支払いを受けることができます。

Boomyによると、記事作成時点でユーザーが生成した楽曲は1459万1095曲であり、世界で録音された楽曲の約13.95%に相当するとのこと。



SpotifyはBoomyによってアップロードされた楽曲を削除した理由について、「楽曲がAIによって生成されたこと」が問題視されたのではなく、「ボットを使って不正に再生数が水増しされていた疑い」があったからだと説明しています。インターネット上では「Spotifyなどの音楽ストリーミングサービスでの再生数」が売買されており、ボットを使用して再生数を水増しすることで、不正にロイヤリティを稼ぐ人々もいるとのこと。

関係者によると、ユニバーサルミュージックグループが「Boomyの楽曲に疑わしいストリーミング活動が見られる」として、すべての主要なストリーミングプラットフォームにフラグを立てていたそうです。SpotifyはBoomyの楽曲を削除したことを確認した声明で、「人工的なストリーミングは長年にわたる業界全体の問題であり、Spotifyはサービス全体で人工的なストリーミングを根絶するために取り組んでいます」と述べています。

AIによる楽曲生成ツールが登場する以前から、再生数の水増しによる不正なロイヤリティの獲得は問題となっていました。フランス文科省傘下の専門機関が発表した報告書によると、ストリーミングサービス大手のDeezer・Spotify・Qobuzにおける2021年の水増し再生回数は10億〜30億回に上り、全体の再生数のうち1〜3%が水増しによるものの可能性があるとのことです。

ユニバーサルミュージックグループのデジタル戦略担当ヴァイスプレジデントを務めるマイケル・ナッシュ氏は、「私たちはパートナー企業が自社プラットフォームにおける監視や活動を行い、警戒を強めているのを見るといつも励まされます」と述べました。



なお、2023年5月3日にはBoomyからSpotifyへの楽曲アップロードが停止されたことが報じられましたが、5月9日の時点でアップロードが再開されたことが確認されています。Boomyは、「当社はいかなる種類の操作や人工的なストリーミングにも断固として反対します。私たちはこの問題に対処するため、業界のパートナーと協力しています」と述べました。

AI music startup Boomy reestablishes its pipeline to Spotify - Music Ally

https://musically.com/2023/05/09/ai-music-startup-boomy-reestablishes-its-pipeline-to-spotify/