キタサンブラックの引退式(写真:山根英一/アフロ)

 4月16日、中山競馬場(千葉県船橋市)でおこなわれたGI・皐月賞。3歳牡馬クラシックの初戦は、雨の影響で「重馬場」でおこなわれた。皐月賞での重馬場は、ハイセイコーが勝った1973年以来、なんと50年ぶり。不良馬場を含めても、1989年(優勝ドクタースパート)以来の34年ぶりとなった。

 馬場状態と速いペースで先行勢が総崩れとなるなか、5番人気タスティエーラが直線で抜け出し勝ったかと思われた――が、その外から1頭だけものすごい脚色で伸びてきたのが、2番人気ソールオリエンス。直線だけで16頭抜きし、最後はタスティエーラに1馬身1/4差をつける完勝だった。

 ソールオリエンスの上がり3ハロン(ラスト600メートル)は35秒5。その次に速いのが3着ファントムシームらの36秒4で、ソールオリエンスの末脚がいかに “異次元” であったかが、数字にも表れている。

 ソールオリエンスはこれでデビューから3戦3勝。無傷で日本ダービー(5月28日・東京競馬場)へと向かうことになる。皐月賞では単勝5.2倍の2番人気だったが、中山より広く直線も長いダービーでは、単勝1倍台の圧倒的な人気を集めそうだ。

 このソールオリエンスの父はキタサンブラック。春秋の天皇賞や有馬記念、ジャパンCなどGIを7勝した名馬だ。獲得賞金は18億円を超え、歴代2位。馬主が北島三郎さんだったことでも知られている。

 引退後、2018年から種牡馬となったキタサンブラックの子どもたちがデビューしたのは、2021年。

 その年にいきなりイクイノックスが重賞制覇を果たす。そのイクイノックスはその後も大活躍。2022年の天皇賞・秋、有馬記念を制して年度代表馬になり、2023年にはドバイへ遠征。3月のドバイシーマクラシック(GI)では海外の強豪を相手に楽々と逃げ切ってみせ、世界の競馬ファンを驚かせた。

 その圧倒的なパフォーマンスによって、IFHA(国際競馬統括機関連盟)が4月14日に発表した世界ランキングでは堂々の1位となっている。

 ソールオリエンスは、キタサンブラック産駒の第2世代になるわけだが、これで2世代連続で “怪物級” の大物が出たことになる。また、皐月賞の1週前におこなわれた牝馬クラシック・桜花賞でも、同産駒のコナコーストが2着と好走している。

キタサンブラック自身は、先行して最後までスピードを持続させるスタミナが武器でしたが、産駒にはソールオリエンスのように鋭い末脚を持つ馬が多く見られます。

 ただ、産駒と共通するのはメンタルの強さ。ブラックは4つの競馬場でGIを勝ち、良馬場でも不良馬場でも苦にすることはありませんでした。ソールオリエンスも重馬場でGIを勝ち、イクイノックスも海外GIを制するなど、メンタルの強さが伝わっています」(競馬ライター)

 産駒の活躍により、キタサンブラックの種牡馬としての評価もうなぎ登りだ。

「2018年に種牡馬入りしたとき、種付け料は500万円。おもに長距離で活躍したこともあり、種付け頭数もそこまで多くなく、2020年には92頭まで減りました。

 しかし、2023年には、種付け料が倍の1000万円になったにもかかわらず、早々にブックフル、つまり満口で受付終了となっています。来年はさらに種付け料が上がるのは確実です」(前出・競馬ライター)

 10月1日には、パリのロンシャン競馬場で欧州最高峰のレース、凱旋門賞がおこなわれる。英国ブックメーカー・スカイベットは早くもそのオッズを発表しており、イクイノックスが単勝8倍で1番人気。ソールオリエンスを17倍で6番人気としている。

 ディープインパクトもオルフェーヴルも成しえなかった日本の悲願を果たすのは、キタサンブラックの息子なのかもしれない。