3月27日の番組冒頭で謝罪したMC陣。左から岩田絵里奈アナウンサー、加藤浩次さん、森圭介アナウンサー(画像は「スッキリ」公式ホームページより)

3月末に番組改編によって放送が終了する日本テレビ朝の情報番組「スッキリ」で、不祥事が起こりました。

発端は、3月24日、栃木県にある那須どうぶつ王国からのロケ中継でした。お笑い芸人のオードリー・春日俊彰さんがペンギンのいる池での餌やりに挑戦していたところ、番組MCの極楽とんぼ・加藤浩次さんが「足元気をつけろ!」と注意。これがいわゆる“前フリ”のような形となり、春日さんは“うっかり”(という体裁で何度も)池に落ちてしまった、という放送内容でした。

当然のことながら、これはいわゆるお笑いの“お約束”であり、有名なのはダチョウ倶楽部さんの熱湯風呂です。「絶対押すなよ」という故・上島竜兵さんの言葉を合図にその背中を押して、湯船に落とすというものがあります。お笑いの世界で「やるなよ」は「やれ」という意味だと、上島さんは説明していました。

しかし今回はお笑いセットではなく、生きたペンギンもいる池です。スタジオでは笑いが起こっていましたが、あまりにもアニマルウェルフェアに反した内容で、視聴者からは、ペンギンが傷ついたりストレスを感じたりしたらどうするのか、動物公園でお笑いをやること自体が不謹慎という批判が殺到しています。

加藤浩次さんの炎上してしまった「謝罪内容」

番組終了後、那須どうぶつ王国側は公式Twitterで、事前打ち合わせのない状態でタレントがペンギンのいる池に入るシーンが放映されたとして、日テレ側に厳重抗議したことを明らかにしました。これを受けたインターネットニュースの報道で批判は加速し、炎上状態となりました。

事態はどんどん大きくなり、3月27日には日本テレビ・石澤顕社長が定例会見で謝罪し、日本動物園水族館協会が公式ホームページで抗議声明を出すなど、かなりの拡大を見せています。

また社長会見と同日に放送された「スッキリ」では、番組冒頭に加藤さんと日本テレビの森圭介アナウンサー、岩田絵里奈アナウンサーが謝罪と説明を行いました。

加藤さんは、「今回の件については経緯をまず説明したいと思います」と切り出し、次のようにコメントしました。

『池に落ちてもいいですか、こういうロケだったらこういうこともあるんですよ』と説明していた。那須どうぶつ王国の方からは、動物に危害が加わらなければ、池に落ちても大丈夫ですよという旨のことを聞いていた。動物が池に入っていなければいいですよ、というニュアンスですよね。

当日の打ち合わせで、僕自身、しっかりスタッフと打ち合わせすることを怠ってしまった。そこに関しては本当に反省しなくてはいけない部分だと思っています。しっかりとスタッフと話をしていれば、僕はもうちょっとできたのかなと思うんだけれど、僕自身も『池に落ちてもいいんだ』という部分だけで進んでしまった。

春日くんにもフリという形で追い込んでしまったというか、春日くんが落ちなきゃいけない状況にMCとしての僕が追い込んでしまった部分があると思います。そこも本当に反省しなくてはいけない部分だと思っています。

(中略)那須どうぶつ王国の方たちの快くOKしてくれた気持ちを汲めずに不快な思いをさせてしまったというか、担当者の方にも迷惑がかかっていると思います。

実際に『動物に危害が加わらなければ入ってもいいですよ』と言っていたのに、そこで危ない形になってしまった。それは視聴者の皆さんが見ていて『危ない!』と思ったり、不快に思ったということが実際にあったと思います。そこに関しても僕も謝罪しなきゃいけないし、僕自身も番組のMCとして配慮がまったく足りなかったんだなと思います。それに関しては、番組をご覧になった皆さん、不快に思われた方々、本当に申し訳ありませんでした


問題の放送があった後、那須どうぶつ王国が公開した声明文(画像は公式Twitterより)

謝罪において「言い訳」はなぜダメなのか

このように話し終えると、加藤さんは深く頭を下げましたが、アナウンサーが謝罪をした冒頭と最後の部分では他2人が頭を下げる中、1人だけお辞儀をしていないように見えるなど、その態度がまったく申し訳なさそうに見えないと批判を浴びてしまいました。

何より謝罪コメントの内容が、「そこに関しては反省」というワードの多用や、「先方に事前に伝えていた」というニュアンスを含めるなど、言い訳にも聞こえる経緯説明に終始していることで、視聴者の感情を逆撫でしてしまいました。

著名人や企業の謝罪会見などで、謝罪の場のはずなのに「言い訳」に聞こえてしまい、事態が悪化してしまうパターンはよくあります。一般的に考えて、言い訳は悪手だとわかるのに、なぜ人は言い訳をしてしまうのでしょうか。

ほとんどの場合、本心では自分は悪くないと思っており、自らの正当性を主張したいという気持ちが先行してしまっていることが原因です。自分が間違っていない以上、本音では謝りたくない。このような心情があるときに、人は言い訳をしてしまいます。今回の加藤さんの謝罪は、確かに経緯説明という言い訳に聞こえました。

では「言い訳」はだめなのでしょうか?

私は謝罪というものを、高度なコミュニケーション技術としてとらえています。それは倫理観や人間性の問題ではなく、技術です。

つまり謝罪のための謝罪ではなく、トラブルに陥ったビジネスをどうすれば救えるか、どうすれば被害を最小限に抑えられるかという「BCP(事業継続計画)」の視点での危機対応が謝罪だと考えています。

言い訳だろうと何だろうと、それによって危機的状況が少しでも回復できるのなら、躊躇なく薦めます。ただ、たくさんの危機的状況や謝罪会見例などをみて、言い訳が機能したことはまずありません。

つまり、謝罪において言い訳が悪手だといわれるのは、効果がないからなのです。たとえ批判の内容が言いがかりや不本意なものだったとしても、そこへの対抗や防御は、事態好転には無意味です。

謝罪の目的を明確化できず、感情に突き動かされたとき、人は言い訳をしてしまいます。コンプライアンスは絶対的な優先順位を持ちますが、そうではない「人として」というような観点や価値観は、BCPにおいてほぼ意味がないと考えています。

「お笑い」としてもお粗末な内容だった

今回の件では、実際にペンギンの池に落ちたのは春日さんでした。やはり春日さんにも批判の矛先は向いていますが、彼はお笑いのお約束としきたりに従っただけという観点から、春日さんへの批判より、それを実際に促したと見える加藤さんに責任を求める声が多いようです。

お笑い界のしきたりとして、先輩であり、キー局の帯放送番組で総合司会を長年勤める加藤さんの再三の“フリ”(今回の場合、「池に落ちるな」は「落ちろ」という合図)に、後輩の春日さんは最初は抵抗していたようにも見えます。しかし、お笑い芸人として自分が求められているリアクションを考えると、番組のメインMCの指示にそれ以上抵抗するのは、番組構成的にもまずいという判断があって当然と思います。


オードリーの春日さんが餌やりをした、那須どうぶつ王国のペンギンたち(画像は公式ホームページより)

この手のリアクション芸を生み出したのは、ダチョウ倶楽部さんやたけし軍団さんなどのパイオニア芸人さんたちです。

かつては、ただ裸になったり尻を出すだけの芸だと批判されていたのですが、時代の流れとともに「お約束」という言葉が認知され、あのような集団リアクションには実は台本があり、何よりそのタイミングや空気感によって、素人がただ裸になったりするのとはまったく違う構成であることが徐々に浸透していったといえます。

精密な作りや構造によって成り立つリアクション芸に対し、今回の加藤さんのフリはあまりに乱暴かつ雑だったと私は思います。コンプライアンスに厳しい現在のテレビ番組において、動物園の中で行うのはまずいという判断がつかないこと、何よりそれを面白いとする感覚は、お笑いのセンスも問われてしまいます。この事件が炎上している理由は、このセンスについて疑問を感じる人が多かったためだといえるでしょう。

言い訳を一切せずに謝罪した「成功例」

2022年7月に発生したKDDIの通信障害の例があります。このときはユーザー3千万人以上に影響を与えただけでなく、社会のあらゆるインフラ、医療にまで影響した大事故でした。

KDDIにはごうごうたる非難が集中しましたが、事故発生翌日に開かれた、同社の高橋誠社長ら経営陣による緊急会見が流れを変えました。こうした事故時に経営陣が揃って登場し、一斉に頭を下げるシーンで記者団のカメラフラッシュが集中するのは、もはやこれまたお約束ともいえるお決まりシーンです。

そしてそのほとんどは、社長による「この度世間の皆様にたいへんなご迷惑、ご心配をおかけし……」というテンプレ謝罪トークが行われるのも、企業謝罪あるあるです。「テンプレ謝罪」には、どこかの謝罪専門家やPR会社の入れ知恵謝罪会見だという批判も起こってしまいます。

ちなみに私が代表を務めるコンサルタント会社にも、不祥事を起こしたので何とか謝罪をしてほしいという、謝罪代行のご依頼をいただくことがあるのですが、そのような代行は一切していません。お粗末なテンプレ謝罪など絶対に薦めません。

私が対応するのは、BCP視点や高度コミュニケーション技術という考え方に興味を持っていただいた企業や公的組織に対する、交渉やコミュニケーションの戦略、そのトレーニングです。

KDDIの高橋社長の会見は、数少ない危機対応のお手本のような成功会見でした。会見では、担当者が具体的な事故説明をするのかと思いきや、社長自らつかつかとスクリーンの前に出てきて、機器トラブルの状況と原因推定、さらには復旧見通しの見込み(会見時ではまだ明確な復旧時期は提示できないが、見通しを伝えられそうな見込みの説明があった)を説明したのでした。

土下座や涙の謝罪といったパフォーマンスではなく、技術畑出身の高橋社長による専門的知識に裏付けられた説得力ある説明と、技術的に難しい部分を巧みにわかりやすく解説する抜群のコミュニケーションによって、憎悪や敵愾心に満ち満ちた周囲をどんどん変えていきました。

当然のことながら、その際に「当社の責任ではなく」や「外注先が」などのありがちな言い訳はありません。そのような他責の説明は、仮に真実であっても、この批判の嵐に対抗などできるはずがありません。KDDIがこの危機を成功裏に乗り越えられたのは、社長による正確で誠実な会見の成果だと、私は考えます。

これこそが言い訳と謝罪の最も明確な関係といえるのではないでしょうか。

原因説明よりも「欲しい答え」

通信障害で困っている人たちに、事故原因の説明という体の言い訳ではなく、「今何が起きていて」「この先どのような展開があり」「いつごろにはどうなる・どうなりそうなのか」という回答を、わかりやすく伝えたのです。

もちろん事故原因に意味がないということではありません。しかし今現在燃え上がっている事柄において、その原因よりも自分たちの置かれている困難を何とかしてほしい、どうすればいいのかという回答こそ、「欲しい答え」でしょう。

当事者・責任者の言い訳はこうした渇望に、何も回答していないのです。

ということは、トラブルで被害や迷惑を被っている人たちへ、まず第一に届けなければならないメッセージは、十分な謝意と今後の対応についての説明に尽きるでしょう。言い訳も土下座も、こうした危機の解消にはまったく役に立たないから不要なのです。

わかりやすく状況を説明し、さらには回復時期の見通しや、まだそれすらつかめないようであれば途中経過や見込みでかまいません。適正な情報開示の実行に全力を注いだほうがいいでしょう。

また、これはKDDIの事故のように具体的な損害が出て、その復旧や補償が求められるケースに限りません。「スッキリ」での不祥事のような意思疎通の齟齬から生じたトラブルでも同様です。日々の業務で発生するトラブルについても、言い訳や自己弁護よりも、できるだけ冷静な事態把握と適正な情報開示の実現に注力していただきたいと思います。

(増沢 隆太 : 東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家)