毎年、2月頃からニュースで「春闘が始まった」と報道され、また、大企業の労働組合が賃金アップを求めて経営陣と交渉したというニュースを目にする機会も増えてきます。労働者側が給料を引き上げるように交渉しているということはなんとなく理解できていると思いますが、ニュースの中で使われている「春闘」、「ベア」、「定昇」という言葉までを正確に理解できている方は意外と少ないかもしれません。今回は春闘に関する知識をつけていきましょう。

「春闘」って何?

春闘のニュースは毎年2月頃になると報道されるようになりますが、日本労働組合総連合会では「春季生活闘争」を正式名称としています。多くの企業が4月から新年度が始まるので、2月に労働組合が企業に要求を提出し、3月に企業から回答が出てくるという流れになっています。

春闘と聞くと前述のように労働者側が給料を引き上げることを要求するものと思うかもしれませんが、実は要求する内容はそれだけではありません。もちろん、月給やボーナスの引き上げの要求は行われますが、労働環境の改善を要求するケースもあります。

日本では正規雇用の立ち位置が強固に守られているという印象があるかと思いますが、とはいえ雇われていることに変わりはなく、色々と主張をして経営陣との関係を悪くしてしまうとその後の労働環境が悪化する可能性もあり、なかなか強くは出られません。そこで、個人ではなく企業ごとの組合や、産業別の組織や連動など、1つの舞台となって交渉を進めます。

「定昇」と「ベア」って何?

春闘の意味を理解できたかと思います。それでは、春闘のニュースで出てくる「定昇」と「ベア」についても理解を深めましょう。

まず、日本企業の給料についてみていきます。正社員の場合、毎月もらえる基本給があり、管理職ではない場合は残業代ももらえますね。これらを「月例賃金」といいます。また、夏と冬にはボーナスとして「一時金」が出ます。

この月例賃金を上げる場合、定昇とベアの2つの方法があります。定昇とは定期昇給の略で、それぞれの労働者に対して、年次や勤続年数に応じて毎月の給料を引き上げることをいいます。一方で、ベアとはベースアップの略で、定期昇給のベースとなる基本給全体を引き上げることです。

たとえば、新卒の22歳は月給22万円。23歳になったら月給が23万円になる場合、これは基本給が1万円の定期昇給をしていることになりますが、仮にこの会社が1%のベアを行った場合は、新卒の22歳の月給は22万2,200円になります。23歳になれば月給が23万2,300円となります。

労働者を雇う側の目線に立てば、ベアを行うとその分、支払う人件費は上昇します。これは業績や景気の良し悪しに関わらず人件費が上昇することになりますから、いくら労働者側からベアを求められても、積極的に応じようとは思わないのです。

しかし、業績が良ければ労働者にも相応の見返りを与えるのは当たり前ですから、多くの企業はベアではなく、ボーナスという一時金のかたちで対応しようとするのです。

なぜ日本の賃金は上がらないのか?

なぜ、日本では賃金が上がらないのでしょうか。それには複数の要因がからみあっていると考えますが、そのうちの1つとして日本経済自体が成長していないことが挙げられるでしょう。

春闘を前に日本のメディアでは賃上げに関する景気の良いニュースが何件も流れており、たとえばユニクロを運営するファーストリテイリングは今年3月から国内の従業員の年収を平均15%、職種によってはその上昇幅は最大で40%に達すると発表しました。任天堂も4月から全社員の基本給を10%引き上げる方針を明らかにしています。しかし、ファーストリテイリングも任天堂も売り上げの半分以上を海外で稼ぎ出しているため、日本が経済成長していなくても、経済成長を続ける海外で稼げばいいので、その成長の果実を従業員に還元出来るのです。

一方で、日本国内でしか事業ができない中小零細企業にとっては、日本の経済が成長しない中で、なかなか売り上げを伸ばしていくことは難しいでしょう。さらには、現在のようにエネルギーや素原材料の価格が高騰し、コストが増えていく環境下では、人件費を下げるぐらいしか利益率を維持する方策がありません。

日本の労働者の約7割が中小企業に雇用されていることを考えれば、足元の物価上昇率を上回る賃上げをしてもらえる労働者はほとんどいないと考えられるでしょう。

悪いインフレとデフレ

現在、日本で多くの方が体感している値上げラッシュはエネルギーや素原材料の価格が高騰し、それを企業が価格転嫁することによって起きている「悪いインフレ」といえます。この物価上昇がこれからもずっと続くと指摘する人がいますが、賃金の上昇率を大きく上回る物価上昇が続けば、次第に物価上昇は収まると考えます。なぜなら、物価が上昇し続ければ、家計は節約をし、企業はモノやサービスを売るために価格を下げざるを得ないからです。

そうなれば今度は、企業はコストが増えるのに価格を下げるために人件費を下げるわけですから、給料が上がらないどころか下がってしまい、家計はさらに節約をします。そうなると、企業はさらに価格を下げるためにさらに人件費を下げ・・・。という悪循環に陥ります。

足元の物価上昇を背景に今年の春闘では例年以上の賃上げが期待されていますが、日本が「良いインフレ」を実現するか、それとも再びデフレスパイラルという悪循環へと回帰するのか。非常に重要な時期を迎えています。