「老眼に効く目薬」について薬剤師が解説 米国で承認された目薬の効果と注意点
老眼は加齢とともに出始め、誰にでも起こる症状です。そのため、いつの日か自分も手元が見えにくくなった場合、眼鏡をかけるくらいしか対策はないのではと思っている方も多いのではないでしょうか。しかし、2021年に「老眼に効果がある目薬」が米国で承認されました。今回は、そんな老眼に関係する目薬「VUITY」について、薬剤師の宮本さんを取材しました。
そもそも老眼とはどのような状態なのか 原因と症状について解説
編集部
老眼はどうして起こるのでしょうか? 原因について教えてください。
宮本さん
老眼は、モノを見る際にピントを合わせる目の調節機能が衰えることで起こります。目の中には「水晶体」と呼ばれるレンズの役割をしている器官があります。このレンズのピント調節をおこなっている毛様体小帯と呼ばれる線維が、縮んだり緩んだりしてレンズの厚みを変えることでピントを調節しています。これがうまくいかなくなるのが老眼です。
編集部
老眼になるとどのような症状が起こりますか?
宮本さん
“近くのモノはよく見えるのに、遠くのモノがよく見えにくくなる”近視とは違って、老眼は“近くのモノが見えにくくなる”症状が起こります。これは、水晶体が硬くなり、毛様体小帯の動きがうまくいかずピントが合わないことで、細かい文字などが見えにくいといった現象が起こります。
編集部
老眼の対策でできることは?
宮本さん
老眼の対策として、老眼鏡を用いるのが一般的です。ほかにも手術によって水晶体を取り除き、眼内コンタクトレンズを埋め込む治療法などがあります。老眼予防として、アスタキサンチン、ルテイン、ゼアキサンチンなどの機能性栄養成分を含むサプリメントを取り入れることも検討しましょう。また、近年米国では老眼に効果的な目薬が承認されました。
米国で承認された老眼治療の目薬「VUITY」とは
編集部
米国で承認されたという老眼に効果的な目薬について、詳しく教えてください。
宮本さん
2021年10月に米国食品医薬品局(FDA)に承認された「VUITY」という点眼薬です。VUITYには有効成分としてピロカルピンが1.25%の濃度で配合されています。
編集部
ピロカルピンってどのような成分なのですか?
宮本さん
ピロカルピンは新しい成分ではなく、経口薬としてシェーグレン症候群の治療薬や点眼薬、緑内障の治療薬として用いられてきました。老眼に用いられる場合には、ピロカルピンが瞳孔括約筋と呼ばれる光の量を調節する筋肉を収縮させ、瞳孔を小さくすることで、ピントが合いやすくなると考えられています。
編集部
老眼に効果ある根拠はあるのでしょうか?
宮本さん
老眼に関するピロカルピンを用いた臨床研究として「GEMINI1」と呼ばれる有効性と安全性を試験したものがあります。それによれば、40~55歳で老眼を患っている被験者に、点眼薬のピロカルピン1.25%を含むグループと含まないグループで比較しました。その結果、「近距離視力の改善がみられた人の割合は、ピロカルピンを点眼したグループの方が22.6%多い」という結果になりました。
編集部
ほかにも報告がありましたら教えてください。
宮本さん
その他、「GEMINI2」という研究もあり、「GEMINI1」とほぼ同じ方法で研究がおこなわれていました。こちらもピロカルピンを点眼したグループで改善効果があったと記載がされています。また点眼後15分で効果が発現し、その有効性は最大で6時間ほど持続することが分かりました。
老眼治療薬「VUITY」を使用する際の注意点は?
編集部
老眼治療でピロカルピンの目薬を使う際に注意点はありますか?
宮本さん
ピロカルピンは、目に入る光の量を調節する瞳孔を収縮させることで、目の中に入る光の量を減らしています。その結果、暗い場所での危険な作業や、視界がはっきりしない場所での自動車などの機械作業は注意が必要です。また、副作用として頭痛や目の充血も報告されています。
編集部
コンタクトレンズを装着したまま、点眼してもいいのでしょうか?
宮本さん
コンタクトレンズを使用した状態で点眼することは推奨されておりません。一度コンタクトレンズを外して点眼後10分経過してから再度装着します。これはほかの目薬にも言えることなので、「コンタクトレンズをつけたまま点眼している」という人は、止めるようにしましょう。
編集部
VUITYは、日本での承認の可能性はありますか?
宮本さん
今まで、老眼は目の水晶体と呼ばれるレンズを取り替える治療しかありませんでした。それを1日1回の点眼で済むことは、即効性も期待できるため日本でも承認される可能性が高いと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
宮本さん
老眼に関するお悩みは、年齢が経つにつれてほとんどの人が経験する状態と言えます。これをきっかけに新たな治療法が今後も増えていくことを願っています。
編集部まとめ
今回の内容によって老眼の治療に手術以外の新しい可能性が見えてきました。しかし、VUITYの日本での承認はまだ先にはなりそうです。これからも日本では、長寿高齢化社会となることを考えれば、点眼によって老眼が良くなることは多くの人にとってメリットがある報告と言えます。これからの進展を期待しましょう。
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