韓国戦、7回に登板した宇田川優希【写真:Getty Images】

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WBC世界の投手たちをピッチングストラテジスト・内田聖人氏が分析

 連日熱戦が繰り広げられる野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。「THE ANSWER」では、多くのプロ野球選手を含め400人以上が参加するパフォーマンスアップオンラインサロン「NEOREBASE」を主宰し、最速155キロを投げる自身を実験台にしてピッチング理論やトレーニング理論を発信するピッチングストラテジスト・内田聖人氏が、独自の目線で世界の投手を分析する。今回は日本代表・侍ジャパンの宇田川優希投手(オリックス)と高橋宏斗投手(中日)。10日の「カーネクスト 2023 WORLD BASEBALL CLASSIC 東京プール」1次ラウンド・韓国戦で宇田川は7回に登板し2奪三振、高橋は9回に登板し1奪三振で、ともに1イニングを完全投球。三振はともに代名詞のフォークで奪った。だが、内田氏によると同じ縦に落ちる変化球でも2人には異なる特徴があるという。(取材・構成=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

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 宇田川投手と高橋投手。2人のフォークが対照的で面白い試合でした。

 宇田川投手は誰が見ても分かる落差があり、高めから見逃し三振にできるフォーク。これはジャイロ成分が強く、千賀滉大投手(メッツ)のいわゆる“お化けフォーク”に近い。握りは人差し指と中指でがっつり挟んでいる、フォークらしいフォークです。7回先頭のチェ・ジョン選手に対し、135キロで見逃し三振を取りましたが、凄いのはシーズン中になると140キロ台後半が出ること。正直、意味が分かりません。

 おそらく手がかなり大きかったり、挟んだ時に指でボールに力を加える能力が凄く高かったりするのだと思いますが、がっつり挟んで140キロ台後半、しかも落差が大きいなんて、とてつもないことです。

 一方、高橋投手はストレートに近い握りで落とす。9回先頭でパク・コンウ選手から奪った空振り三振は球速で言うと145キロ。ツーシームのような握りで真っすぐと同じくらいの強さ、角度で発射する。単純な落差だけでいえば、宇田川投手の方が大きいのですが、軌道は真っすぐと同じように発射されるので、真っすぐと比較して、例えば15センチ〜20センチでも落ちていれば十分に空振りを取れる可能性がある球です。

 このタイプのフォークの代表的なピッチャーは山本由伸投手です。タイプとしては、ストレートの回転に近しい速いフォーク。高橋投手も山本投手のフォークに近い。自主トレも一緒にやっているので、もしかしたら教わっている可能性もあるのかもしれません。

 宇田川投手、高橋投手ともに昨年大活躍しましたが、2人に共通して言えるのは、真っすぐ、フォークがカウントも空振りも三振も取れる強いボールであること。

 どこに行っても、どの場面で投げても抑えられる投手。自分の投球さえすれば、打つのが難しい球を持っています。もちろん配球は必要ですが、それよりもどれだけ自分の球を投げるかにフォーカスできるくらい真っすぐとフォークが良い印象です。

 実際、今回も2人とも真っすぐとフォークだけで抑えました。短いイニングだったら、2つの球種で十分と思わせてしまうほど。でも、真っすぐとフォークしか投げなかった投手2人でも投げているフォークは実は違うというのが奥深いところです。

フォーク習得を目指すアマチュアの投手にアドバイス

 ちなみに、フォークは4つに分類できると自分は思っています。宇田川投手がジャイロ系のフォーク、高橋投手がストレート系のフォーク。そしてシンカー・チェンジアップに近いサイドスピン系のフォーク、あとはかなり少ないのですがトップスピン系のフォークの4つです。

 フォークを投げるには、手が小さく、指が短いと大変かもしれませんが、アマチュアの投手はフォークというと、宇田川投手のように人差し指と中指でがっつり挟んで投げようとしがち。しかし、高橋投手、山本投手のようにツーシームくらいの指の幅で挟むだけでも、極端な話、真っすぐと比較してボール1個分落ちたら空振りすることもある。必ずしも落差が大きいことが良いかというと、そうじゃありません。

 人によって手の大きさ、指の圧のかかり方も変わるので、フォークの習得を目指しているアマチュアの投手はいろいろ試してみる価値はあります。例えば、(プロの)○○投手と同じ握りをしたからといって同じ回転にはならない。参考にはしてもすべて真似するのではなく、自分に合う形を試行錯誤して作り出していってほしい。

 最後に。3回3失点だったダルビッシュ有投手でしたが、真っすぐも変化球も高めを多く使っていた印象でした。

 これは、日本にまだあまりないタイプの投球術です。おそらくダルビッシュ投手はWBCで日本代表のほかの投手にも共有していると思いますが、ダルビッシュ投手が共有することによって今年から日本でも高めの球の使い方が広がってくるのではないかと思います。

 ダルビッシュ投手が日本代表に入ることによって、日本の野球が世界レベルに発展していくヒントは凄くあるんだろうと思い、今年のプロ野球がかなり楽しみです。

■内田聖人 / Kiyohito Uchida

 1994年生まれ。早実高(東京)2年夏に甲子園出場。早大1年春に大学日本一を経験し、在学中は最速150キロを記録した。社会人野球のJX-ENOEOSは2年で勇退。1年間の社業を経て、翌2019年に米国でトライアウトを受験し、独立リーグのニュージャージー・ジャッカルズと契約。チーム事情もあり、1か月で退団となったが、渡米中はダルビッシュ有投手とも交流。同年限りでピッチングストラテジストに転身。2020年に立ち上げたパフォーマンスアップオンラインサロン「NEOREBASE」は総勢400人超が加入、千賀滉大投手らプロ野球選手も多い。個別指導のほか、高校・大学と複数契約。今も最速155キロを投げる。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)