ORANGE RANGE(オレンジ・レンジ)の名曲を題材に、新進気鋭の脚本家が完全オリジナルストーリー化、それを人気声優陣が圧倒的な演技力とともに朗読するという、アーティスト楽曲×豪華声優陣×新進気鋭のクリエイター陣が贈る新たな朗読劇公演【-音読stage-Story of Songs Track1 ORANGE RANGE】が、2023年2月8日(水)〜12日(日)にヒューリックホール東京にて開催します。

これを受け、ORANGE RANGE・RYOさんと演出を手掛ける元吉庸泰さんが、インタビューで本プロジェクトへの想いを語りました。

――最初に今回の企画について聞いた際の印象を教えてください。

RYO:僕らとしては、もう嬉しい限りだし、新しいことはメンバーみんな好きなので、最初に話を聞いた時点でかなり前向きでしたね。ありがたいなと思いつつ「どうなるんだろう?」というワクワクもありました。

元吉:アーティストの楽曲を朗読劇にするという話自体は、わりとあるんですよ。最初にその話をいただいた時は「あぁ、ありますよね」と思ったんですけど、その後に「ORANGE RANGEさんで」と聞いて「えぇっ!? マジで?」って(笑)。初めてプロデューサー陣と話をした時「え? 『キリキリマイ』で1話やるってことですか? 『キリキリマイ』言うてるだけで話終わりますけど大丈夫ですか?」みたいな(笑)。

どういうふうに本にしていくか? そこは衝撃を受けましたね。ORANGE RANGEさんというチョイスがちょっと攻めすぎてて…初めて聞いた際の言葉は本当に「マジで?」でしたね。

――メンバー間で反対意見や懸念する声はなかったんでしょうか?

RYO:企画自体を最初に「やる」ということだけ聞いたんですけど、何の曲なのか? どの曲でつくるのか? ということは聞いてなかったので、やっぱり「花」とかになってくるのかな? と思ってたんですけど、いろいろな曲をやると聞いた時に「あぁ、面白そうだな」と思って、そこからはみんな、前向きな感じでしたね。

――各話の楽曲(「キズナ」「花」「以心電信」「ミチシルベ 〜a road home〜」「上海ハニー」「おしゃれ番長 feat.ソイソース」)に関してはどのように決まったのでしょうか?

RYO:そこはどう決まったんですか?

元吉:作家(脚本家)をまず集めたんですが、集まった作家たちも演劇の中でジャンルがバラバラだったんですよ。三浦(香)さんは2.5次元をよくやられている方で、(福田)響志くんはミュージカル、谷(碧仁)くんは小劇場というちょっとアングラなところでやっているんですけど、共通するのは3人とも「青春がORANGE RANGEだった」ということでした。

まず集まって「何やりたい?」というところから始めました。僕が「*〜アスタリスク〜」が大好きで、全体的なテーマを「*〜アスタリスク〜」にしたいという話をした後、みんなでおもちゃを取り合うみたいにやり始めたんですけど、谷くんがマニアで、ものすごくマイナーな曲しか選ばなかったんですよ(笑)。「それはマズい」という話になりまして…「俺は知ってるけどね…」と(苦笑)。結局、みんなが知っている知名度のあるメッセージ性の高い曲をそれぞれが1曲、あとは本当に好きな曲を1曲ずつで、ひとり2話ずつ書こうということになりました。

RYO:なるほど。

元吉:最終的に選ばせていただいて、それが奇跡的に良いバランスだったので、そのまま走っちゃおう! ということになりました。意図せずこの形になった感じですね。それだけ(ORANGE RANGEの楽曲が)バラエティに富んでいるということですね。

――これらの楽曲を使用して、どのような朗読劇になるのでしょうか? 現時点で明かせる範囲での構想を教えてください。

元吉:朗読劇って「劇」であり、「見せる」ことがメインになるじゃないですか? でもこの“音”と“物語”を演劇の主役にできないか? というところから始まって、空間における声優さんの声と音、物語を目をつぶっていても楽しめる――単純に物語や音や交換される感情を「(制作側に)見せられる」のではなく、自分で「取っていく」というアプローチになるように、セットや映像表現などを選んでいるところです。

プラネタリウムで星を見ているような感じに近い、ラグジュアリーなものになればいいなと考えつつ進めているところです。

RYO:いや、もう今の話を聞いていても「なるほどな」と思うところがありました。自分たちの曲に関しても、いろんな曲調のものがあるぶん、自分から「入っていく」感覚というのは面白そうだなと思いました。

――選曲に関して、RYOさんはどのような印象を持たれましたか?

RYO:嬉しいのが「papa」(※「以心電信」の劇中で使用予定)とか「雨」(※「花」の劇中で使用予定)とかって、あまりフィーチャーされないんですね。ライブでは僕らは好きでやってて、“飛び道具”のような感覚でやってるので、そういうところが拾われているのは嬉しいですね。

あとは、最初の段階の台本を読んだ時に、曲を聴いてくれていたんだろうな…というのを感じ取れたのでそれが嬉しかったですね。世代が近いというところもあって、続けてきたからこそ、こう言うことができているんだなというのを感じ取れたので、それが一番嬉しかったですね。

――ORANGE RANGEさんは普段からどのように楽曲を制作されているんですか?

RYO:ゼロから始めてREC(収録)するまで2週間くらいでできることもあります。“降ってくる”というと出来すぎですが、自分たちの意志を押し通したというか…(笑)。

「花」なんかはRECまでわりと時間をかけて制作しましたね。映画の話とかも決まっていましたし、じっくりとボーカルも録ったり、半年くらいかな?
曲によって結構バラバラですね。印象としては、ポンポンっと早く作ったもののほうがライブでも活きてきたりとか、そういう割合が大きい気がします。

作詞はひとりひとり違うんですが、僕は「書く!」と決めたら朝までかかっても書き上げちゃいますね。HIROKIとかは、書けない時は「やめ!」って感じだし、YAMATOは完全に(歌詞が)“降ってくる”タイプの人で、YAMATOは作らないという時もあれば、YAMATOが書き上げるという時もありますね。みんなそれぞれバラバラです。

――書き上がった脚本を読まれての感想、ご自身が制作時に曲に込めた思いと重なる部分であったり、逆に「こう解釈するか!」と驚いた部分などがあれば教えてください。

RYO:「以心電信」と「papa」が使用されている話(「以心電信」)なんですけど、「papa」という曲は、僕らはコミカルに書いたんですね。「思い切り遊べる曲を作ろうぜ!」と。YAMATOが、サビに「パパが帰ってこない」とか「カブトムシ見つけた」とかRECで叫び始めて、あの時はわかんないままRECしてて、夜中にみんなでいいテンションでのRECだったので「いまのいいね!」とかって感じでやってたんですけど、(脚本は)結構シリアスな脚本になってて…(笑)。そこは面白かったですね。こういう変化を今回はとても楽しみにしていたところだったので、これは良いなと思いました。

――元吉さんは脚本家チームと物語を作っていく上で、ジャンルやシリアスorコメディといった部分に関してどんな話を?

元吉:いつも一番考えるのが「なんでこれを書いたのか?」ということなんですよね。シェイクスピアであれ何であれ、この作家はなぜこれを書いたのか? と考えるんですけど、それを考えた時、今回の物語はコメディであれシリアスであれ、自分の青春と被っている部分や自分のトラウマを乗せてきているなという部分を感じました。

まさに「以心電信」を書いた谷くんは、家族に対してすごいトラウマティックなものを持っているらしくて、そんな彼が曲に救われていたというのを物語を読んですごく感じて、そこはうまく演出的に引っ張ることができたら、メッセージが一番伝わるのかな…ということを考えながら、特に僕のほうでバイアスをかけるのではなく、作家がストレートに書いてくれたものを空間に投げつけることができれば“正解”に近いんじゃないか? と考えながら今回はやっています。

――ちなみに今回の公演、出演者が63名いるんですが…。

RYO:すごいですね…。

元吉:えぐいですよね(苦笑)。

――出演者のみなさんにどんな演出をしようと思い、どんなことを期待されていますか?

元吉:日本の声優さんって世界に誇るべきものだと思っていて。今回も出てくださる名塚(佳織)さんとか仲良くて、『ONE PIECE FILM RED』のウタとかもやっていらっしゃいますが、彼女自身がすごい量の物語に関わってきているので、すごい量の物語のストックがあるんですよね。だから今回、細かな演出をするというより、「思い思いに心を動かしてください」と言おうと思っていて、「ただし、心を動かさないというのはもったいないのでやめましょう」という形でやった時、どういう変化やどこに(思いを)込めるのか? という部分で、その人の辿ってきた人生やストックの部分によって全然違ってくると思うんです。それが薄い人は薄くても、それはそれで面白いものになると思うのでいいんですけど、僕はちゃんとルールを決めて、その中で思い思いにみなさん、音楽や場所を使って、映像を使って「遊んでください」とお伝えして、そこで化学変化が起こるんじゃないかということを信じています。欲を言うと稽古時間は欲しいですけどね(笑)。

RYO:ベテランの方もいらっしゃいますが、わりと若い方が多い中で、メいまの声優さんたちはレベルが高い印象を持っています。こういう場で、自分らの曲を絡めた時にどんな表現をしてくれるのか? しかも、いまお話を聞いていると、結構、自由度が利きそうなところがあるので、どういう表現になるのか非常に楽しみですね。

――改めてアーティストとしてのORANGE RANGEの魅力はどういうところにあると思いますか?

元吉:当時の僕の思い出からすると衝撃的で、まさに大学時代に、最初はRIP SLYMEの「楽園ベイベー(2002)」だったんですね、夏が。

RYO:はいはい(笑)。

元吉:その次の年に「上海ハニー(2003)」が出てきたとき、上海のハニーをナンパするだけの話でこんなに持っていけるんだ! とすぐに持っていかれまして(笑)、そこでもうひとつ衝撃的だったのが、僕にとってそれまで音楽とかアートとか、全て年上の世代から享受していたのが、同じ世代、いや、むしろ僕らよりも少し下の世代の人たちがカルチャーを持っていくということでした。僕らの世代で世界って変えれるんだってことを教えてもらったんですよね。だからこそ、この仕事をやろうと思えた部分がありました。それくらい、新しいものにチャレンジし続けていただいて、それが面白いものをどんどん取り入れていってくださるので、面白いと思うものを信じていいんだという勇気をもらえたりもしています。だからこそ、いろんなところにマッチするし、いろんなところで聴けるんだなと思います。

それまで僕はアートとエンタメって分かれているものだと思っていたんですけど、一緒でいいんだ! という破壊力をいただけたというのが、僕の中でずっと抱き続けている憧れであり、感謝でもあって、ORANGE RANGEさんが持っている魅力であり、だからぜひこの公演を通じてお客さんに「わかれよ!」と言いたいです!

――デビューから20年以上になりますが、ORANGE RANGEとして変わった部分、逆に変わらない部分について教えてください。

RYO:変わらない部分のほうが大きくて。もちろん変わった部分もあるけど、変わった部分はそこまで重要ではなくて、変わらない部分が大事で。誰かが好きなこと――曲にこんなテイストを取り入れてみたり、こんなこと言い始めた時、そこで「?」と出たとしても、一度、取り入れるんですよね。そこが変わっていなくて、一回、自分の中に取り入れる前に否定するんじゃなくて、取り入れてから「できる」「出来ない」を判断しようというのが、若い頃からできていたんですよね。他人に興味を持つメンバーが集まった感じで、うまい具合に固まっていけたのかな? と思いますし、それはいまも変わっていないし、間違っていなかったなと思いますね。受け入れる勇気、踏み出す気持ちといいますか。

――それはどういうところから生まれたものなんでしょうか? 若さがそうさせたのか、沖縄という土地がもたらしたものなのか?

RYO:それは全員が“スーパーアマチュア”の人間だったからだと思います。バンドマンとして叩き上げで(現場で)勉強することが先だという気持ちで、ひとりよりみんなで、ステージでやった方が早いという気持ちでした。

――それをいまも持ち続けられるのはどうしてなんでしょうか?

RYO:悔しさとかのほうがあると思いますね。思っていたよりもできなかったということもあったし、最初の10年くらいは悔しさばっかり。若いというのもありましたし。どこ行っても先輩バンドばかりで、みんなメチャメチャうまいし、カッコいいし…。(周囲が)みんな「売れた」って喜んでくれているのは嬉しいけど、それに自分たちのステージングのスキルが伴っていないというのは10年くらいずっと苦しみでした。それが良い方向に転んだ気がします。

――世間的には「上海ハニー」がドラマの挿入歌になって注目を集め、その後も次々とヒット作を世に送り出してブレイクしたという感じだったと思いますが、メンバーはみなさん、わりと冷静に自分たちを見つめていたということなんですね?

RYO:冷静というか、そこまで自分たちが追いつけていなかったですね。ミリオン達成とか、スタッフさんに言われた時、5人全員、そこまで喜んでなかったのは覚えてますね。それよりも明日の仕事、明後日のスケジュールみたいな事ばかり考えていて、喜んでいるのは周りだけ。それくらい疲れて切っていたのかもしれないですね。そこまで実感がわかないまま…。やっぱり、どうしても“ライブ”だったんですよね。良いライブができるかどうかが基本の部分の喜ぶ基準になってて、良いライブできる時はいいけど、ダメだった時の平均値を上げていかないといけないと考えてて、それが中心にあったと思いますね。

――年齢を重ねて、成熟が加わって、それがいまは良いバランスに?

RYO:そうですね。トゲトゲしかった変なトゲが抜けて、いまはいい感じになっていますね。

元吉:やっぱりすごいですね。絶対に天狗になるじゃないですか(笑)? 自分の道を歩き続けるって、「歩く」という行為がすごく大変なことだし、自分を傷つける行為じゃないですか? でもそこを実直にやられてきて、煮詰めてきてくださったからこそ、こういう多彩な音楽が作れているんだなと。凝り固まっていないんですよね、ずっと。アルバムも毎回、新しいことが入っていて、「こんなに素晴らしいんだ!」といつも思わせてくれるんですよね。

今回、改めて全てのアルバムを聴かせていただいて、同じ人が作っているの? と一瞬、思わせるようなところもありました。驚かせてくれるというだけで、どれだけ勇気づけられるか、というのもあるし、ここまで風呂敷を広げられるんだったら、僕ももっと思考しなくてはいけないと考えさせていただいてます。

ただ、そのベクトルが自分たちに向いているわけじゃなく、ちゃんと目の前のお客さんに向いているということがすごく大事だなと感じます。「守る」ということよりも、「前に!」「明日をどう進んでいくか?」というメッセージをいま、いただけた気がして、ヤベェ、明日から俺、頑張らないと!と感じています。

――朗読会に向けてメッセージをお願いします。

元吉:自由に受け取って帰っていただければと思います。「本当」って舞台上にあるのではなく、基本的に自分の中にしかないと思うので、この(舞台の)空間に入って、音楽を聴いて、声を聞いて、そこで自分の中での「本当」を探していただければ、見終わった後の人生がひとつ豊かになるんじゃないかと思います。それだけでいいというか、お話の内容を何も覚えてなくても、劇場を出た時に「自分はこうなんだ」ということを感じていただける空間にできたらといま、思っています。そうやって向き合っていきたいと思います。

RYO:僕はお客さんと同じ気持ちで観に行くと思います。ORANGE RANGEの曲の可能性みたいなものも見てみたいし、どうなっていくのかワクワクしています。素晴らしい才能が集結していますので、あとはそこを僕らも楽しむだけです。ありがたいことです。

【公演情報】
「-音読Stage- Story of Songs Track1 ORANGE RANGE」
開催日程:2023年2月8日(水)〜2月12日(日)
会場:ヒューリックホール東京
演出:元吉庸泰
脚本:三浦香、谷碧仁、福田響志
主催:Story of Songs製作委員会
(C) Story of Songs製作委員会

(執筆者: ときたたかし)