【漫画付き】赤ちゃんも普通に耳かきしてあげたほうがいい?
賛否両論が飛び交う「乳幼児への耳かき」。東京消防庁の発表によると、1歳児を中心とした、小さな子どもによる自傷事故が後を絶たないそうだ。こうした被害により、自宅での耳かきそのものに疑問を投げかける動きも出ている。そこで、はたのクリニックの波多野先生に、最新の動向も含めた是非を伺った。
監修監修医師:
波多野 篤(はたのクリニック 院長)
家庭でのケアは必要、ただし、耳の入口付近で十分
編集部
乳児の耳かきはママがやっても大丈夫なのでしょうか?
波多野先生
大丈夫だと思います。ただし、その際に、耳の中の皮膚を触りすぎると傷をつけてしまいますので、綿棒で軽くぬぐう程度にしましょう。お掃除するのは耳の入口付近のみ、見えている部分くらいで十分です。頻度としては、2~4週間に1回程度を目安にしましょう。
編集部
乳児のうちは「耳かきするな」という意見もあるようですが?
波多野先生
おそらく、海外の論文で「大体の人に耳掃除は不要であり、耳掃除のやり過ぎに注意」というものが発表されたからだと思います。しかし、ある程度の家庭でのケアは必要でしょう。例えば、たまった耳垢がプールに入った時に水でふやけて膨張し耳の穴をふさいでしまうことで聞こえにくくなったりしますし、中耳炎を起こしたときに耳あかが詰まっていると、耳の中が十分に見えず処置に困ることがあります。
編集部
お掃除は、耳の穴の手前側、半分くらいでいいのですね?
波多野先生
そのとおりです。耳の中の皮膚には自浄作用があり、耳あかを自然に外側へ出してくれるからです。加えて、耳の内側の皮膚には耳あかの原因となる「皮脂腺」や「耳垢腺」もあまりないため耳垢自体あまりたまりません。以上の理由から、入口に近い部分(外側)だけで十分だと考えています。
編集部
竹のヘラのような耳かきはどうなのですか?
波多野先生
日本人の4分の3くらいの人はカサカサの耳あかですから、竹製の耳かきを使う方が多いです。しかし、耳かきをする時に耳の中に分布する副交感系の神経を刺激することで「痛気持ちイイ」という快感がおこり、いずれ自分で耳かきするときに、ついついかきすぎてしまうことが懸念されます。耳の中の皮膚が傷付くと、そこから細菌感染により外耳炎などを起こしかねません。やはり、綿棒で軽くぬぐうくらいが適切なのではないでしょうか。竹の耳かきで必要以上に強くかかないようにしましょう。
不意に動くのが子どもの性分、突発的な事故に注意
編集部
ママが耳かきをするとき、注意したいことは?
波多野先生
やはり事故ですよね。子どもは耳かきをしている間でも急に動きます。また、小さなお子さんのご兄弟がいる場合、じゃれ合ったりぶつかったりすることも考えられるでしょう。できれば、邪魔されないような環境で、細心の注意を払いながらケアしてください。
編集部
事故によるケガとしては、どのようなものが考えられますか?
波多野先生
鼓膜の損傷です。鼓膜に穴があいた場合も感染などが起きなければ、8割くらいは自然に治りますが、一部には鼓膜にあいた穴の修復に手術が必要になることもあります。怖いのは、鼓膜の内側にある耳の骨を脱臼させたり、さらに耳の奥にある内耳というところを傷つけてしまうような事故です。内耳に損傷を起こすと難聴やめまいの原因になりますし、顔面神経が通っているのもこの付近です。外傷性の顔面神経マヒということも考えられるでしょう。
編集部
ほかにも注意点があったら、お願いします。
波多野先生
とにかく明るくて、子どもの耳の穴の中がよく見える環境でおこなってください。子どもの耳の穴が曲がっていて見にくい場合は、耳たぶを引っ張るとよく見えることもあります。
編集部
耳かきを子どもに任せていいのは、いつごろからでしょう?
波多野先生
一概に何とも言えませんね。大人でもそうですが、耳を触っていると「痛気持ちイイ」からといって、ついやり過ぎると、皮膚が厚くなって感覚を鈍くしてしまうのです。すると、少し触るくらいでは痛くなくなりさらに満足感が得られなくて、さらにガリガリこする。耳の中がかゆいと耳を触りすぎますが、触り過ぎると皮膚が傷ついて痒みをおこし、また触ってしまうという悪循環をおこします。自分で耳かきをし始めたときに、それとなく注意してみてください。
耳かきをしていて、こんな異変に気付いたら
編集部
どのような異変があったら、医師に見せるべきですか?
波多野先生
耳だれが出ていたり、痒みが強ければ、外耳炎や湿疹などの病気を起こしているかもしれません。時に、軟らかい耳あかを耳だれと勘違いすることもありますので、注意してください。本当の耳だれはドロっとしていて、独特の臭いがします。
編集部
耳の穴以外についてはどうでしょう?
波多野先生
耳の付け根付近に「別の小さな穴」が開いているとしたら、先天性耳瘻孔(じろうこう)という病気かもしれません。袋状のものが皮膚の下に埋もれていて、その袋の出口が小さな穴として耳の付け根付近に見られます。症状のないときは気にしなくてもいいのですが、感染を起こすと化膿して腫れて痛みを伴います。耳鼻科か形成外科を受診してください。また、アトピー性皮膚炎の場合、耳の下の付け根の部分が切れることもあります。
編集部
耳あかが詰まって取れないときは?
波多野先生
耳鼻科の医院で対応できます。ピンセットや鉗子(かんし)のような道具で耳あかをつまんで取ったり、先の細い管で吸い取ったり、薬で軟らかくするなどしてお掃除します。ただし、小さいお子さんの場合、怖がって見せてくれない場合があります。やはり、自宅でのケアがある程度は必要だと思います。
編集部まとめ
自宅での耳掃除をしないデメリットとして、「中耳炎などの症状があったとき診断を困難にする」「耳あかが詰まりすぎた場合、耳栓のようになりさらに水が入ってふやけて膨張してしまい聞こえにくくなる」などが考えられるとのこと。他方で、鼓膜を貫通するような事故にも気をつけたいところです。いつでも中止できるよう注意を払い、耳の入口付近に限定して、優しくケアしてあげてください。