数十億年前から銀河団をさまよう星が放つ「ゴーストライト」
多数の銀河が集まっている巨大な銀河団では、銀河の間をさまよう無数の星が幽霊のような光(ゴーストライト)を放っています。これらの星は、銀河団内のどの銀河とも重力的に結び付いていないようです。
【▲ハッブル宇宙望遠鏡の広視野カメラ3が捉えた2つの巨大銀河団「MOO J1014+0038」(左)と「SPT-CL J2106-5844」(右)。人工的に着色された青色は「銀河団内光」を捉えたハッブルデータを変換したもの。この淡い光は、銀河団内に散らばり、さまよっている星からの光がなめらかに分布している様子を示しています(Credit: SCIENCE: NASA, ESA, STScI, James Jee (Yonsei University) IMAGE PROCESSING: Joseph DePasquale (STScI))】
このような星が放つ淡い光は「銀河団内光(intracluster light)」と呼ばれています。
銀河団内光は、1951年に天文学者フリッツ・ツビッキー(Fritz Zwicky、1898 - 1974)によって「かみのけ座銀河団」で初めて検出されました。ツビッキー氏はかつて、この銀河団で微光を発する銀河間物質を観測したと報告しています。
かみのけ座銀河団は地球から約3億3000万光年先にあり、1000個以上の銀河を含んでいます。地球に最も近い銀河団の一つであるため、当時の小さな望遠鏡でも幽霊のような光を検出することができたのです。
近年行われた「ハッブル」宇宙望遠鏡による赤外線観測では、これらの星が何十億年も前からさまよっていたことが判明しており、銀河の中から星が剥ぎ取られるような一般的な銀河団間の活動が影響したものではないとのことです。また、銀河団が発する全ての光に対する銀河団内光の割合は、数十億年前から現在まで一定であることも明らかになっています。
「このことは、これらの星が銀河団形成の初期段階ですでに故郷を失っていたことを意味します」と、韓国のソウルにある延世大学のジェイムズ・ジー(James Jee)氏は語っています。
「これらの星が故郷を失った原因は正確にはわからず、現在の理論では今回の結果を説明できないものの、どういうわけか初期宇宙で大量に生み出されたのです」「初期の形成期には銀河がかなり小さく、重力による支配が弱かったので、星を簡単に放出した可能性があります」(ジー氏)
また、論文の筆頭著者である延世大学のヒョンジン・ジュ(Hyungjin Joo)氏は、「銀河団内の星の起源が解明できれば、銀河団全体の形成史の理解につながり、銀河団を包み込むダークマターの目に見えるトレーサーとして役立ちます」と語っています。
【▲冒頭の画像にカラーキー、方位矢印、スケールバーを加えた参考画像。カラーキーは集光の際に用いられたフィルター名。方位矢印の北は天の北極を指す。スケールバーは光年(ly)とパーセク(pc)を表示(Credit: SCIENCE: NASA, ESA, STScI, James Jee (Yonsei University) IMAGE PROCESSING: Joseph DePasquale (STScI))】
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Image Credit: SCIENCE: NASA, ESA, STScI, James Jee (Yonsei University) IMAGE PROCESSING: Joseph DePasquale (STScI)HUBBLE SITE - HUBBLE FINDS THAT GHOST LIGHT AMONG GALAXIES STRETCHES FAR BACK IN TIMENature - Intracluster light is already abundant at redshift beyond unity
文/吉田哲郎