(写真:イシダCM「Mattの中にひとりだけKUWATA」篇)

今年の三が日に放送された新CMの放送回数は1万2435回と過去20年で最多となり、“初売”を訴求するCM出稿がコロナ禍前の水準に戻るなど、年始は華やかなCM展開が目立った。以下、2023年最初のCM好感度調査より上位の顔ぶれを紹介する。

桑田真澄、Mattの親子が共演

1月前期の作品別CM好感度調査では、桑田真澄・Matt親子を起用した、計量機器大手のイシダの新CMが初の総合1位に輝いた。CMは工場でベルトコンベアに乗った大勢のMattが同社のX線検査装置を通り抜けていくシーンから始まる。

「Mattの中にひとりだけKUWATA」というナレーションが入ると、“Matt風メイク”を施された桑田が大勢のMattに紛れて登場。桑田はカメラ目線でほほ笑みながら検査装置に入るも異物として検出され、「アウトー!」という男性の声に合わせてラインから吹き飛ばされてしまう。ラストは「アウトかいな」と残念そうにつぶやく桑田に続けて、「はかりしれない技術を、世界へ。」というコピーや企業ロゴを映した。

本作は昨年の12月28日から年始にかけて放送され、通常のCMに加えて10本に1本の割合で見ることができるスペシャルCMもオンエア。桑田がボールを手に登場するもので、「似て非なるものの違いを見分ける」というCMのテーマに合わせた展開として注目を集めた。

50歳以上の女性を中心に幅広い世代から多くの支持を獲得。コミカルなストーリーやインパクトのある映像を評価する声が多かったほか「桑田真澄、Mattの親子共演にビックリ」「本当に仲の良い親子だなぁと思った」など、キャスティングに関する感想も目立った。

なお、イシダの「異物検出技術」をモチーフとしたCMは本作が3作品目となる。第1弾CMは大勢のおすぎの中に紛れていたピーコが検査装置で発見される内容で、ちょうど10年前の2013年1月前期のCM好感度調査で2位にランクイン。2014年12月開始の第2弾CMは長髪にサングラス姿の内田裕也の中から、スーツとネクタイを着用した内田が検出されるというストーリーが話題となるなど、いずれもユーモラスな展開が好評を博した。

2位につけたのはKDDI『au』のCMだ。毎年恒例となる元日にスタートした「三太郎」シリーズの新作で、TikTokなどで人気のアーティスト・meiyoの歌うオリジナル楽曲『ココロ、オドルほうで。』をBGMに展開した。

織姫(川栄李奈)の見守る中、金太郎(濱田岳)が“金”と“愛”のプレートのどちらを選ぶか迷うシーンに続けて、黒と金のどちらの玉手箱がいいか悩む浦島太郎(桐谷健太)を見つめる乙姫(菜々緒)、魔女から渡された赤と緑のりんごを手にした親指姫(池田エライザ)とかぐや姫(有村架純)、普通の桃と大きい桃を見比べている桃太郎(松田翔太)と桃姫(村山輝星)が次々に映される。

“鬼ちゃん”(菅田将暉)が和太鼓を叩くと「♪ココロオドルの どっちどっち ゾクゾクするの どっちそっち」といった歌詞に合わせ、それぞれの場面でキャストたちが踊りだす。そして桃太郎が大きな桃を刀で切り、中から現れた灰を庭の木に投げると、桜が一気に満開となる。ラストは桜の舞い散る庭で和気あいあいとダンスをする三太郎たちを映し、「♪オドルほうで いいじゃん いいじゃん いいじゃんね」という歌や「ココロ、オドルほうで。」のコピーを重ねて締めくくった。

「迷ったら心踊るほう、という言葉がいい」などの声

CMソングの作曲・編曲はAimerの『残響散歌』などを手掛ける飛内将大氏、歌詞は三太郎シリーズのCMを担当するクリエーティブディレクター・篠原誠氏が手掛けた。さまざまな選択に迷う三太郎たちがこの楽曲に合わせて踊る姿を通して、「正しいとか、常識は少しお休みして『ココロ、オドルほうで。』いいじゃん」というメッセージを伝えたという。モニターからは「迷ったら心踊るほう、という言葉がいい」「ポップなメロディーで歌いたくなる」「明るい気持ちになった」などのポジティブな感想が多数寄せられた。

また同社の『UQ』のCMもヒットし、17位にランクインした。満島ひかりが“UQUEEN”、松田龍平が執事を演じるシリーズに岩下志麻が先代のUQUEEN役で登場するもので、重厚な世界観の中で展開するコミカルなストーリーが支持を集めた。

お正月の風物詩として長く親しまれているCMといえば富士フイルムの「お正月を写そう」シリーズで、最新作が5位にランクインした。

このシリーズは多彩なキャストも見どころで、本作には広瀬すずと横浜流星に加え、2022年に史上最年少の三冠王に輝いた東京ヤクルトスワローズの村上宗隆が出演した。振袖を着た広瀬が神社で初詣をしていると、目の前の引き戸が開きユニフォーム姿の村上が神様ならぬ“村神様”に扮して現れる。広瀬は戸惑うも「今年も日本中に幸せホームラン、届けてください!」と願いを込め、「幸せ」と書かれたボールを彼に向かって投げる。村上が豪快なスイングで打ち返したボールは無数に分かれて雲を突き抜け、庭で餅つきをしていた横浜がそのひとつをキャッチする。

ラストはスマホで村上とのツーショットを撮影した広瀬が、横浜から送られてきた彼の画像と合成し「今年はホームラン100本!」「目指せ100冠王!」「無茶ぶりです…」という3人のチャットのメッセージ付き画像を『INSTAX SQUARE Link』でプリントして楽しむ様子などを映した。

お正月らしいCMの数々

モニターからは「出演者が豪華すぎる」「村神様が神様になっているのが面白い」といったキャスティングに関するコメントや、「お正月らしくてとても良いCM」「このCMを見ると正月だと思う」などの感想が寄せられた。

このほか年始恒例のCMではサッポロビールの「大人エレベーター」シリーズも好評だった。世界的なピアニスト・反田恭平が“28歳大人代表”として登場し、音楽への向き合い方や人生観について妻夫木聡に語る60秒CMで、箱根駅伝の中継番組で12回オンエアされた。また、日本コカ・コーラ『コカ・コーラ』は今年の干支をパッケージにあしらった“うさぎボトル”を訴求するCMを展開。「家族をつなぐ新年の魔法」をコピーに、うさぎの家族が商品とともにお正月のごちそうを囲む様子をCGアニメで温かく表現した。

(関根 心太郎 : CM総合研究所 代表)