●ダメ兄から人間投資家へ…濃い役は引っ張られない

朝ドラ『ちむどんどん』(22年、NHK総合)で徹底したダメ男を演じ、その高い演技力で注目を集めた竜星涼。そんな彼が次に挑むのは、「“資産は人なり”。資産を手放す投資家はいない!」という理念を持つ、自称“人間投資家”だ。

きょう18日にスタートするフジテレビ系ドラマ『スタンドUPスタート』(毎週水曜22:00〜)は、投資会社「サンシャインファンド」の社長・三星大陽(竜星)が、さまざまな事情を抱えた人々と出会い、「スタートアップ(起業)しよう!」と声をかけ、再び生きる希望を取り戻させていく“人間再生ドラマ”。

『ちむどんどん』は「#ちむどんどん反省会」が流行語大賞にノミネートされるほど注目を浴びたが、「どう批判されようが肯定されようが、やってやったぞってぐらいの感覚なんです」と語る彼の内面や、今作の見どころ、そして“スタート”についての考え方などを語ってもらった――。

『スタンドUPスタート』に主演する竜星涼 撮影:蔦野裕

○■小手先の技術より泥臭く演じたい

――まずは『スタンドUPスタート』の台本を読んだ感想からお願いします。

そもそも起業とか投資家、投資というワードは自分からとても縁遠いものだというイメージもあったのですが、原作のコミック、台本を読んだ上で、実はとても身近な存在なんだなと感じました。スタートアップ、起業するということは、自分のいろいろな未来を広げる一つの手段。それをコメディタッチで分かりやすく見せる作品ですので、これまであるようでなかった、斬新なドラマになりそうだという手応えを覚えました。

――演じる上で意識しているのは。

今回は人間ドラマであり人間再生ドラマ。毎回、ゲストの俳優さんが扮するワケありの人たちをスタートアップ、人生のやり直しをさせるというところで、目の前の人をどう動かすかと考えたとき、小手先の技術よりも、本気でその人を立ち上がらせたい、そう意識しながら、熱量を持って泥臭く演じていきたいと思っています。

――三星大陽という人物に共感する部分は?

僕、わりとしゃべると社交的だねって言われるのでそういう部分は似ているかな。大陽ほどズカズカと行けないですが、相手が受け入れてくれるなら僕もそうしたい。憧れる部分もあります。

――どのような役作りをされたのですか?

僕が本当に起業する人かのように、投資と起業に関する本をありったけ読みました。もし万が一、自分が独立をするという場面があったとしたら、役立つかもしれませんね(笑)

(C)フジテレビ

○■どう批判されようが肯定されようが…

――“人は資産だ”というセリフがありますが、竜星さんにとっての“資産”は?

やっぱり人と人とのつながりじゃないでしょうか。2022年は朝ドラの『ちむどんどん』をすごく長い期間やらせていただき、まあそれが本当に、良くも悪くもいい意味で注目されながら見てもらえたということは、僕にとってはとても大きかったんです。それも『昭和元禄落語心中』(18年、NHK)をきっかけに呼んでもらえましたから。でも、そこに甘んじることなく、僕はニーニーという役柄を脚本通り演じた。それをどう批判されようが肯定されようが、やってやったぞってぐらいの感覚なんですね。今回も、(『ちむどんどん』で演じた)ニーニーと同じくらい個性が強いキャラクターなので、そこでまたガラッとイメージを変えたいです。

――役の切り替えはどうしているのですか?

違う作品に入るときは、ます自分が演じる役柄のことをいろいろ探って書き出していきます。そうすると自然と前の役が抜けていくんですね。特に、ニーニーの場合は一つの武器として沖縄弁というものがあったので、それが標準語に変わるだけでもフォーマットが変わってきます。あとは、ニーニーほどの濃い役を演じると、その反動で逆に引っ張られすぎないといいますか。

――逆に引っ張られないんですね。

逆にそうです。ニーニーは本当に人を巻き込むタイプで、大陽という役柄もその点では同じなのですが、ニーニーは結構自由にやってもいいキャラクターでした。それは暢子(黒島結菜)という主人公がいるからこそ、その脇のスパイスとしてやれるからです。でも今回は主人公。現場における役割の違いによってまたお芝居も変わってきます。台本に書かれている通りのことを演じるという点では変わりませんが。

●アナログで泥臭い向き合い方を大事にしたい



――昨今は、人を“資産”ではなく“コスト”と考える風潮があります。そんな中で“人は資産”という言葉は強烈なアンチテーゼになるのではないかと思うのですが、どうでしょう?

僕はそこまで友達が多いほうではありません。でもだからこそ、「この人はファミリーだ」と思う人たちをとても大切にしています。今はデジタルの時代ですが、やっぱり僕は人とは会って、対面で話さないと腹の底は伝わらないと思っています。結果とか数字というものは当然、起業としては大事です。だとしても僕は、それ以前の過程での熱量とか、人と人との間に生まれるエネルギーみたいなものを大事にしたいし、大事にしてきたからこそ、今回の大陽の役柄が来たのではないかとさえ思います。結局、人を動かすのは“人”。人って本当に大切なんです。

――それを聞いて以前、中井貴一さんから伺った話を思い出しました。中井さんは「役者というものはどれだけデジタル化が進んでいってもアナログな職業なんだ」と。アナログを強く意識しているからこそ、中井さんはあれだけ素晴らしい演技を見せられるのではないか。それと似た感覚を竜星さんにも感じたのですが。

そうですね。どう自分の本心に向き合うか。この作品で言えば、大陽も起業して結果や数字を出すというより、人を立ち上がらせ、自分と向き合うことを重視し、そこから「変わろう」という意思を導き出している。そこから出たその人の「答え」を、(自分の考えの押し付けではなく)受け止めるというのが大陽という人物ですので、お芝居の上でも、そうしたアナログで泥臭い相手への向き合い方を大事にしたいと思っています。



○■若い頃は人のせいにしていた自分がいた

――竜星さんは元々はパティシエをされていました。そこから役者へとリ“スタート”されたわけですが、そこに葛藤や不安はなかったのでしょうか。

もちろん不安は必ず出てきますし、若いときは早く売れたい、早くいろんなことをやりたい、俺はやってやるぞと意気込んでいて、それがうまくいかないとどんどんすり減っていく自分がいました。オーディションに落ちたときも、悔しがっていた20代があったおかげで、今はちゃんと自分の負けを認められるようになった。人のせいじゃなく、自分のせいなんだ、と。そんな自分を振り返って現在の自分と向き合ったとき、まずは自分の格好悪さを認めることが、新しいスタートに立つ上で重要なのではないか、という考えに至っています。

――では、最後に視聴者へメッセージをお願いします。

見てもらったらスッキリしてもらえるような痛快なドラマになっていると思います。もし現状に満足してない人がいらっしゃったとしたら、ここから「変わってみよう」と背中が押せる作品になっていると思いますので、ぜひご覧ください。







(C)フジテレビ

●竜星涼1993年生まれ。2010年にドラマ『素直になれなくて』(フジテレビ)で俳優デビューし、13年に『獣電戦隊キョウリュウジャー』(テレビ朝日)でドラマ初主演を務めて以来、幅広く活躍。主な出演作に映画『orange -オレンジ-』『シマウマ』『君と100回目の恋』『先生! 、、、好きになってもいいですか?』、ドラマ『小さな巨人』『ひよっこ』『アンナチュラル』『昭和元禄落語心中』『テセウスの船』『ちむどんどん』など。長身を生かしたモデル活動にも積極的で、パリ・コレクション、ミラノ・コレクションなど日本に留まらない活躍を見せている。

衣輪晋一 きぬわ しんいち メディア研究家。インドネシアでボランティア後帰国。雑誌「TVガイド」「メンズナックル」など。「マイナビニュース」「ORICON NEWS」「週刊女性PRIME」など。カンテレ公式HP。メルマガ「JEN」。書籍「見てしまった人の怖い話」「さすがといわせる東京選抜グルメ2014」「アジアのいかしたTシャツ」(ネタ提供)、制作会社でのドラマ企画アドバイザーなど幅広く活動中。 この著者の記事一覧はこちら