「脊髄損傷・脊椎損傷」の症状・原因はご存知ですか?医師が監修!
脊髄損傷と脊椎損傷の違いをご存じですか。
この2つの病名は似た名称をしているので、どのような違いがあるのか詳しくは知らないという方もいるのではないでしょうか。
脊髄と脊椎は別の部位を指す言葉であり、脊髄損傷と脊椎損傷の症状・予後・治療方法・リハビリの方法などは大きく異なります。
こちらでは、脊髄損傷と脊椎損傷の違いについて詳しく解説していきます。2つの違いやそれぞれの治療方法などについて知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
脊髄損傷・脊椎損傷の違いと症状
脊髄損傷・脊椎損傷の違いを教えてください。
脊髄と脊椎は似た言葉ですが、医学的には違いがあります。脊椎とは、背骨を構成する骨のことです。一方で、脊髄とは脊椎を通る神経を指します。脊髄損傷は神経の損傷を意味し、脊椎損傷は背骨の損傷(骨折や剥離など)を意味するという大きな違いがあるのです。
何が原因で脊髄損傷・脊椎損傷するのでしょうか?
脊髄損傷は脊椎の骨折や脱臼によって神経を圧迫することが原因で起こります。一方、脊椎損傷は、交通事故・高い所からの転落・転倒などによって脊椎に強い外力がかかることのほか、血行障害や腫瘍など外傷以外も原因となるのが特徴です。
高齢者の場合には骨粗鬆症で骨が脆くなり、転んだだけで脊椎を損傷してしまう場合もあります。
どのような症状が現れますか?
脊髄損傷では、損傷した神経が関与する手足の運動麻痺や感覚障害が出現します。損傷部位によっては排泄障害といって尿意や便意が分からなくなることがあるのも特徴です。また、脊髄損傷は障害の程度によって完全麻痺と不全麻痺に区分され、完全麻痺の場合には下肢を全く動かすことができず、感覚も消失します。
脊椎損傷では骨折部位に痛みが出現し、重度の場合には背骨が変形してしまうケースもあるでしょう。運動は正常でも感覚障害がある場合やその逆などのパターンもあります。
また脊椎損傷は、完全損傷と不完全損傷の2つの症状に分類されます。
完全損傷では、感覚知覚機能や運動機能機能が失われることも少なくありません。不完全損傷の場合は運動機能が残る軽症のケースもあれば、重症度の高いケースもあり、様々です。
脊髄損傷・脊椎損傷を疑った場合の応急処置を教えてください。
脊髄損傷、脊椎損傷ともに損傷した部位を固定することが重要です。しっかり固定することで損傷の広がりを予防ができます。脊髄損傷の場合、損傷部位の広がりが運動麻痺の重症度に直接影響するため損傷の広がりを防ぎましょう。
脊髄損傷・脊椎損傷
脊髄損傷・脊椎損傷はどのような検査を行いますか?
脊髄損傷、脊椎損傷ともにまずはレントゲン検査を行います。レントゲン検査を行うことで、損傷した脊椎の部位を特定することが可能です。さらに、脊髄損傷の場合にはMRI検査が必要不可欠です。MRIは脊髄の損傷部位をはっきりと写すことができます。MRI検査によって、重症度や予後を推定することができます。またCT撮影も行います。特に脊椎損傷の場合は、詳しい骨の位置関係などを調べるのに実施されることが多いです。
治療方法を教えてください。
脊髄損傷では、応急処置と同様にまずは患部を固定することが基本的な治療方法です。損傷によって不安定性のある脊椎の部分を固定し、必要がある場合には手術を行います。麻痺が残っている場合、身体の状態に合わせてリハビリテーションが行われます。一方で脊椎損傷の場合、軽度なら安静にすることが基本です。コルセットで固定し、前かがみの姿勢をとらないようにします。
また、強い力による脊椎損傷の場合には、患部を装具などで固定して早目に歩行訓練を開始するのが基本です。
脊髄損傷・脊椎損傷は手術が必要でしょうか?
脊髄損傷の場合、完全麻痺の場合には残念ながら手足の機能が元に戻る見込みはないため、基本的には手術適応とはなりません。しかし、症状の改善や悪化を防ぐ目的で、手術が行われることもあります。不全麻痺の場合で損傷している脊椎が脊髄を圧迫しているときは、圧迫を除去するための手術を行います。
一方で脊椎損傷の場合は、基本的には安静にしていることで骨折部位が治癒するため手術は行わないことも多いです。ただし、高度な圧迫骨折・骨折部位の不安定性が強い場合・脊柱管のすれや骨片による圧迫がある場合・痛みが残る場合などは手術を行います。
入院期間はどのくらいでしょうか?
脊髄損傷の場合、リハビリに時間を要するため入院期間が長くなるのが一般的です。脊髄損傷の場合、入院してのリハビリは150日を限度に行います。重度の脊椎損傷や頭部など他部位にも外傷がある場合は180日までとなる可能性もありますが、通常は150日までに退院することが多いでしょう。
リハビリの期間は損傷の程度によって異なりますが、一般的には150日程度を目安と考えておくとよいでしょう。脊椎損傷の場合、3週間から4週間安静にしていることで痛みが落ち着きます。
痛みが落ち着き、日常生活が送れるようになったら退院できるのが一般的です。長期間の安静による全身の筋力低下により著しく日常生活動作が困難になった場合にはリハビリが必要になり、入院期間が長くなるケースもあるでしょう。
脊髄損傷・脊椎損傷の予後
脊髄損傷・脊椎損傷は完治しますか?
脊髄損傷は神経の損傷であり、完全麻痺の場合には元には戻らず予後は期待できないのが一般的でしょう。不全麻痺の場合、脊髄の圧迫が残っている場合には手術で圧迫を取り除きます。一方で脊椎損傷の場合は安静にしていることで骨がくっつき、完治することがほとんどです。骨がうまくくっつかない場合には痛みが長引き、日常生活に支障をきたすこともあります。
脊髄損傷・脊椎損傷の後遺症を教えてください。
脊髄損傷の後遺症は損傷部位によって異なるため一概にはいえませんが、多くの場合運動麻痺や感覚障害が残ります。さらに、呼吸に関する筋肉が麻痺してしまった場合には呼吸障害が残り、人工呼吸器が必要になるケースもあるでしょう。また、排泄障害が残る場合もあり、自分で排泄ができなくなったり、排泄したいという感覚がなくなってしまったりする可能性もあります。そのような場合は尿を排出させるために尿道カテーテルを使用したり、オムツを使用したりすることが必要です。
いずれにせよ、脊髄損傷の場合には日常生活を1人で行うことができないほどの後遺症が残ることも多く、介護が必要な状態になる可能性が高いでしょう。
一方、脊椎損傷の場合は損傷部位の疼痛や脊椎の変形が後遺症として残る場合があります。強い痛みを原因に寝たきりになってしまうこともあるため、薬やリハビリによる痛みのコントロールが必要です。
リハビリはどのように行いますか?
脊髄損傷のリハビリは合併症予防、日常生活動作の獲得を目的に行われます。脊髄損傷の場合、合併症として床ずれ・関節拘縮・肺炎・尿路感染などが起こりやすいため注意が必要です。合併症を予防するために、床ずれや肺炎が起こりにくいよう姿勢を変えるポジショニングや、療法士が手や足を動かし関節が固まらないようにするリハビリを行います。
日常生活を送るには、残った身体の機能を最大限活用することが大切です。動かすことができる部位の筋肉のトレーニングや日常生活動作の練習を行います。身体の状態によっては車椅子生活となる場合もあるので、車椅子の操作を練習することもあるでしょう。
一方で脊椎損傷の場合には、安静により筋力低下が生じることがあるため、筋力トレーニングがリハビリの中心となります。特に高齢者の場合には、筋力が低下しやすく転ぶ危険性が高まるため、安静が解除されたあとのリハビリが重要です。
転倒予防のために、筋力トレーニングだけではなく歩行練習やバランス練習などを行います。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
脊髄損傷と脊椎損傷の違いについて解説しました。脊椎損傷も脊髄損傷も、どちらも避けたい大きなケガです。不慮の事故が原因の場合には防ぐことが難しいですが、転倒は予防することができるため普段から予防を心掛けて動作を行ってください。
特に高齢者の場合には足の筋肉が弱ってしまうことで転倒しやすくなっているので、日ごろから適度な運動を心掛け、転倒しないよう気を付けましょう。
編集部まとめ
交通事故や転倒などによって、脊髄損傷や脊椎損傷が起こることがあります。
脊髄損傷と脊椎損傷は似た名前ですが、脊髄は神経、脊椎は骨(背骨)の損傷であり、症状・予後・治療方法などが異なるため注意が必要です。
背骨の中の神経が損傷する脊髄損傷が起こってしまうと四肢を動かせなくなってしまう可能性もあるため、日ごろから転倒などの予防を心掛けましょう。
参考文献
「脊椎損傷」(日本整形外科学会)
「脊椎椎体骨折」(日本整形外科学会)