「埋伏歯」の原因・治療法はご存知ですか?医師が監修!

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埋伏歯は、一般的に「歯肉に埋まってしまっている永久歯」のことをいいます。乳歯とは違い自然と抜けることはないため、埋まっていてもそのままです。

正常に生えてこない永久歯ですが、これが口の中や他の歯にどういった影響を与えるのでしょうか?実は、他の健康な歯にも影響を与える可能性があるのです。

ここでは、埋伏歯の特徴や原因について解説します。また、診断方法と治療方法についてもご紹介します。

埋伏歯の特徴

埋伏歯とは?

埋伏歯とは、歯の一部もしくは全てが、歯肉に埋まって出てきていない状態のことをいいます。通常の歯は顎の骨を始点として歯肉から完全に歯冠(歯の上側)が突き出して生えてきますが、埋伏歯の場合は歯冠が歯肉から完全に突き出していません。歯肉の下に埋まって完全に見えなくなっている状態はもちろん、一部分だけ歯肉を被っている状態の歯も埋伏歯と呼びます。多くの場合、生え方が横向きだったり正常な位置でなかったり、普通の歯とは違う方向に成長してしまうのが特徴です。また、口の中に1つだけの場合と複数の歯が埋伏している場合があります。

埋伏歯が生じる原因は?

埋伏歯は、乳歯ではなく永久歯です。生える時期が極端に遅かったため、正常に生えるスペースがすでになく、結果として異常な生え方をしてしまうことが多くなっています。正常に生えないため、一部が歯肉を突き出せなかったり、完全に歯肉に埋まったままとなったりしてしまうのです。また、埋伏歯として見つかることが多い歯として、智歯(親知らず)があります。智歯は生えてくる時期が遅く、位置も歯列の最後方に生えることが多いことから、埋伏歯として見つかることが多くなるのです。

埋伏歯にはどのような種類があるか教えてください。

埋伏歯には、完全に埋まっている「完全埋伏歯」と歯冠が一部分だけでも見えている「半埋伏歯(不完全埋伏歯)」の2種類があります。完全埋伏歯は外側から見えません。顎骨の中に埋まっており、歯肉を被っています。そのため、触ってもわからないことが多いです。ただし、他の歯とぶつかって痛みを生じたり、膿が溜まったりすることがあります。膿が溜まると口の中でぷにぷにとした感触がありますが、歯は外側に出ていません。歯がないのに腫れているという違和感から歯科医を受診し、レントゲン撮影をして発覚というケースもあります。半埋伏歯は歯冠の一部だけが歯肉から見えている状態です。舌で触ると一部分だけ触れられるため、自力で気づける埋伏歯でもあります。半埋伏歯は歯の一部だけが露出しているため、歯磨きでのケアが難しいです。そのため、通常の歯よりも不潔な状態になることが多く、歯肉炎や虫歯のリスクが高くなるというリスクがあります。

埋伏歯の診断と治療

埋伏歯はどのような方法で診断しますか?

最初は触診と視診を組み合わせ、完全埋伏歯か半埋伏歯かどうかを判断します。その後、埋伏が完全か不完全かにかかわらず、レントゲン撮影を行います。半埋伏歯であっても、埋まっている部分がどうなっているか判断する必要があるためです。また、歯科用CT検査を行う場合もあります。これは歯根と顎骨の神経の関係をより詳しく調べるために行います。埋伏歯が生えている方向によっては、健全に生えている歯の神経に障っている場合があるためです。

埋伏歯の治療を受けたい場合は何科に行けばよいでしょうか?

歯科、もしくは口腔外科です。レントゲン撮影や歯科用CT検査を行うことが多いため、それらの設備があるクリニックに行くようにしましょう。治療方法によっては歯肉を切開したり、抜歯を行ったりする必要があります。その場合は口腔外科で処置を行うことが多いです。

治療はどのように行いますか?

埋伏歯の治療は、基本的に「外科的開窓」・「歯の牽引」・「歯の矯正」の3段階で行われます。まず外科的開窓で、歯肉を外科手術によって切開します。これによって埋伏歯を完全に露出させることが可能です。半埋伏歯では、まれに歯肉の切開だけで正常に生え始める場合があります。ただし、歯肉の切開だけで良いケースでの半埋伏歯は、正常な方向に生えていることがほとんどです。切開が終わり埋伏歯が見えたら、歯に器具をつけて牽引します。同時に、器具に矯正用のワイヤーをつけ、牽引と同時に歯列矯正を行います。外科手術による切開以後の手順は、ほとんど歯科矯正と変わりません。画像診断の結果歯の牽引や歯列矯正が不可能な状態と判断された場合は、抜歯を行うこともあります。いずれにせよ外科的処置が必要になることがほとんどです。

埋伏歯は抜歯することもあるとお聞きしました。

抜歯することはあります。抜歯が必要だと判断されるのは、埋伏歯の生え方から牽引が難しく、そのまま放置すると周囲の歯や骨に影響を及ぼすと考えられる場合です。この場合はすでに炎症が起きていることが多いため、まず歯肉炎の症状を抑え、なるべく平常な状態に保つことが必要です。その後、歯肉を切開し抜歯を行います。基本的には局所麻酔で対応しますが、全身麻酔で対応することもあります。また、埋伏歯は半埋伏歯でも完全埋没歯でも虫歯のリスクがあり、治療が難しくなります。そのために抜歯などを事前にしておく必要がある可能性があるため、歯科医の受診をし相談しておくと良いでしょう。

埋伏歯で気を付けること

埋伏歯が原因で口腔内に炎症が起こることがありますか。

半埋伏歯の場合、歯磨きが行き届かず汚れが溜まることが多いため、歯肉炎や虫歯を発症することが多いです。この半埋伏歯が智歯だった場合、「智歯周囲炎」と診断されることもあります。この炎症が埋伏歯の周囲だけでなく顎や口の中まで広がると、顔が腫れるといった見た目にも影響する症状が出ます。炎症が重症化すると開口障害になることもあるため、腫れが認められた時点で歯科医を受診するようにしましょう。完全埋伏歯の場合、炎症よりも膿の詰まった袋を形成することがあり、顎の骨と埋伏歯の間に腫瘍を形成することもあります。歯が生えていない部分の歯肉に腫れやできもののような突起を感じる場合、歯科医の受診を検討しましょう。

埋伏歯が歯並びに影響を与えることがありますか。

埋伏歯の方向や状態によっては、歯並びに影響を与えることがあります。埋伏歯が本来生えるはずだったスペースは、正常に生えてこないことによって空いたままです。その空いたスペースには、周りの歯が少しずつずれこんできます。それによって歯が倒れこんだり、かみ合わせが悪くなったりします。また、スペースが空いたままなら生えてくるはずだったのにスペースがなくなってしまい、結果として埋伏歯になることもあります。この場合は歯列を切開し、埋伏歯を牽引して歯列を治す手法が取られることが多いです。ただし、埋伏歯と他の歯の歯根の状態次第では、抜歯が行われることもあります。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

埋伏歯は、放置しておくと他の健康な歯に影響を与えることがあるため、見つけたら対処を考えたほうが良いでしょう。歯の定期検診などで埋伏歯を見つけたら、担当医とどう対応するのかを相談してください。ただし、埋伏歯全てに抜歯や牽引などの治療が必要なわけではありません。特に問題がないと判断された場合は、治療を行わないことが多いです。ですが、それを判断できるのは歯科医です。一見して特に影響がないと思われる半埋伏歯でも、見えない部分が正常でない場合があります。自分だけで判断せず、歯科医に相談するようにしましょう。

編集部まとめ

智歯(おやしらず)など永久歯がうまく生えてこず、一部または完全に埋まってしまっている場合は埋伏歯です。

特に気をつけたいのは半埋伏歯です。歯が一部露出しているため、日々のケアで磨き残しをしてしまい、炎症や虫歯を引き起こすリスクがあります。

全ての埋伏歯に治療が必要というわけではありませんが、目に見えない部分が影響を与えている可能性があります。

治療するかどうか判断するには、レントゲンなどの画像診断が必要です。歯科医に相談して、埋伏歯にどう対処するのかを検討しましょう。

参考文献

埋伏歯(まいふくし)( 日本口腔外科学会)