新メンバーオーディション『超特急募』で選出された4人を8月に迎え、9人組の新体制となったダンス&ボーカルグループの超特急が、12月24日に国立代々木競技場 第一体育館、結成記念日となる翌25日に大阪城ホールでアリーナツアー『新世界 -NEW WORLD-』を開催した。



9人となって初のワンマンライブということで、既存曲もすべてフォーメーションが組み替えられたうえに、優美な音色を奏でるストリングス隊との共演など新鮮な演出がてんこ盛り。新旧の楽曲をバランスよく織り交ぜたメニューでレベルも幅も格段にアップしたステージを見せ、24日には新体制初のアルバムリリース、25日には来年春の全国ツアーも発表し、詰めかけた8号車(超特急ファンの呼称)の前で新たな歴史の1ページを開いてみせた。



舞台上に設置された3面張りの巨大LEDモニターに5本、さらに4本の黒いバーが現れ、それぞれが枕木となってレールを円形に形作ると、漆黒のマントを目深にかぶった謎の男たちが次々と口元に笑みを浮かべるというモノクロームの映像が。メンバー紹介を兼ねていた従来のカラフルなオープニング映像とはまるで異なる、妖しくもデンジャラスな世界観で8号車に息を呑ませた次の瞬間、上昇するモニターの向こうから映像と同じ姿の男たちが前へと進み出る。そして記念すべき新体制初ワンマンを幕開けたのは『Re-TRAIN』。2012年に発表されたデビュー曲『TRAIN』に新しい命が吹き込まれ、9人仕様で生まれ変わったナンバーのイントロが一瞬ブレイクすると、マントを脱ぎ捨ててカメラを見据えた9人のアップがモニターに並び、特効の火花が新たな旅立ちの祝砲をあげる。


7号車のタカシ&新メンバーの11号車シューヤという不動のツインボーカルがステージ後方で仁王立ちし、朗々と歌声を掛け合わせる前で7人のダンサーがハードに踊るという構図は、史上初のメインダンサー&バックボーカルグループとして誕生した彼らが求めてきた本来の形。4号車タクヤがプロデュースしたイメージカラーのセットアップをそれぞれまとう姿も鮮やかで、ステージの下手で5号車ユーキが、上手で新メンバーの13号車アロハがバク転するという新体制ならではのダイナミックなパフォーマンスに、初っ端から度肝を抜かれてしまう。


一転、オルゴール音から始まった『Fantasy Love Train〜君の元までつながるRail〜』は、冬のアリーナツアーでも何度となく披露されてきた思い出深い楽曲で、歌とダンスの役割分担が明確にされたことにより、さらに端正な美しさが際立つ結果に。おまけに華やかにベルが鳴るクリスマスバージョンの『My Buddy』では、なんと5台のトロッコに分乗してアリーナとスタンド客席のど真ん中を最後方までくまなく一周。スタンドで「シューヤはMy Buddy」とタカシが歌えば、アリーナから「タカシはMy Buddy!」とシューヤが返して、メンバー9人+8号車色のピンクと合計10色のペンライトが輝く場内に新生超特急をお披露目していく。


そして「俺たちと8号車で最高の日にしようぜ!」(カイ)となだれ込んだ『Burn!』ではバッテンダンスの嵐を巻き起こし、クライマックスの大サビはメンバー9人全員で大合唱。パワーアップしたNEW超特急を観る者に叩きつけ、トドメとばかり銀河や雲海など壮大な映像をバックに届けたのは、12月18日に配信リリースされたばかりの最新曲『NEW WORLD』だ。今回のライブタイトルと同名の、いわばテーマソングとも言える本作は、力強いビートとタフなパフォーマンスが見どころで、そのリリックを借りるならば“風を切って、共に走り、理想の世界へ8号車を連れていくのだ”というメッセージがキモ。それは今、新たなスタート地点に立った超特急の確かな決意表明であるに違いない。



24日に「早くも感無量」とタクヤが告げ、結成11周年を迎えた25日には17歳のハルに対し「11年前、6歳だった子が同じメンバーとしてやってるなんて奇跡ですよ!」とカイが驚いてからは、新編成の魅力が露わになるスケールアップしたステージングで超特急の“新世界”へと出発する。



まずは弾けるように躍り出たアロハから、12号車のマサヒロがアダルトに、14号車のハルは切れ味鋭く、新メンバーがソロダンスでアピール。負けじとユーキが音に乗れば、4号車タクヤは妖艶に、2号車カイはスタイリッシュに、さらにリョウガは攻撃的にと、オリジナルメンバーも個性的なソロ&ペアダンスで魅了する。メンバーごとにトラックもダンスのイメージも変化するスペシャルなダンストラックは、7人それぞれの持ち味をしっかりと印象づけ、最後は全員そろって圧倒。


続いて9人体制となって初のシングル『宇宙ドライブ』を投下すれば、ユーキが振りつけた寿司ダンス&土下座ダンスにナンセンスなリリックといった超特急らしいコミカルさも、研ぎ澄まされたパフォーマンスや2人体制による余裕綽々のボーカルとのギャップで、より魅力的に映るのだから不思議だ。さらに初のオリコン1位獲得曲『超ネバギバDANCE』を、背後のモニターに9人の列が無限に並ぶ合わせ鏡のような視覚トリックで見せ、アリーナに突き出した花道を通ってセンターステージに出てからは、メカニカルな動きで「Star Gear」を全方位にパフォーム。どの向きであろうとも常に最後列を陣取り、ユニゾンとハモりを巧みに使い分け、歯切れよくラップを掛け合うタカシとシューヤには“バックボーカル”としての矜持が光っていた。


昨年末に発表されたアルバム『Dance Dance Dance』から『Cead Mile Failte』も1年越しで初披露され、アイリッシュポルカのフォーキーな音色と打ち上がるファイヤーボールを背に、緻密なフォーメーションとたくましいダンスは見ごたえ満点。


一転、煙るスモークと光の柱に囲まれた「Feel the light」では、ハイトーンで歌う2人を取り囲むように7人が舞うという神々しいまでに幻想的な光景を描き出し、楽曲のポテンシャルをいっそう引き出してくれていた。



ラブソングが並んだクリスマスらしいブロックでは、8人編成のストリングス隊と共演するという驚きの演出も。流麗なovertureが奏でられると、全身真っ白の衣装に着替えたタカシとシューヤが現れ、モニターに舞う雪をバックに澄み渡るアカペラで届けたのは『Snow break』。以前からシューヤが「歌いたい」と熱望していた曲だけあり、続いてストリングスの生演奏と共に紡がれるボーカルもエモーショナルな熱を帯びて、その切ない感情を全身で表現する純白のダンサーたちが床に崩れ落ちるという衝撃のエンディングが観る者の胸を震わせる。



さらに、超特急が11年前の初ライブで披露した『No More Cry』では、両脇で歌うボーカル組に挟まれてキビキビと踊る7人のシンクロ率の高いダンスに、時間の経過とグループの進化を否応なしに実感。純度120%のクリスマスソング『Sweet Bell』でも、巨大なクリスマスツリーが映る横で一瞬も動きを止めることなく、けれど満面の笑顔で踊り続ける7人と、自由自在なフェイクやハモりで曲を彩る2人に胸ときめかざるをえない。


汗だくになりながらも『颯爽とハローマイラヴ』を晴れやかに届け、会場を見渡したアロハが「デカい!」と感嘆すれば、シューヤが「タカシくんと歌ってるときがホントに楽しい!」と告白する場面も。ここまで“NEW超特急”を見せつけてきた彼らだが、終盤戦では新メンバーも容赦なく変顔して、ダサかっこいい“THE超特急”を叩きつけていく。


センターステージへと全員ダッシュする『SAY NO』を手始めに、言葉遊びの裏に鋭い世相批判を隠した脱力系ナンバー『BakaBakka』ではファニーな表情を全開に。鉄板曲『超えてアバンチュール』で再びトロッコでアリーナを一周する9人に向け、8号車がペンライトを大きく振りかぶれば、『バッタマン』で驚天動地の荒ぶりを繰り広げたのが最年少の現役高校生ハルだ。ド頭から「本気見せてくれよ!」と花道を全力疾走したかと思いきや、ステージを駆け回って雄叫びをあげたり、「8号車!」と渾身の叫びをあげて倒れこんだり。「悪いけど超特急ナメんなよ!」というタカシのキメ台詞も、然もありなんである。


だが、超特急のライブといえば“情緒不安定”がお家芸。最後は暗くなった場内に再びストリングスの音色が流れ、タクヤがタイトルコールしたのは超特急でも一二を争う愛の歌『Billion Beats』だ。それに先立ち、24日は「人間、いつ死ぬかわかりません。新メンバーの4人と出会えたのも、みんなと出会えたのも奇跡ですし、生きてて良かったと心の底から思います」と伝え、自身のみならずユーキやアロハ、ハルの涙腺を崩壊させる。


さらに11周年を迎えた25日には「カイ、同級生として支えてくれてありがとう。リーダー、いつも守ってくれてありがとう。ユーキ、いつも引っ張ってくれてありがとう。タカシ、大変なときもあったと思うけど、負けないで信じて歌ってくれてありがとう。そして新メンバー、これから一緒にこの9人で夢を掴みたいと思います。8号車の皆さんも信じてついてきてください」と、ありったけの感謝を表明。当然、その後のパフォーマンスは常にも増して熱いものとなり、互いに見交わしながら張りのあるフェイクで掛け合って、会場ごと温かく抱擁するようなタカシとシューヤの相性抜群なボーカルアンサンブルにも、確かな奇跡を見いだすことができた。



小粋なディスコポップチューン『Dance Dance Dancing』で、軽快にイキイキと踊ってみせたアンコールでは、9人それぞれから強い決意も語られた。



新メンバーは加入4ヶ月でアリーナに立つという奇跡を叶えてくれたオリジナルメンバー5人に感謝する一方、それに対する歯痒い想いも吐露して「これから5人の最初の頃と同じ道を辿るような気持ちで活動して、僕たちが同じ気持ちになったとき最強の超特急ができると思ってます」と話したのはアロハ。地元の熊本と東京を行き来しながら活動しているハルも、24日には「本当に大変だった。こんな最高の景色を見ることができて本当に嬉しいです」と涙を浮かべながら、25日には「夢である東京ドームに9人で絶対立ちますので、僕たちから目を離さずに応援してくれると嬉しいなと思います」と笑顔を見せた。シューヤは「ダンスボーカル界のツインボーカルといえば超特急の2人と言われるように歌っていく」と代々木で、さらに「オーディションのとき“いつか必ず俺を選んでよかったと思わせる”と言ったので、それをドームで言ってもらえるように頑張る」と大阪で宣言。マサヒロも「絶対東京ドーム行きましょう!」と微笑んでみせた。


オリジナルメンバーは結成記念日となった25日に波乱万丈の11年を振り返って、カイは「僕個人は人生の半分この世界にいて、そのうち11年が超特急と一緒だけど、楽しいから踊り続けてるし、8号車のことが大好きだし。一緒にいい景色見れるように努力していくので、お前ら全員見逃すなよ!」と熱っぽくコメント。リョウガは「8号車の皆さん、このメンバーで良かったと感じていますかね? 僕は正直ちょっと後悔してます!」と新メンバーを茶化しながら、「1ミリでもマイナス感情があったらこんな冗談言えないわけですよ! これからもくだらないことで笑っていけたらいいな」と彼流の表現で、4人に対し最大の愛情を示した。


さらにタクヤは「4ヶ月でここまでこれた4人に、同じ仲間として8号車の皆さんから盛大な拍手を贈ってほしい」と万雷の拍手を巻き起こし、「これから先もっと困難があるかもしれないし、心が折れかけることもあるかもしれないけど、ここにいるみんなが味方であることは4人も忘れないでほしいです」と伝えれば、「やる気で満ちあふれてる4人に先輩である自分も引っ張られました。ギャップを埋めるのは経験なんで、まずはフリーライブをしたい。来年は一緒にいっぱい困難、経験しようね!」と周りをビビらせたのはユーキ。そんな彼も24日には「いろいろと大変な時期に、こうして新しい仲間を迎えて突っ走れてるってホントに奇跡だと思います。こいつらとだったらマジで夢叶えられるんじゃないかって。今、心から楽しいし、わくわくしてます。2023年とんでもない年にしましょう!」と感極まっていた。



「こうやって新メンバーが入ってきてくれて、こんなに楽しいライブができて、ホントに幸せだなと思いました」というタカシは、最近、周りからも「笑顔が明るくなった」と言われるそうで、「同じボーカルのシューヤにも2人で歌うことがこんなに楽しかったんやって思い出させてもらったし、まだ諦められへん。時には背中を向けたくなることもあるかもしれないけど、それ以上に笑顔になれることもあるし、バックボーカルの1人でしかない僕だけど……みんなのことを全力で守りたいなと思ってます」と言い切って、シューヤの目を潤ませた。



そして「僕たちと一緒に来年も大冒険してくれますか? 明るい未来に向かって走っていきましょう!」と問いかけたのに続き、カイがタイトルコールしたのは、新メンバーが発表された8月8日のライブで、9人が初めて披露した『gr8est journey』。レールの先の先まで進むことを誓う旅立ちの歌は、まさしく今の彼らを表すにはピッタリで、ストリングス隊の壮大な生演奏をバックに身の引き締まるような緊張感が加わって、“僕が君の事 連れて行こう”というリリックを心から信じさせてくれる。


ラストは『走れ!!!!超特急』で9人連結しながらセンターステージに進み、ユーキが連続宙返りを決めると、声の代わりにペンライトを振る8号車と共に“We Are超特急!!”と高らかに名乗り。それもそのはず、号車順で電車ごっこの体勢になれば、真ん中に位置するのは7号車のタカシに11号車のシューヤというボーカル組であり、その間にはファンである“8号車”がいるのだから。


最後に9人揃って発した「ありがとう!」の声も驚くほどに分厚く、「これからも15周年、20周年とスピードを上げて、皆さんが見たこともないような道を、景色を走っていきたい」とリョウガが締めくくれば、最後の最後に「東京ドーム行くぞ!」とハルは投げキス。


そしてモニター上で24日には来年3月22日の5thアルバム『B9』リリースが、25日には来年5月から全国7都市を10公演にわたって巡るホールツアー『B9 Unlimited』の開催が発表された。2人のバックボーカルに7人のメインダンサーという体制を得て、望むものを望むだけ、望む形で表現することのできる状況は整った。9人となって初のアルバム&ツアーを足掛かりに、いよいよ超特急は“理想の世界”へと突き進んでいく。


原稿:清水素子

写真:米山三郎・深野輝美・冨田望