4人組アイドルグループ「テトラ」のセンター・実々花とガチ恋オタク・ケイタの“禁断の恋”を描いた作品『アイドル失格』(KADOKAWA)で、NMB48安部若菜が小説家デビューを果たした。


同書は、現役アイドルの手によって紡ぎ出される、切なくも希望に溢れた青春小説。「実話なのかフィクションなのか、ドキドキしながら読んでもらえたら」と読書の反応に期待を寄せる彼女に、「アイドルとオタクの恋」を描く難しさや作品への思い、将来の展望などを語ってもらった。


──まずは今回、小説を発売することになった経緯から聞かせてください。

自分で本の企画を考えて、出版社の方たちが集まる前でプレゼンをする「よしもと作家育成プロジェクト」という企画があったんですが、ずっと「小説を書きたいな」と思っていたので、その企画に出会って「これは運命だ!」と応募したのがきっかけです。


──小説への思いは以前からあったんですね。

文章を書くことが好きだったので、小学生くらいの頃から「小説を書きたい」という漠然な思いはあったんですが、何も行動せずにいました。それから何年も経って、NMB48のメンバーとして、これからどういう活動をしていこう考えた時に、改めて「小説を書きたい」と考えた矢先に企画のお知らせがあったので、大チャンスだと思いました。そこで、この『アイドル失格』のプレゼンをしたんです。


──物語を考えることも好きだったんですか?

頭の中でよく空想して遊んでいましたが、小説を書いたのは今回が初めてです。実際に書いてみたら全然イメージと違って、特に風景描写がすごく難しかったです。普段生きている中で起きる出来事も、改めて文字にするのって、こんなに難しいんだと思いました。匂いとか、音とか、部屋の大きさとか。そういうことをすごく意識するようになって、敏感に生きるようになりました(笑)。

衣装を着ている感覚とかステージからの景色とか、実際にアイドルになってみないとわからないところだと思うので、ライブ中とかも、これを文字にしたらどう書こうかなと思ったりしていました。


──衣装のレース素材が体に当たってかゆい感覚など、リアルな描写が印象的でした。

衣装の些細なことがストレスに感じるられる時もあるんですよね(笑)。結構、重かったり。普段はなんとも思わないことでも、ちょっと調子が悪い日にはすごく不快に感じられることも実はあるんです。けど、そういうことって普段はわざわざ口に出さないし、誰かが言っているのを見たこともないので、そういう裏側の部分も面白いんじゃないかなと思います。


──キャラクターそれぞれの人格はどのように作っていったのでしょうか。

最初に全員分の設定をノートにそれぞれまとめました。性格とか、生まれ育ちとか、趣味まで全部決めて、「この子だったらこんな行動をするだろう」という風に、一人ひとり考えるんです。話の都合でキャラクターを動かさないように、すごく気を付けました。


──漫画家さんなんかでも、キャラクターが意思を持って勝手に動くと言うことがありますよね。

ありましたね。アイドルグループのテトラのメンバーを書いている時は、特に書きやすかったです。キャラの設定がしっかり決まっていれば決まっているほど、書きやすくなるんだなと思いました。ただ、実々花だけはなかなか難しかったんです。


──それはなぜでしょう。

やっぱり、アイドルがファンに会いに行くということを自然に書くのは難しかったです。「会いに行く時ってどんな気持ちなんだろう」と心情を想像することも難しかったんですが、一番力を入れてこだわった部分でもあるので、ぜひ読んでほしいです。


──小説を書くとなったら、この題材で行こうと決めていたんですか。

そうですね。「アイドルとファンの恋愛」ということは早々に決まっていて、そこが注目される部分ではあると思うんですけど、中身としては「やりたいこと」「それぞれの悩み」「夢」という部分にすごく焦点を当てた作品なので、読んでみて、良い意味で「想像していたものと違う」「ただの恋愛小説じゃない」と感じてもらえたら嬉しいです。


──アイドルオタクのケイタの視点を書く時には、男性の心理を想像する難しさはありませんでしたか。

実はアイドルより、オタク側の視点の方がすらすら書けたんです。私自身、もともとアイドルが好きだったということもあったし、一時期アニメのキャラにめちゃくちゃガチ恋していたんです。その時のことを思い出しながら書いたり、実際に他のアイドルのイベントに行ってみて、その時の状況をメモしたりしました。

男の人の気持ちを知るために、他のグループのファンの人のSNSを「こんな風に思っていたり、こんなツイートしていたりするんだ」と見ていたりもしました。あとは、自分が今までにたくさん本を読んできたり、いろんな物語を見てきたことが基礎となっているかもしれません。


──小説は以前からたくさん読んでいたんですか。

小学生の頃からジャンル問わず、幅広く読み続けていました。今回、小説を書くにあたって、湊かなえさんや辻村深月さんなどの、少し闇のあるような心情を書くのが上手な方の作品を改めて読んだりもしましたが、ちょっとすごすぎて参考にはならなかったです(笑)。


──どれくらいの期間で書き上げましたか。

企画、構成を考え始めたところからだと一年半くらいですかね。ずっと締め切りに追いかけられ続けて、一生終わらない宿題のようでした。他のお仕事の合間に書くのはなかなか難しかったんですが、だんだんとペースが上がってきて、なんとか完成できて、本当にホッとしています。

朝起きて、家を出るまでの間にちょっと早起きして書いたり、お話し会の合間の時間に書いたり。締め切りがあるので、とりあえず一文字だけでも進めよう、と頑張りました。卒業生の吉田朱里さんは現役時代、他の仕事をしながら合間にYouTubeの編集をされていたので、改めてすごいなと思いました。


──アイドルで小説を書いている方といえば、元乃木坂46の高山一実さんや、NEWSの加藤シゲアキさんなどがいますが、そういう方たちの存在は気になりますか。

意識しました。どんな作品を書かれているんだろうと、高山さんの小説も読みました。じゃあ自分の色ってなんだろうと考えると、私は人の内面とか心情を書くのが得意なのかなと思って、2人の主人公の悩んでいることとか思っていることをより繊細に、どんな人が読んでも伝わるように書こう、という風に、自分の強みをすごく意識して書いていました。


──アイドルとファンの恋愛はデリケートな話題にも思えますが、現役アイドルの安部さんがそのテーマを扱う上で、気を遣ったことはありますか。

主人公がアイドルなので、自分に似た子にならないようにというのは心掛けました。あとは、ファン側の「アイドルのことを好き」という感情を書く時も、自分がそんな風にファンのことを見ていると思われるんじゃないかという恥ずかしさもありました(笑)。でもそこは、実々花とケイタのキャラをちゃんと立たせれば、自分と重ねられることもないと思って書きました。


──アイドルを書くけれども、自分とは重ならないように描いたんですね。

でも実は、自分と実々花が似ているところも多いんです。ちょっと自信がなかったり、進路とか将来に悩む部分は私と一緒ですね。もちろん私とは違うところもあるので、私とは別の、1人の人間として書けたんじゃないかなと思います。「実は実話なんじゃないの」と言われたりすることもあるんですが、そういう方には読んでもらって黙らせたいなと思っています(笑)。


──リアリティがあるだけに、そう感じる方ももしかしたらいるのかもしれませんね。

そうですね。「リアルすぎるぐらいリアルだった」と言ってもらえることもあるので、そこは嬉しい反面、ちょっと怖いような気持ちもします。

アイドルとして書いたし、作家としても書きました。本当に実話なのかフィクションなのか、ドキドキしながら読んでもらえたらいいかなと思います。


──今作のアニメ化、映画化などの展開についてもプレゼンをする機会があったそうですね。

はい。漫画化、アニメ化、映画化とどんどん繋がってほしいなと思っています。自分が書いたものが映像になることって本当に夢みたいな出来事だし、すごく難しいことだとは思うんですけど、可能性がゼロじゃないならできることはしようと思っています。この本がどんどん広がって映像化が実現したら、NMB48のメンバーに出てもらったりすることが今の一番の夢です。


──執筆する段階でそこまでイメージしていたんですか。

最初は本当に小説を書きたい、というだけでした。だけど、メンバーから「映画になったら出してな」と言われたりする内に、「そういう形でもしかしたらグループに貢献できるのかもしれない」と思って、今からドキドキして、想像しちゃいます。


──グループのメンバーですでに読んでくれた方はいますか。

小嶋花梨さんと上西怜さんは全部読んでくださって、感想もくれました。共感する部分もめちゃくちゃ多かったし、切なくてもどかしくなったり、悩みながら読んだと言ってくれました。普段、本はあまり読まないらしいんですけど、それでも「1日で一気に読んじゃった」「面白かった」と伝えてくれて、本当に嬉しかったです。

──今後も作家としての道は考えていますか。

これからも書きたいなとは思っています。まずはこの本が世に出て、どんな評価をされるのかというところではあるんですが、なんとなく「次はどんなものを書きたいかな」と想像して、ネタを書き溜めたりはしています。次はアイドルじゃない話を書いてみたいなと思っています。


──NMB48のグループ活動以外に、個人での活動をしたいという思いは以前からありましたか。

グループに入った当初はNMB48の活動で精一杯だったんですが、アイドルをしていると、「他にやりたいことは何?」と聞かれることがすごく多いんです。本当に毎週のように。


──それは運営のスタッフさんから?

そうです。目標とか、卒業した後はどんなことがしたいかとかを考えるんですが、私はそもそもアイドルがしたくてNMB48に入ったので、「自分は何がやりたいんだろう」と思ってしまいました。それで、改めて考えた時に小説にたどり着いて。そこはやっと見つけられたというか、救われたような気持ちになりました。


──アイドル以外に何がやりたいのか、というのはメンバーの皆さんも悩んでいたりするものなんですか。

メンバーも悩んでいますね。みんなでご飯に行ったら「目標ある?どうする?」と話すのは鉄板ネタと言えるくらいです(笑)。アイドルになったからといってゴールなのではなくて、その先もあるということは、アイドルにしかあまりわからないことかもしれません。私自身もアイドルが将来に悩んでいるなんて想像したこともなかったので、そこはこの本の内容にも一番反映された部分かなと思います。


──アイドル以外にやりたいことを、アイドルの運営さんに聞かれることがあるということ自体、意外に思いました。個人活動よりグループ活動を優先してもらいたいと考えるものかと。

グループの人気を上げるのにも、今は渋谷凪咲さんがバラエティで活躍されていたり、グラビアで活躍するメンバーがいたりするように、個人個人が別々の場所で戦って、最後にNMB48に帰ってくる、みたいなことで一人ひとりが強い集まりになったら、NMB48自体ももっと大きくなれるのかなって。そういうこともあって、個人の活動を求められることも最近は多いです。


──そういう意味では、安部さんの作家としての活動も、読書家の新しいファン層をNMB48で獲得できるかもしれませんよね。

そうですね。今までNMB48のことを全然知らなかった人にも名前を届けるチャンスだと思うので、本当に広がってほしいなと思います。


──では最後に改めて今回の本のアピールをお願いします。

アイドルとファンの恋愛をテーマにした作品です。アイドルも、ファンも、どっちも1人の人間としてすごく悩んでいて、でも恋愛を通して成長していくという希望を持てる内容になっています。改めて自分自身を見つめ直すきっかけになるかもしれない本なので、ぜひ読んでほしいです。それから、これだけはちゃんと伝えておきたいんですが、ゴーストライターじゃないです!


──(笑)。全部で自分で書いたんですね。

はい、本当に自分で全部書きました。むしろこんなに手助けがないものなのかと思ったくらいです(笑)。

アイドルとファン、どちらの目線もこだわりまくったので、アイドルになった気持ちにもなれるし、ファンがガチ恋する気持ちもきっとわかると思います。オタクじゃない人にもぜひ読んでほしいです!


取材・文・撮影:山田健史