2022年の世界的な景気後退によってTwitterやMeta、Amazonなどの大手企業が相次いで大量の人員削減を決行する中、動画共有SNSのTikTokが人員を約2000人まで倍増させる計画であることが報じられました。

As Meta and Twitter Lay Off Thousands in Bay Area, TikTok Plans to Double Staff - The Information

https://www.theinformation.com/articles/as-meta-and-twitter-lay-off-thousands-in-bay-area-tiktok-plans-to-double-staff

TikTok’s swooping in to grab laid-off talent - The Hustle

https://thehustle.co/11172022-tiktok-hiring/

As Meta, Twitter & Snap Swoon, TikTok Eyes Opportunity: ‘Marketers Have To Move Budgets’ | The Drum

https://www.thedrum.com/news/2022/11/17/meta-twitter-snap-swoon-tiktok-eyes-opportunity-its-the-platform-the-people

海外メディアのThe Informationは、Meta・Twitter・Amazonといった大手テクノロジー企業が従業員の大量解雇を余儀なくされる中、TikTokが採用を強化して従業員を約2000人に倍増させる計画だと報じました。人員増強によって製品開発への投資が進み、広告主にとってTikTokがますます魅力的なプラットフォームになる可能性があります。

TikTokの広告事業は非常に好調であり、2022年の年間広告収入は1兆円を超える見込みです。この額はTwitterやSnapchatといった競合他社を大きく上回っており、2019年と比較して2024年の広告収入が70倍になるという試算もあります。

TikTokの年間広告収入は1兆円超に達する見込み、Twitterのほぼ倍でTwitter+Snapchatをも上回る - GIGAZINE



特に、競合SNSのTwitterではイーロン・マスク氏の就任を受けて広告主が離れており、MetaもAppleのプライバシーポリシー変更によって広告ビジネスに大きな打撃を受けているという状況は、TikTokにとっての追い風になるとみられています。

デジタルマーケティング分析企業のU of Digitalでマネージングパートナーを務めるShiv Gupta氏は、「SnapchatとMetaにおける広告費の削減はTikTokにとってのチャンスです。なぜなら、マーケティング担当者はたとえ支出を引き下げたとしても、広告予算をどこかに移動させなければならないからです」とコメント。競合他社への広告支出が削減されると、その分だけTikTokへの広告支出が伸びる可能性があると主張しています。

また、TikTokは膨大なユーザーベースを抱えたブランド力のあるプラットフォームであり、「一般人がコンテンツを発信する」という環境も、広告費の獲得競争においての地位を強固なものにしているとのこと。「TikTokで購入品を宣伝したユーザーにキャッシュバックする」というマーケティングサービスを展開するSwaypayでCEOを務めるKaeya Majmundar氏は、「TikTokは一般の人々のプラットフォームであり、だからこそ強力なのです」と述べ、現代ではプロによって作られた「宣伝」よりも一般人が発信する「ストーリー」の方が好まれると指摘しました。

さらに、TikTokが広告プラットフォームとしての初期段階にあり、他のプラットフォームと比較して大まかなメディア測定しかできないという点も、ユーザーデータの広告利用を問題視する近年の風潮において利点になっているとのこと。メディア測定の欠点は広告主にとって不満の種でもあり、多くの企業は広告プラットフォームとしてのTikTokに納得していないものの、TikTokは広告製品のイノベーションに多額の投資を行って広告主へのアピールを続けています。



その一方で、TikTokはユーザーデータの取り扱いについて、規制機関から厳しい目を向けられています。2020年にはドナルド・トランプ前大統領がTikTokに対して「2020年9月15日までにアメリカ企業に売却すること」を要求し、これが後のジョー・バイデン大統領によって破棄された後も、政府機関によってTikTokの監視が続いています。

そんな中で2022年11月には、中国の従業員がヨーロッパのTikTokユーザーのデータにアクセス可能であることがプライバシーポリシーに明記されました。

TikTokが「中国人スタッフがユーザーデータを閲覧可能」と認める、ヨーロッパでのプライバシーポリシー更新で - GIGAZINE



アメリカ連邦捜査局(FBI)のクリストファー・レイ長官は11月15日、TikTokのアメリカ事業が安全保障上の懸念をもたらすと述べました。レイ氏は、「中国政府が何百万人ものユーザーデータ収集や、影響力の操作に使用できるレコメンデーションシステムをコントロールする可能性があります」と語ったほか、アプリを通じたデバイスの侵害にも懸念を示したとのこと。

US FBI director says TikTok poses national security concerns | World News,The Indian Express

https://indianexpress.com/article/world/us-fbi-director-says-tiktok-poses-national-security-concerns-8270913/



また、ユーザーデータの取り扱いだけにとどまらず、若年層が多いTikTokユーザーに与える心理的影響も懸念されています。2022年3月にはカリフォルニア州・フロリダ州・ニュージャージー州などアメリカのいくつかの州が、TikTokが子どもに与える心理的影響についての調査を開始しました。なお、中国政府は本土で提供されている中国版TikTokの「抖音(Douyin)」の使用を1日40分に制限していますが、世界中の平均的なTikTokユーザーは1日あたり95分もアプリを使用しているとのこと。

広告代理店・Momentum Worldwideの北米ディレクターを務めるLinda Xiao氏は、TikTokの成功はAIを利用したレコメンデーションシステムにあると指摘。ユーザーは高度に最適化されたコンテンツを自動でオススメされるため、過激なコンテンツの影響を受けやすいと主張しています。

広告主はユーザープライバシーやプラットフォームの健全性を重要視しており、TikTokもその点を認識していることから、近年はブランドセーフティへの取り組みを活発化させています。11月には、デジタルメディアの分析プラットフォームを提供するDoubleVerifyとのパートナーシップを拡大し、広告主に新たなブランドの安全・適合性測定ツールを提供することが発表されました。

海外メディアのThe Hustleは、「広告主にとってTikTokが大きな利益をもたらす可能性があるのは明白ですが、リスクがないわけではありません。それでも、多くの企業が賭けに出るでしょう。また、TikTokは規制当局からユーザーから見て安全で信頼できるプラットフォームの地位を確立するという点で課題があるものの、アプリは競合他社に差をつける強力な位置にあります」と述べ、今後もTikTokは広告シェアを拡大していくとの見方を示しました。