挑戦を続けるオダギリジョー、NHKでも攻めの姿勢 気になる「オリバーな犬」の今後は?
オダギリジョーが長年温めた企画をもとに脚本・演出・編集を手掛け、さらには犬の着ぐるみ姿でぐうたらな警察犬を演じて大きな反響を呼んだドラマ10「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」。20日から放送されているシーズン2には、前シリーズをしのぐ贅沢なキャスティングが実現し、発表時からSNS上でも大きな盛り上がりを見せてきた。NHKと「自分は対極にある場所だと思っていた」というオダギリが、ものづくりに対する変わらない思いやテレビドラマの新たな可能性を切り拓く本作での挑戦など、率直な胸の内を明かした。
「テレビドラマでやるからこそ意味がある」
本シリーズは、鑑識課警察犬係に所属する警察官・青葉一平(池松壮亮)が、相棒である警察犬オリバー(オダギリ)と共に不可解な事件の数々に挑んでいく物語。前シリーズは昨年秋に放送され、青葉と視聴者にだけ犬のオリバーが“おじさん”に見えるという不思議な設定や、予想を裏切る展開の数々で見る者を釘付けにした。
前シリーズについて、「映画やテレビ関係者からの反響がたくさんありました」というオダギリ。「今、テレビドラマってなかなか苦しい状況にあるじゃないですか。テレビ離れも進んでいますし」と現状を分析し、「であればこそのテレビドラマ、しかも『オリバーな犬』とは一番縁遠いと思われるNHKで発表するからこそ勝負のしがいがあると感じていました。だからこそ、『よくあんな作品が作れましたね』という感想が上がったんだと思います。でも僕自身、俳優をやっていても、安定を求めずに挑戦をしている作品に出会えるとうれしいし、そういった作品って応援したくなるんですよね」と思いを明かす。
「ただ視聴者の方が、ここまで受け入れてくれるとは思っていなかった」と素直に語りながら、「続編をやるにしても、映画や配信ではないなと。やっぱりテレビドラマでやるからこそ、意味があると思っていました」と本シリーズの原動力となっているのは、難しい状況に立ち向かうチャレンジ精神だという。
松田龍平&翔太の兄弟共演など、豪華なキャスティングが叶ったワケ
前シリーズから出演している面々はもちろん、続編から参戦したメンバーも「この人も出ちゃうの!?」と驚くほど豪華。構想から10年以上かけてきた本シリーズは、オダギリにとって「大切に育ててきた作品」だからこそ、「人気や流行りではなく、同業者として信頼できる人にしか関わってほしくない」とキャスティングにも並々ならぬこだわりを込めている。
独特なテンションの編集者にふんした松たか子については、「『大豆田とわ子と三人の元夫』でご一緒した時に、『松さんも、暇だったら遊びに来ませんか』みたいな感じで声をかけて」と微笑んだオダギリ。また、松田龍平と松田翔太が、キッチンカーで働く兄弟役として登場したことに歓喜した人も多いだろう。ドキュメンタリー映画以外での二人の共演は、今回が初めてのこと。オダギリは「『オリバー』ってちょっとお祭りみたいなところのある作品。だからこそ、二人も遊びで出てくれたんだと思います」と口火を切り、「龍平くんも翔太くんも、僕にとっては2000年代の日本映画界で一緒に戦ってきた戦友みたいな意識がある。『オリバー』は、そんな仲間である二人が共演する、いいタイミングになったのなら嬉しいですね」と思いを巡らせる。
オダギリは「インディーズや、ミニシアター文化にこだわりを持ち続けている僕が選ぶと、どうしても偏ったキャスティングになってしまうんです…テレビ的じゃないというか(笑)。今回はさらに、若くて勢いのある女優さんに参加してほしかった」と吐露。そこでプロデューサーからの推薦もあり選ばれたのが、好奇心旺盛な女性にふんした浜辺美波だ。オダギリは「インディーズ系の映画俳優と、大きな事務所の若手女優さんとでは、まったく違う景色を見てきたはず。浜辺さんがいてくださるだけで、作品にマイナスイオン的な風が吹くと思いました」と意図を明かす。
実力派俳優陣が躍動感たっぷりに個性豊かなキャラクターを演じていることが、本シリーズをパワフルなものにしている。「皆さん、楽しそうに演じてくれています」と称えたオダギリだが、なぜここまで豪華なキャスティングが実現したのだろうか?
「手前味噌ですがやっぱりこの作品対して、いろいろな可能性を感じてくれたんじゃないでしょうか。きっと皆さんも、今の時代におけるものづくりの窮屈さみたいなものを、日常的に感じているはずです。僕自身、それを爆発させるような作品をつくりたいと思っていました。『オリバー』の台本を読むと、『今の時代にこんなバカなことをやろうとしているヤツがいるんだ』と鼻で笑いながらも、嬉しさを感じてくれるんだと思います(笑)。そして、『テレビもまだ捨てたもんじゃない』と気概を感じてくれたのであればこの上ない幸せですね」
コロナ禍で変化した思いと、「オリバーな犬」の今後
インディーズ系の作品やミニシアター文化を愛し、そこにこだわりを持って歩みを進めてきたオダギリ。そんな彼が、NHKという老若男女が楽しむ公共放送でものづくりに挑んでいる。今年は連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」のジョー役でもお茶の間を楽しませてくれたが、「自分がNHKに出るなんて思っていなかった。自分とは対極にある場所だと思っていました」と、自身でもこの現状は意外である様子。
「ビジネス的にも、メジャーと言われる作品を避けて仕事をしてきました。テレビとして考えると、朝ドラはその最たるものに当てはまりますよね。僕がそこを避けてきたのは、おじいちゃんやおばあちゃん、子どもたちまで、視聴者の最大を考えて芝居をする事は、自分の突き詰めたい表現と相反していると思っていたからでした。どうしてもわかりやすい芝居を求められ、何かに挑戦する場所ではないと思い込んでいたからなんです」
そう語るオダギリだが、「その思いが、コロナ禍を経て軟化した」と告白する。「コロナ禍ではみんながみんな苦しんで、人生が変わってしまうような経験をしてきた。そこでいろいろなことを考えて、僕は、こういう時こそエンタテインメントの持つ力を信じたくなったんです。それと同時にメジャーと言われる、これまで背を向けてきたものを改めて見つめ直すきっかけになりました。自分の美学も大切だけど、この瞬間に少しでも誰かの助けになることができるのであれば、自分の変なこだわりを捨ててみようかと思ったんです」
こだわりを捨てて朝ドラに参加したことは、どのような経験になったのか。オダギリは「『カムカムエヴリバディ』は大阪制作の朝ドラでしたが、どこか『東京制作に負けるもんか』みたいな精神性があって(笑)。メジャーと言われる場所にだって、戦いながら、挑戦しながらものづくりをしている人がたくさんいるんだなと驚きました。そのこともうれしかったし、視聴者の方から『毎朝、楽しんでいる』という声もたくさんいただけて、少しは世の中の役に立ったのかなあと思っています」と新鮮な刺激を受け取っていた。
とはいえ、オダギリの根本的なものづくりの姿勢はまったく変わらない。「ものづくりは、挑戦です。例えば『ある船頭の話』という映画を監督した時は、映画関係者には評価してもらっても、興行にはなかなか結びつかない。今後もある時は叩かれたり、ある時は無視されたりすることもあるはず。でもやりたいことを追求して、挑戦していかないと意味がない」とキッパリ。
誰かを楽しませたい。そして挑戦を忘れないという今のオダギリの情熱が、惜しみなく注ぎ込まれているのが本シリーズだ。最終回となる6話の放送後は、さらなる続編を望む声がきっと上がるはずだ。「スタッフ、キャストの方々といい出会いができたからこそ、つくることができた」と改めて感謝を噛み締めたオダギリは、「もちろん大好きな作品ですし、やり続けたいという気持ちもありながら……」と切り出し、朝ドラに出演中に今回の脚本づくりに励んでいたことを振り返りながら「やっぱり脚本を書くのって苦しい作業なんですよ」と苦笑い。
「やりたい事が明確にあって、時間的余裕がある時に、次回作をやれたらいいなと。ただ『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だって3部作で終わりましたから(笑)。引き際の美学のようなものも、きちんと考えないといけないなと思っています」と語っていた。(取材・文・撮影:成田おり枝)
ドラマ10「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」シーズン2はNHK総合にて放送
9月20日、5話・27日、6話・10月4日 火曜よる10時〜10時45分
再放送は10月4日、11日午後3時10分〜3時55分(全エピソードをNHKプラスでも配信)