新車に義務化「EDR」全然活用されてない? 事故の証拠データが“宝の持ち腐れ” 国交相も危惧
新型車への装着が義務化された「EDR」という装置を知っているでしょうか。航空機のブラックボックスのようなものですが、実際の事故への活用が進んでいないことが判明。このままでは、ユーザーはコストを負担しているだけともいえます。
車両安全対策に役立つ、という国交省
自動車のEDR(イベント・データ・レコーダー)の搭載が2022年7月1日の新型モデルから義務化されました。4年後には旧モデルの新車(継続生産車)にも適用され、その対象は二輪車を除く約7800万台。でも、すでにほとんどの新車に装着済みなのに、なぜかほとんどの人が知らない。保安基準に盛り込まれた文字通りのブラックボックスは、このままでいいのでしょうか。
追突事故のイメージ。事故時の運転に関わるデータはEDRに記録される(画像:写真AC)
EDRは、車両の衝突時に、その前後数秒間の車両情報を数値として記録する装置です。数値を解析すると、事故状況を客観的に知ることができるため、航空機のフライトレコーダー(いわゆるブラックボックスの一部)のような役割を果たすと言われています。
EDRに記録されたデータの項目は、車両に加わった加速度、アクセルペダル開度(%)、エンジンスロットル開度(%)、エンジン回転数(RPM)、ステアリング操舵角、シートベルト装着状況、乗員検知など100種類以上に及びます。
例えば、ブレーキを踏んだのに止まらなかったなどの主張も、EDRに残るデータを解析すれば、運転者がどのタイミングで、どのくらいの踏力で踏んだのかも再現することができます。原因究明で無用の論争を省くことも期待できるのです。映像のように直観的に理解できるものではありませんが、知識を持つ人が分析することで、EDRを装着していない車両との関係も再現することが可能です。
ドライブレコーダーが視覚に訴える主観的なデータだとすれば、EDRは車両に作用する力がすべて数字に置き換えられた客観的なデータといえます。
国土交通省自動車局は、EDRのデータを匿名化して事故の傾向を分析することで、死亡事故などの減少に貢献できると、義務化に踏み切りました。
警察は使わない? 国交相「人材増やさないと」
ほとんどの事故は、目撃者がいたとしても、それは発生直後に注意を向けた人たちです。EDRはドライブレコーダーと同じように事故直前からの挙動を記録しているので、事故分析が変わる――と言いたいところですが、実は義務化される前から、ほとんどの新車に標準装備されていました。
「少なくとも2018年の時点で99.8%の新車に搭載されている」(同省自動車局安全・環境基準課)
もともとEDRは、正しくエアバッグが作動するかどうかなど、電子制御ユニット(ECU=Electronic Control Unit)で使用されるデータを記録する装置が前身でした。その後も衝突被害軽減ブレーキなど車両に搭載される安全装置の作動状況を記録するように進化。国際基準が定められたことをきっかけに今回、日本でも義務化されましたが、そもそも、クルマの諸機能が正しく作動していることを証明する記録装置としては使われていたのです。
しかし、ユーザーに役立つ活用は遅れています。個別の事故で運転責任を問う刑事、民事事件でも活用は進んでいません。本当は個別の事故分析でも使えるはずですが、警察などの捜査でも、ほとんど認知されていません。これほどまでに搭載が普及しているにも関わらず、自動車局が目標とした安全基準の改正に役立つ事故分析の実績は、10数例に留まると言われています。
事故分析研究機関である公益財団法人「交通事故総合分析センター」(ITARDA)にも問い合わせましたが、分析事例どころか活用方法ですら、依頼者の守秘義務を理由に説明は拒否されました。国民の安全(公益性)のために保安基準に盛り込まれた装置ですが、自動車ユーザーの負担が事故防止に役立っている説明はないままです。
斉藤鉄夫国土交通相は2022年9月2日の会見で次のように話しました。
斉藤国交相(中島みなみ撮影)。
「義務化は始まったばかりだが、EDRの存在はもっと国民、ユーザーに知らせていかなければいけないと思う。また、事故分析を実施する機関においてデータ分析できる人材を増やすことなどによって、さらにEDRデータが活用されるよう取り組んでいかなければならない」
EDRは記録データを抜き取り、活用しなければただの箱に過ぎません。今は搭載のコストだけを自動車ユーザーが負担させられているような状態です。