アメリカ航空宇宙局(NASA)は8月20日、半世紀ぶりの有人月面探査を目指す「アルテミス」計画について、最初の有人探査ミッションにおける13か所の着陸候補地を発表しました。


アルテミスは1960〜70年代に実施された「アポロ」計画以来となる有人月面探査計画で、永久影(太陽光が届かない範囲)に水の氷が埋蔵されているとみられる月の南極域を焦点に、宇宙飛行士による有人探査や探査機による無人探査が予定されています。同計画は月面での持続的な探査活動や将来の有人火星探査も見据えており、宇宙飛行士の飲用水などに利用できる水の氷の探査だけでなく、レゴリス(月の砂)から酸素を抽出する技術の実証実験なども計画されています。


【▲ 月に着陸したHLS(有人着陸システム)仕様のスターシップを描いた想像図(Credit: SpaceX)】


今回NASAが発表したのは、アルテミス計画で初めて有人月面着陸を行う「アルテミス3」ミッションの着陸候補地です。2025年の実施が予定されているアルテミス3では、2名の宇宙飛行士がスペースXの月着陸船「スターシップHLS」で月の南極域に降り立ち、1972年12月のアポロ17号以来となる月面での船外活動を行います。


発表された候補地の名称と位置は、以下の通りです。月の南極周辺にあるクレーターの縁(リム)や尾根(リッジ)、山塊(マシフ)、高原(プラトー)などが選ばれています。


・Faustini Rim A(ファウスティーニ・リムA)
・Peak Near Shackleton(シャクルトン・クレーター近くのピーク)
・Connecting Ridge(コネクティング・リッジ)
・Connecting Ridge Extension(コネクティング・リッジ・エクステンション)
・de Gerlache Rim 1(ド・ジェラルーシ・リム1)
・de Gerlache Rim 2(ド・ジェラルーシ・リム2)
・de Gerlache-Kocher Massif(ド・ジェラルーシ - コッハー・マシフ)
・Haworth(ハース・クレーター)
・Malapert Massif(マラパート・マシフ)
・Leibnitz Beta Plateau(ライプニッツ・ベータ・プラトー)
・Nobile Rim 1(ノビレ・リム1)
・Nobile Rim 2(ノビレ・リム2)
・Amundsen Rim(アムンゼン・リム)


【▲ アルテミス3ミッションにおける13か所の着陸候補地(水色)を示した図(Credit: NASA)】


着陸候補地の選定はNASAの科学者と技術者で構成されたチームが担当し、NASAの月周回衛星「LRO(ルナー・リコネサンス・オービター)」が取得したデータや、月に関する数十年に渡る研究成果が用いられました。


水の氷が埋蔵されているとみられる永久影から近いことに加えて、チームは着陸の成否にかかわる地形の傾斜、地球との通信のしやすさ、ミッション中の日照条件といった基準をもとに選定を行っています。特に太陽光は発電に必要であるとともに、月面での大幅な温度変化を抑えるためにも重要であることから、すべての候補地にはアルテミス3における月面での活動期間(6.5日間)を通して日照を確保できる着陸地点が含まれているといいます。


また、候補地へのアクセスのしやすさを判断するために、地球から月周辺への飛行に用いられる有人宇宙船「Orion(オリオン、オライオン)」や、オリオンの打ち上げに使われるロケット「SLS(スペース・ローンチ・システム)」、そしてスターシップHLSの性能も考慮されました。13か所の着陸候補地はすべて月の南極点から緯度6度以内(南緯84度以南)に位置していて、それぞれ約15×15kmの範囲があり、宇宙飛行士を乗せた月着陸船はその内側にある半径100mの着陸地点に着陸します。


今後、NASAは科学・工学の研究者と議論を重ねて各着陸候補地のメリットに関する意見を募る予定で、別の候補地が追加される可能性もあるようです。最終的に着陸地点が選定されるのはアルテミス3の打ち上げ日時が決定し、軌道や月面での環境条件が定まってからからになる見込みです。


なお、日本時間2022年8月29日には、オリオン宇宙船とSLSの無人飛行試験にあたるミッション「アルテミス1」の打ち上げが予定されています。無人のオリオンは月周辺を飛行した後、打ち上げから6週間後に地球へ帰還する予定です。


【▲ ケネディ宇宙センター39B射点に到着したSLS初号機。米国東部夏時間2022年8月17日撮影(Credit: NASA/Joel Kowsky)】


 


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Image Credit: NASA, SpaceXNASA - NASA Identifies Candidate Regions for Landing Next Americans on Moon

文/松村武宏