世界中で運用されている商用および軍用飛行機のエンジンの多くが、わずか3社で製造されています。プラット・アンド・ホイットニー、GE、ロールス・ロイスの3大メーカーについて、その成り立ちなどを紐解いていきます。

飛行機を飛ばしている(物理的な意味で)のはおもにこの3社!

 戦闘機、輸送機、旅客機といった飛行機が飛ぶための動力は2022年現在、一部の小型機を除きジェットエンジンがその主流です。このジェットエンジンを開発、製造しているメーカーとして有名なのがGEことゼネラル・エレクトリック、プラット・アンド・ホイットニー、ロールス・ロイスの3社で、ジェットエンジンの3大メーカーとも呼ばれています。


プラット&ホイットニー製エンジンを搭載する世界初の実用超音速機、F-100「スーパーセイバー」。写真はD型(画像:アメリカ空軍)。

 いわゆる西側諸国の戦闘機や、旅客機に関してはロシア機や中国機なども含み、世界の多くの飛行機が3社いずれかのエンジンを採用しているというこの現状、彼らは一体どういった経緯でこれほど大きなシェアを獲得するに至ったのでしょうか。

世界初の実用超音速機搭載エンジンを開発 プラット・アンド・ホイットニー

 プラット・アンド・ホイットニー(Pratt & Whitney)の社名は、1860年に会社を設立したランシス・プラット、エイモス・ホイットニーの名前からとられたものです。

 設立当初は、1861年から始まった南北戦争における北軍用の銃器の工作機械を製造するなどしていたそうです。1925(大正14)年に航空機用エンジン開発が始まり、のちユナイテッド・テクノロジーズ(現:レイセオン・テクノロジーズ)の子会社となって、いまに至ります。

 戦前の戦闘機用空冷レシプロエンジン「ワスプ」シリーズで、航空機エンジンメーカーとして頭角を現し、当時からアメリカの二大エンジンメーカーとして知られる存在でした。

 戦後になると、「JT3C」というターボジェットエンジンを開発します。当時、他を圧倒する出力を誇っており、世界最初の実用超音速機であるノースアメリカン F-100戦闘機に搭載されたほか、初期のB-52爆撃機にも採用されました。このエンジンをターボファン化した「JT3D」はB-52に搭載されるだけでなく、ボーイング707、ダグラス DC-8といった商用機にも搭載され、軍用では2022年現在も使用している航空機があるほどです。

 現在でも世界34か国の陸海空軍にエンジンを提供しており、第5世代戦闘機F-35「ライトニングII」用の「F135」、F-22「ラプター」用の「F119-PW-100ターボファン」、初期のF-15「イーグル」やF-16「ファイティング・ファルコン」が搭載した「F100」も同社のものです。

日本との関係も深いGEは軸流型タービンを開発

 GEの創業者はあのトーマス・エジソンで、かつては家電から医療機器、原子炉、軍事関係まで商う、世界屈指のコングロマリットと呼ばれていました。2022年現在は、全盛期よりは規模が縮小されているといわれますが、ジェットエンジンの供給企業としては重要な位置を維持しています。

 エンジン事業では、戦中からジェットエンジンの重要性に注目していました。1942(昭和17)年10月1日に初飛行した、アメリカ軍としては初めてのジェット戦闘機 ベルXP-59A「エアラコメット」のエンジンである「J31」はGE製でした。同じ1942年にアメリカ初のターボプロップエンジンも開発しています。


GEのJ31ターボジェットエンジンを搭載するP-59B「エアラコメット」(画像:アメリカ空軍)。

 戦後ジェット時代の幕開けを予感したGEはリスクを承知で莫大な投資を行い、1948(昭和23)年5月には「J47」を完成させました。このエンジンは軸方向に空気を押し出す軸流型タービンを用いており、現在のすべてのジェットエンジンの原型にもなっています。同エンジンは、F-86「セイバー」などのジェット戦闘機から巨大なコンベアB-36戦略爆撃機まで、幅広い機体に搭載され、総生産数3万5000基にも上り、史上最多生産台数を誇るジェットエンジンです。さらに同年には、ドイツから航空エンジニアのゲルハルト・ニューマンを迎え、可変静翼という超音速の飛行には欠かせない技術を世に送り出すことになります。

 現在でもF-15、F-16が使用している「F110」、F/A-18E/F「スーパーホーネット」やスウェーデンのJAS-39「グリペン」が搭載する「F414」などのエンジンが有名です。

 日本では2021年に全日空(ANA)が導入した新型のボーイング787をはじめ、日本航空(JAL)のほか国内航空会社の旅客機、航空自衛隊のF-2戦闘機ならびに政府専用機にもGE製およびライセンス生産のエンジンが搭載されています 。ほか、民間機としてはホンダジェットのエンジンも同社が開発に協力しており、そういった面では日本と関係の深い企業といえます。

自動車とは別会社 ロールス・ロイス

 企業名を聞くと自動車メーカーとしての印象が強いロールス・ロイスは、航空機エンジンメーカーとしても歴史が古く、1914(大正3)年に初めて航空機エンジンを開発し、スーパーマリン「スピットファイア」戦闘機に搭載された「マーリン」エンジンも同社製でした。

 ジェットエンジン開発にも戦中から力を入れており、現在もジェットエンジンの主流である「軸流式」とは違うタイプの「遠心式ジェットエンジン」を研究し、戦後に「ニーン」という遠心式ジェットエンジンを開発します。

 ロールス・ロイスは1971(昭和46)年、自動車の技術革新の失敗や旅客機用の新型エンジン「RB211」の開発コスト増大で一度、経営破綻し国有化されます。この際に自動車部門と航空機エンジンの部門は切り離されました。自動車部門はヴィッカースへ売却され、紆余曲折の後、2022年現在はBMWの傘下になっています。一方、国家戦略上の重要事業である航空機エンジン部門は国営企業として存続しました。


ロールス・ロイス製「トレント」エンジンを搭載するANAのA380「フライングホヌ」(2022年7月、乗りものニュース編集部撮影)。

 やがてRB211を完成させ、その本格的な供給に動くものの、1980年代当時はGEとプラット・アンド・ホイットニーの2社にほとんどシェアを奪われた状態でした。1987(昭和62)年にサッチャー政権下で再度、民営化され、起死回生のエンジン「トレント」シリーズを生み出します。トレントシリーズはエアバスA340、A380などに搭載され、現在も世界で1万3000基超が運用されており、ワイドボディ旅客機向けエンジンでは受注残の50%超を占めています。

 実は「ハリアー」の「ペガサス」エンジンや「オスプレイ」のターボシャフトエンジンも同社製です。また、同社も前出した2社と同じように自衛隊機および海上保安庁機の主要なエンジン供給企業で、たとえばYS-11やUS-2飛行艇のターボプロップエンジンは同社製です。

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 特許の塊であるジェットエンジンは、全く新しいものを開発するのが困難で、かつては3社だけで全航空機エンジンのシェア60%以上を占めていました。しかし現在、低環境負荷技術の面での特許の獲得が旅客機用ジェットエンジンビジネスでは重要とされているなか、フランスのスネクマとGEの合弁会社であるCFMなどが3社に続く形で業績をのばしています。日本のIHIも国産エンジン開発を進めており、近い将来3大メーカーの優位は揺らぐことがあるかもしれません。